ヤマト、発進せよ! 第4話:ファンレターの山
作者のかつをです。
第十四章の第4話をお届けします。
SNSがなかった時代。
ファンが自らの想いを届ける手段は手間と時間のかかる手紙だけでした。
しかしその一枚一枚に込められた熱量の重さは、現代の「いいね」とは比べ物にならない力があったのかもしれません。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
あるアニメ制作会社の公式お問い合わせフォームに一通のメッセージが届く。「先日最終回を迎えた〇〇、最高の作品でした。特に主人公が最後に見せたあの笑顔には涙が止まりませんでした。素晴らしい物語を本当にありがとうございました。スタッフの皆様の次回作を心から楽しみにしています」。その熱量のこもったメッセージを読んだ広報担当者は微笑み、その文章を社内のクリエイターたちに転送する。ファンの感謝の声は瞬時に作り手の元へと届き、彼らの次なる創作への力となる。
私たちは、その「ファンと作り手の幸福なキャッチボール」を当たり前の光景として知っている。
しかし、かつてそのキャッチボールが物理的な「紙」というメディアを通じて行われ、その圧倒的な物量が作り手の運命を変えるほどの力を持っていた物語があった。
『宇宙戦艦ヤマト』の再放送が続く日々。
プロデューサーの西﨑義展は相変わらず苦しい立場に置かれていた。
確かに一部の若者たちの間でヤマトが話題になっているという噂は彼の耳にも届いていた。
しかしそれはまだ社会的なムーブメントと呼ぶにはほど遠い、小さなさざ波に過ぎなかった。
彼の元には相変わらず業界の人間からの冷ややかな声ばかりが届いていた。
「西﨑さん、まだあの打ち切りアニメにこだわっているのかね」
「もうヤマトのことは諦めて次の企画を考えた方がいいんじゃないか」
彼の心は折れかけていた。
自分は本当に独りよがりな夢を見ているだけなのかもしれない。
そんなある日。
再放送を行っているテレビ局の編成担当者から一本の電話がかかってきた。
その声は明らかに困惑していた。
「西﨑さん、ちょっと大変なことになっているんですが…」
西﨑が慌ててテレビ局へと駆けつけると、彼は一つの部屋へと案内された。
その扉を開けた瞬間、西﨑は我が目を疑った。
そこは元々倉庫として使われていただだっ広い部屋だった。
その床一面が視聴者から届いたハガキと手紙で埋め尽くされていたのだ。
足の踏み場もないほどの紙の山。
その全てが『宇宙戦艦ヤマト』宛のファンレターだった。
「…なんだ、これは…」
彼は呆然と立ち尽くした。
そして震える手でその山の中から一通の封筒を手に取った。
そこには女子高生と思われる丸い文字でこう書かれていた。
「宇宙戦艦ヤマトのスタッフの皆様へ。毎週涙を流しながら観ています。古代くんと雪の恋の行方が気になって夜も眠れません。どうかヤマトをイスカンダルへ行かせてあげてください。そして地球を救わせてください。お願いします」
その手紙は便箋十枚にも及んでいた。
彼は次々と手紙を手に取った。
男子生徒からの緻密なヤマトの図解イラスト。
あるファンが自主的に作成した詳細な年表。
そしてその全てに共通して書かれていた言葉。
「ヤマトを終わらせないでください」
「続編を作ってください」
それは声なき声の叫びだった。
自分たちが愛する物語の命を救ってほしいという悲痛なまでの祈りだった。
西﨑の目から熱い涙が溢れ出した。
届いていた。
自分たちのメッセージは確かに届いていたのだ。
自分は決して一人ではなかった。
こんなにも多くの仲間たちが同じ船に乗ってくれていたのだ。
その瞬間、彼の心に再び闘志の炎が燃え上がった。
この声は決して無視させてはならない。
このファンレターの山こそが俺の最強の武器だ。
この熱量を、目に見える形としてあの頭の固い大人たちに突きつけてやる。
彼は段ボール箱にファンレターを詰め込むとそれを固く抱きしめた。
その重さはファンの想いの重さだった。
彼はその重さを背負い次なる戦いの場所へと向かうことを決意した。
その場所とは映画会社だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
このファンレターのエピソードはヤマトの伝説を語る上で欠かすことのできない象徴的な出来事です。まさにファンの声が作り手の心を動かした最初の瞬間でした。
さて、最強の武器を手に入れた西﨑。
しかしその武器が映画会社という巨大な城の門をこじ開けることはできるのでしょうか。
次回、「劇場よ、動け」。
ファンの声がついに社会を動かします。
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