ヤマト、発進せよ! 第3話:火をつけたのは中高生だった
作者のかつをです。
第十四章の第3話をお届けします。
SNSがなかった時代。
ファンはいかにして熱狂を共有しそして自らの文化を作り上げていったのか。
今回はそんなアナログ時代の「オタク」たちの熱い青春の原風景を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
あるアニメのファンがX(旧Twitter)に一枚のファンアートを投稿する。「今週の〇〇、最高だった! 思わず描いてしまった…」。その投稿には瞬く間に「いいね」やリポストがつき、同じ作品を愛する見ず知らずのファンたちから「素晴らしい!」「分かります、この気持ち!」といった共感のコメントが殺到する。その熱はハッシュタグを通じて拡散され、さらに大きな熱狂の輪を生み出していく。
私たちは、「SNSが熱狂を増幅させる」という現象を当たり前の文化として享受している。
しかし、かつてインターネットもSNSも存在しなかった時代。若者たちがノートの切れ端と熱い言葉だけを武器に、その熱狂を共有し増幅させていったアナログな革命の物語があった。
深夜の再放送で『宇宙戦艦ヤマト』という宝物を発見した中高生たち。
彼らの胸の中で燃え上がったその熱い炎を誰かに伝えたい。
この感動を誰かと分かち合いたい。
その根源的な欲求は彼らを行動へと駆り立てた。
彼らが主戦場として選んだのは学校の教室だった。
休み時間、昼休み。
彼らは教室の片隅に数人で集まり、まるで秘密の合言葉を交わすようにヤマトについて熱っぽく語り合った。
「昨日の回観たか? ドメルの七色星団の戦い、マジで鳥肌が立ったよな」
「俺はやっぱり古代進よりデスラー総統の方が好きだな。あの美学がたまらない」
「分かる! あと森雪の作画が回によって全然違うのも面白いよな」
それはもはや単なる感想ではなかった。
キャラクターの心理分析、メカニックの設定考察、そして作画監督ごとの絵柄の違いまでを指摘するマニアックで批評的な視点。
彼らは無意識のうちにアニメを「語るべき文化」として捉え始めていたのだ。
その熱は言葉だけに留まらなかった。
絵の得意な生徒は授業中教師の目を盗んで、ノートの切れ端にヤマトや沖田艦長のイラストを描きなぐった。
その絵は休み時間に仲間内で回覧され感嘆の声が上がった。
さらに熱心なファンは自分たちの手で小さな「ファンジン(同人誌)」を作り始めた。
ガリ版刷りの粗末な冊子。
そこには自分たちで書いたヤマトの二次創作小説や詳細な設定考察、そして愛に溢れたイラストがぎっしりと詰め込まれていた。
それは商業誌では決して得ることのできない自分たちだけのメディアだった。
こうして学校の教室という閉じた空間の中で、ヤマトの熱狂は静かにしかし確実に増殖しそして深化していった。
彼らはそれまでの世代とは明らかに違っていた。
彼らはテレビから与えられる物語をただ受け身で消費するだけの存在ではなかった。
彼らはアニメを自らの文化として捉え、それを語り分析しそして自らの手で二次創作までしてしまう初めての「能動的なファン」の世代だったのだ。
「オタク第一世代」の誕生である。
まだ社会の誰も気づいていないこの新しい世代の誕生。
その地殻変動とも言える巨大なエネルギーのうねりが、やがて一度は沈んだ宇宙戦艦を再び浮上させる強力な推進力となっていくことをまだ誰も知らなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
このファンによる自主的な盛り上がりこそが『宇宙戦艦ヤマト』という現象の最も特異な点でした。まさにファンが自らの手で伝説を作り上げたのです。
さて、教室の片隅で燃え上がった熱狂の炎。
その小さな炎はやがて一つの巨大な形となって作り手たちの元へと届きます。
次回、「ファンレターの山」。
ファンの声が歴史を動かすその瞬間に迫ります。
ブックマークや評価、お待ちしております!
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