『ガンダム』、リアルロボットという革命 第2話:これは戦争だ
作者のかつをです。
第十五章の第2話をお届けします。
ガンダムがなぜ革命的だったのか。
その核心となる重厚な世界設定がいかにして生み出されていったのか。
今回はその奇跡の化学反応に焦点を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
あるアニメのファン投票の結果が発表されている。「好きな敵キャラクターランキング」。その一位に輝いたのは主人公の宿命のライバルとして最後まで立ちはだかった仮面の男だった。ファンは彼の悲しい過去や信念に共感し、時に主人公以上に熱狂的な支持を送る。
私たちは、「敵にも正義がある」という重層的な物語構造を当たり前の深みとして楽しんでいる。
しかし、かつてアニメの敵がただ倒されるためだけに存在する醜い怪物でしかなかった時代があった。その単純な二元論を初めて打ち破り、敵に「人間」の顔を与えた物語があった。
富野由悠季の頭の中では新しい物語の骨格が急速に組み上がっていった。
それはもはや「アニメのお約束」というぬるま湯に浸かった子供だましではなかった。
それは彼がこれまで吸収してきたSF小説や歴史小説、そして戦争映画の知識と哲学の全てを注ぎ込んだ壮大な叙事詩だった。
舞台は宇宙世紀。
増えすぎた人口を宇宙に移民させた未来。
地球に住むエリート層「地球連邦」と宇宙移民「スペースノイド」との間に生まれた軋轢。
やがてその軋轢はスペースノイドの独立を掲げる「ジオン公国」による独立戦争へと発展する。
その冒頭ジオン公国は「コロニー落とし」という非人道的な大量破壊兵器を使用し、地球に壊滅的な打撃を与える。
ヒーローアニメの第一話が主人公の故郷が無慈悲に破壊されるという、絶望的なジェノサイドから始まる。
その設定だけで、すでに常識を逸脱していた。
主人公は正義感に燃えるヒーローではない。
アムロ・レイ。
戦争を嫌悪する内向的でメカいじりだけが趣味のただの少年。
彼が偶然連邦軍の新型兵器のコックピットに座ってしまったことから物語は始まる。
そしてその新型兵器。
それは無敵のスーパーロボットではなかった。
それは「モビルスーツ」と呼ばれる人型の機動兵器。
戦車や戦闘機と同じ、ただの量産型の「兵器」の一つに過ぎなかった。
その設計を担当したのは若きメカニックデザイナー、大河原邦男。
彼は富野の要求に応え、それまでのヒロイックなロボットとは全く違う無骨で機能美に溢れた工業製品としてのデザインを作り上げた。
そして何よりも革命的だったのが「敵」の描き方だった。
敵であるジオン軍もまた邪悪な侵略者ではない。
彼らには彼らの正義があり、祖国を守るという大義があった。
そしてそこに所属する兵士たちもまた、家族を愛し仲間を思いやる血の通った人間として描かれた。
特に主人公アムロの前に立ちはだかる宿命のライバル、「シャア・アズナブル」。
彼は赤いモビルスーツを駆り仮面で素顔を隠したミステリアスなエースパイロット。
しかしその仮面の下には地球連邦への深い復讐心と、そして妹への愛情という人間的な葛藤が渦巻いていた。
絶対的な善もなければ絶対的な悪もない。
それぞれの正義がぶつかり合う悲劇。
それこそが「戦争」なのだ。
富野はそのあまりにもリアルでそしてビターな現実を、子供向けのロボットアニメというフォーマットの中で描き切ろうとしていた。
その壮大な構想は、キャラクターデザイナー安彦良和の美しくそして憂いを帯びた絵柄によって完璧な命を与えられた。
鬼才、富野由悠季。
天才、安彦良和。
そして奇才、大河原邦男。
三人の才能の化学反応によって、かつてないリアルな戦争の物語が生まれようとしていた。
問題はただ一つ。
スポンサーが、そして時代の子供たちが、このあまりにも大人びた物語を受け入れる準備ができているかどうかだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この「敵側にもドラマがある」という視点は、ヤマトのデスラー総統の影響も大きいと言われています。文化は常に影響を与え合い進化していくのです。
さて、完璧な設計図は描かれました。
しかしその革新的な設計図は最大の壁と正面から衝突します。
次回、「スポンサーからの叱責」。
クリエイターの理想と商業主義の現実。その避けられない戦いのゴングが鳴ります。
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