『ガンダム』、リアルロボットという革命 第3話:スポンサーからの叱責
作者のかつをです。
第十五章の第3話をお届けします。
クリエイターの描く理想とスポンサーが求める現実。
マジンガーZの時には幸福な化学反応を生み出したその関係が、ガンダムの時には完全な断絶と対立を生みました。
今回はその決定的な決裂の瞬間に焦点を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
玩具メーカーの企画会議室。壁には来年放送予定の新作アニメのキャラクターやロボットのデザイン画が貼られている。企画担当者が熱弁をふるう。「このロボットの変形ギミックはこれまでにない複雑な機構を採用しており、玩具としてのプレイバリューは過去最高です。アニメ本編でもこの変形シーンを象徴的に描いてもらうことで、子供たちの購買意欲を最大限に刺激します」。
私たちは、「アニメと玩具の緻密な連携」を当たり前のヒットの方程式として認識している。
しかし、かつてその方程式を完全に無視したクリエイターの暴走が、スポンサーとの全面戦争を引き起こした物語があった。
日本サンライズの会議室。
その空気は凍りついていた。
部屋の中央には富野由悠季、安彦良和、大河原邦男ら制作スタッフ。
そしてその正面にはメインスポンサーである玩具メーカー「クローバー」の担当者たちが腕を組んで座っていた。
彼らの前には大河原がデザインしたモビルスーツの設定画が並べられている。
連邦軍の白い主役機「ガンダム」。
そして敵であるジオン軍の緑色の量産機「ザク」。
クローバーの企画部長の顔は怒りで赤く染まっていた。
彼はテーブルを叩かんばかりの勢いで叫んだ。
「話が違うじゃないか、富野監督!」
「我々がお願いしたのは『ダイターン3』のような分かりやすく格好いいスーパーロボットだ! なんだこの地味なロボットは!」
彼の怒りはもっともだった。
彼の会社は『マジンガーZ』の大成功によって生まれた「超合金」という大ヒット商品を持っていた。
彼らが求めていたのは第二のマジンガーだったのだ。
「まずこの色だ! なぜこんなおもちゃらしくない色を使うのかね! 赤、青、黄色。ヒーローの色はそう決まっているんだ!」
「そしてこの敵のロボット! なんだこの一つ目の醜い怪物は! こんなものが格好いいと思う子供がどこにいる!?」
「極め付けはこれだ! なぜ敵も味方も同じ『モビルスーツ』という規格の兵器なんだ! 主役機は世界にたった一つの特別な存在でなければ子供は憧れないんだよ! 量産機などという設定は今すぐやめてくれたまえ!」
スポンサーからの罵声は止まらなかった。
それは富野たちが心血を注いで作り上げた「リアルな戦争」という物語の根幹そのものを、全否定する言葉だった。
量産兵器だからこそ戦争の現実感が生まれるのだ。
敵も味方も同じ人間だからこそ物語に深みが生まれるのだ。
しかしそんなクリエイターのこだわりなど玩具屋には関係のないことだった。
彼らにとって重要なのはただ一つ。
「おもちゃが売れるかどうか」
会議は完全に決裂した。
クローバーの担当者たちは怒り心頭で席を立った。
「富野監督、よく考え直すことだ。このままでは我々はスポンサーを降りることも考えている。そうなれば番組そのものがどうなるか、分かっているのかね」
それは最後通牒だった。
後に残された富野たちは重い沈黙に包まれた。
サンライズの上層部からは当然スポンサーの意向を受け入れるように強い圧力がかかるだろう。
自分たちの理想の戦争は始まる前に終わってしまうのか。
しかし富野の目はまだ死んでいなかった。
彼の反骨の魂はこの屈辱を決して忘れてはいなかった。
「……やるぞ」
彼は静かにしかし力強く言った。
「奴らの言うことなど聞く必要はない。俺たちの信じる面白さを貫き通す。それで潰されたなら本望だ」
それはあまりにも無謀な宣戦布告だった。
クリエイターの純粋な魂が巨大な商業主義の論理に、正面から戦いを挑んだ瞬間だった。
その戦いの先に待っているのが輝かしい勝利か、それとも無惨な敗北か。
まだ誰も知る由もなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
このクローバーとの確執はガンダムの伝説を語る上で欠かすことのできない重要なエピソードです。この対立がなければガンダムは全く違う作品になっていたことでしょう。
さて、スポンサーとの対立を抱えたまま見切り発車でスタートするガンダム。
その船出を待っていたのはあまりにも残酷な「数字」という現実でした。
次回、「視聴率という名の敗北」。
ヤマトと同じ悲劇が再び繰り返されます。
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