ヤマト、発進せよ! 第2話:深夜の再放送
作者のかつをです。
第十四章の第2話をお届けします。
一度はゴールデンタイムで敗れ去ったヤマト。
しかしその物語は深夜という新しい場所で、本来出会うべきだった観客と運命的な再会を果たします。
今回はそんな奇跡の始まりの物語です。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
深夜25時。テレビの番組表はゴールデンタイムとは全く違う顔を見せる。そこには何本もの新作アニメがひしめき合っている。ターゲットはもはや子供ではない。コアなアニメファンあるいは夜更かしの若者たち。深夜アニメ枠は時にゴールデンタイムの作品以上に熱狂的なファンを生み出し、カルト的な人気を博す重要な文化の発信地となっている。
私たちは、「深夜に宝物と出会う」という体験を当たり前の文化として知っている。
しかし、かつてその深夜という時間が、一度は死んだはずの物語に再び命を与える魔法の時間帯となった奇跡の物語があった。
『宇宙戦艦ヤマト』の打ち切りから数年。
プロデューサー西﨑義展の心の中では、あの日の屈辱の炎が決して消えることはなかった。
俺の作った物語は間違ってはいなかった。
ただ届けるべき相手と、そして届けるべき時間を間違えただけなのだ。
彼は確信していた。
ヤマトの持つロマンとドラマは、必ずや子供ではないもっと年齢層の高い世代の心に響くはずだと。
彼は諦めなかった。
その執念は狂気的ですらあった。
彼はヤマトのフィルムを抱えテレビ局の編成部へと日参した。
そして編成担当者に何度も何度も頭を下げて頼み込んだ。
「どうかもう一度だけチャンスをください。今度はゴールデンタイムじゃなくていいんです。どんな時間帯でも構わない。このフィルムをもう一度電波に乗せてはもらえませんか」
テレビ局の担当者は呆れ果てていた。
一度視聴率が取れなかった「失敗作」。
それをわざわざもう一度放送するメリットなどどこにもない。
しかし西﨑の常軌を逸した熱意に根負けしたのか。
あるいはその瞳の奥にまだ輝きを失わない作品への愛情を感じ取ったのか。
担当者は一つの条件を提示した。
「……西﨑さん、そこまで言うのなら分かりました。ただし枠は用意できませんよ。放送スケジュールの空いている隙間を埋める『穴埋め番組』としてなら考えてもいい」
それは破格の条件だった。
プロ野球の中継が雨で中止になった時。
あるいは誰も見ていないような平日の夕方や深夜の放送枠。
そんな打ち捨てられた時間。
しかし西﨑はその提案に飛びついた。
彼にとってそれは千載一遇のチャンスだった。
そして1977年。
『宇宙戦艦ヤマト』はテレビのタイムテーブルの片隅で、ひっそりとその再放送を開始した。
その放送を偶然目にしたのが、本放送の時にはまだ幼すぎた、あるいは裏番組の『ハイジ』を見ていた中高生たちだった。
学校から帰宅し何気なくつけたテレビ。
夜更かしをしてぼんやりと眺めていた深夜のブラウン管。
その画面から流れてきたのは、彼らが今まで一度も見たことのなかった衝撃的なアニメーションだった。
大人の鑑賞にも堪えうる重厚なストーリー。
緻密に描き込まれたメカニックの美しさ。
そして何よりも自己犠牲と愛という普遍的なテーマ。
彼らの心は完全に撃ち抜かれた。
「なんだ、これは……。こんなすごいアニメがあったのか」
それは誰にも強制されることのない自発的な発見だった。
誰も注目していなかった深夜の闇の中で自分たちだけの宝物を見つけ出したという特別な感覚。
その感覚こそが彼らを単なる視聴者ではなく、熱狂的な「信者」へと変貌させていく最初のきっかけとなった。
奇跡の逆転劇はこうして誰にも気づかれずに静かに始まっていたのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この再放送での成功というパターンは、後の『機動戦士ガンダム』にも受け継がれていきます。まさにヤマトが作り上げた伝説の方程式でした。
さて、深夜の闇の中で運命的な出会いを果たした若者たち。
彼らの熱狂はいかにして社会を巻き込む大きなうねりへと変わっていったのでしょうか。
次回、「火をつけたのは中高生だった」。
ファンが初めて歴史の主役へと躍り出ます。
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