ヤマト、発進せよ! 第6話:熱狂が歴史を変えた日(終)
作者のかつをです。
第十四章の最終話です。
ファンが歴史の主役になったその輝かしい瞬間。
今回はその熱狂がいかにしてその後のアニメ文化、そしてファン文化そのものを形作っていったのか、その壮大な繋がりを描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京・新宿。
ある人気アニメの劇場版公開初日。シネコンの前には早朝からグッズを求めるファンの長蛇の列ができている。スマートフォンの画面には「〇〇(作品名)興収100億突破!」というニュース速報が流れる。ファンは自らの「推し」の成功を我がことのように喜び、SNSに祝福のメッセージを投稿する。
私たちは、「ファンがヒットを作り出す」という幸福な共犯関係を当たり前の文化として享受している。
しかし、その文化の全ての原点となった、あまりにも熱くそしてあまりにも美しい伝説の一日があったことを知る者は少ない。
1977年8月6日。
その日は日本の若者文化の歴史が永遠に変わった一日として記憶されることになる。
劇場版『宇宙戦艦ヤマト』公開初日。
前日の夜から全国の主要な映画館の前には異様な光景が広がっていた。
寝袋を持ち込み路上で夜を明かす若者たちの長蛇の列。
彼らは自分たちが歴史を動かしたその記念すべき瞬間に、誰よりも早く立ち会いたいと願っていた。
その光景は新聞やテレビのニュースで驚きをもって報じられた。
「アニメ映画に徹夜組殺到!」
社会の大人たちは初めて知ったのだ。
自分たちの知らないところでこれほど巨大な若者たちの熱狂のエネルギーが渦巻いていたという事実に。
そして映画の上映が始まった。
テレビシリーズの再編集版。
ファンにとっては何度も観たはずの物語。
しかし映画館の巨大なスクリーンと迫力の音響で観るヤマトの旅は、全く別次元の感動をもたらした。
クライマックス。
沖田艦長が最後の力を振り絞り地球へとメッセージを送るあのシーン。
館内のあちこちからすすり泣きが聞こえる。
それはもはや単なる映画鑑賞ではなかった。
一つの儀式だった。
ヤマトを愛する仲間たちと同じ空間で同じ涙を流し、同じ感動を分かち合う聖なる祝祭だった。
映画は配給会社の予想を遥かに超える記録的な大ヒットとなった。
興行収入は21億円。
それは当時のアニメ映画としてはおよそ考えられない驚異的な数字だった。
この一つの成功が全てを変えた。
「アニメは儲かる」。
その事実を全ての企業が認識した。
「アニメは子供だけのものではない」。
その事実を全てのメディアが認識した。
そして何よりも。
「ファンの力は歴史を動かす」。
その事実を全ての作り手が認識した。
打ち切りという烙印を押された一隻の宇宙戦艦。
その沈没しかけた泥の船を救い出し伝説の方舟へと押し上げたのは、決して作り手でも企業でもなかった。
それは名もなきファンの一人一人の純粋な「好き」という想い。
その小さな想いが集まりやがて社会の常識をも覆す巨大なうねりとなったのだ。
歴史は遠い過去の記録ではない。
あなたが今当たり前のように行っている「推し活」。
好きな作品を応援するためにグッズを買いイベントに足を運び、そしてSNSでその魅力を発信する。
その全ての行動の原点にそれは確かに息づいているのだ。
かつて自分たちの愛する物語を救うために声を上げ署名を集め、そして徹夜で映画館に並んだ名もなき若者たちの熱い熱い魂が。
あなたが作品を愛するその気持ち。
それこそが歴史を動かす力になるのだということを、彼らが初めて証明してくれたのだから。
(第十四章:ヤマト、発進せよ! ~再放送が起こした奇跡~ 了)
第十四章「ヤマト、発進せよ!」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
この『宇宙戦艦ヤマト』の熱狂は「第一次アニメブーム」と呼ばれ、ここから日本のアニメは大きくその姿を変えていくことになります。まさに全ての始まりの号砲でした。
さて、ヤマトが切り拓いた新しいアニメの地平線。
その遥か彼方から、ついにあの白いモビルスーツが姿を現します。
次回から、新章が始まります。
**第十五章:立てよ、国民! ~『ガンダム』、リアルロボットという革命~**
勧善懲悪ではない戦争の現実。
ヒーローではない兵器としてのロボット。
ヤマトが作り上げた熱狂の土壌の上で一人の鬼才が、全ての常識を破壊する革命を起こします。
その革命の名もなき戦いが始まります。
引き続き、この壮大な旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第十五章の執筆も頑張れます!
それではまた新たな物語でお会いしましょう。
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▼作者「かつを」の創作の舞台裏
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