ヤマト、発進せよ! 第5話:劇場よ、動け
作者のかつをです。
第十四章の第5話をお届けします。
ファンの声がついに物理的な力となり社会を動かす。
今回はそんな歴史の大きな転換点となった、伝説の署名活動の物語に焦点を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
あるカルト的な人気を誇るアニメの劇場版公開を求める署名サイトが立ち上がっている。目標人数は10万人。「私たちの愛する物語の続きを大きなスクリーンで観たい!」。そのシンプルな願いに共感したファンたちが次々と署名を行い、その輪はSNSを通じて世界中に広がっていく。
私たちは、「ファンの声が続編を生み出す」という現象を当たり前のムーブメントとして知っている。
しかし、かつてそのムーブメントの全ての原型となった、あまりにもアナログでそしてあまりにも熱い戦いがあったことを知る者は少ない。
プロデューサー西﨑義展は戦っていた。
彼の戦場はもはやテレビ局ではなかった。
彼はヤマトの物語をテレビシリーズの再編集という形で一本の「映画」として蘇らせたいと考えていた。
そしてその企画書と山のようなファンレターを武器に、都内の大手映画会社の門を叩き続けていた。
しかしその門はどこも固く閉ざされていた。
映画会社の重役たちの反応は一様に冷淡だった。
「西﨑さん、熱意は分かりますがね。しょせんテレビで一度放送したアニメでしょう?」
「そんな中古品をわざわざお金を払ってまで映画館に観にくる客がいるとは到底思えませんな」
そこには当時のエンターテイメント業界に厳然として存在するヒエラルキーがあった。
映画は文化であり芸術。
テレビはその下にある大衆娯楽。
そしてテレビアニメなどそのさらに下の、子供向けのまがい物。
その分厚いプライドの壁は西﨑一人の力では到底崩せそうになかった。
「……もうダメなのか」
西﨑の心が折れかけたその時。
彼に救いの手を差し伸べたのは、彼が最も信頼する武器、すなわち「ファン」だった。
ヤマトの熱狂的なファンたちは本放送の終了後、自主的にファンクラブを結成し活動を続けていた。
その全国に散らばる無数のファンクラブが西﨑の苦境を知り、一つの大きなうねりとなって立ち上がったのだ。
「俺たちのヤマトを俺たちの手で劇場にかける!」
その合言葉の元、前代未聞の草の根運動が始まった。
彼らは自分たちでガリ版刷りのチラシを作り学校や職場で配り、署名を集め始めた。
「『宇宙戦艦ヤマト』の劇場公開を実現させる会」。
その運動は驚くべきスピードで全国に広がっていった。
同人誌即売会の会場で。SF大会のロビーで。
若者たちは声を枯らしながら署名を呼びかけた。
最初は嘲笑の目で見ていた大人たちも、そのあまりにも真摯で熱狂的な若者たちの姿に次第に心を動かされていった。
数ヶ月後。
西﨑の元に集められた署名の数は、数十万という途方もない数に達していた。
西﨑はその署名用紙の分厚い束を抱え、再び映画会社の門を叩いた。
「これが我々の声です」
その圧倒的な物量を前にして、映画会社の重役たちもついに沈黙せざるを得なかった。
これはもはや無視できない巨大な世論のうねりなのだ。
そこには確実に「金になる」市場が存在するのだ。
重役たちの目が変わった。
「……分かった。やりましょう」
ついに固く閉ざされていた城の門がこじ開けられた。
それは歴史的な瞬間だった。
作り手でも企業でもない。
名もなきファンの一人一人の熱い想いが、ついに巨大な社会のシステムを動かしたのだ。
受け身の消費者だったファンが自らの力で歴史を創造した、最初で最も美しい革命の始まりだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この署名活動の成功はその後のあらゆるエンターテイメントの世界に大きな影響を与えました。ファンの力は決して侮れない。その事実を業界が初めて思い知った瞬間でした。
さて、ついに劇場公開が決定したヤマト。
いよいよその熱狂が日本中を飲み込む伝説の一日がやってきます。
次回、「熱狂が歴史を変えた日(終)」。
第十四章、感動の最終話です。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。
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