『アニメージュ』創刊とファン世代の覚醒 第5話:創刊号、書店へ
作者のかつをです。
第十三章の第5話をお届けします。
ついに歴史が動いたその瞬間。
今回は伝説の創刊号がいかにしてファンに受け止められたのか、その熱狂の一日を描きました。
全ての苦労が報われるカタルシスの物語です。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
ある人気アニメの最終回が放送された翌日。書店には「〇〇(作品名)総力特集!」と銘打たれたアニメ雑誌が平積みになっている。表紙には描き下ろしの美麗なイラスト。中には監督や声優の最終回を終えての独占インタビュー、そして物語の謎を解き明かす詳細な考察記事。ファンはその雑誌を手に取り物語の感動の余韻に浸るのだ。
私たちは、「物語を補完する雑誌」という文化を当たり前の楽しみとして享受している。
しかし、かつてその楽しみをファンに初めて届けた一冊の雑誌があった。
その創刊号が書店に並んだ歴史的な一日の物語である。
1978年5月26日。
その日は日本の出版史そしてアニメ史において記念すべき一日となった。
『月刊アニメージュ』創刊号。
その歴史の証人となる雑誌がついに全国の書店の店頭に並んだのだ。
徳間書店の編集部。
鈴木敏夫と彼が率いる数人の若い編集部員たちは、前日から一睡もしていなかった。
徹夜で印刷所から刷り上がった雑誌の束をトラックに積み込み、そして今固唾を飲んでその審判の時を待っていた。
彼らが作り上げた創刊号は、まさに彼らの魂の結晶だった。
表紙を飾るのはもちろん『宇宙戦艦ヤマト』。
巻頭では実に30ページ以上を割いてヤマトを徹底的に特集した。
それは他のテレビ雑誌では考えられない圧倒的な物量だった。
そしてその中身はまさに革命的だった。
ヤマトの生みの親、西﨑義展プロデューサーのロングインタビュー。
これまで決して語られることのなかったヤマト誕生の秘話が、初めてファンの前に明かされた。
さらに富野由悠季監督が手がける最新作『ダイターン3』の特集。
そこでは富野監督自身の言葉で作品のテーマが熱く語られていた。
それは鈴木が夢見た雑誌の形そのものだった。
作り手の顔が見えその肉声が聞こえる雑誌。
アニメを「作家の作品」として語る雑誌。
しかし彼らの胸には大きな不安が渦巻いていた。
本当にこの俺たちの熱意はファンに届くのだろうか。
「マニアックすぎる」とそっぽを向かれてしまうのではないか。
徳間社長とのあの約束が頭をよぎる。
鈴木は居ても立ってもいられず編集部を飛び出した。
そして都内の大型書店へと向かった。
店の雑誌コーナーを恐る恐る覗く。
あった。
『アニメージュ』の創刊号が確かにそこに積まれている。
しかしそれはやはり一番目立つ場所ではなかった。
誰もが知っている週刊誌の隣ではなく、児童書のコーナーの片隅にひっそりと置かれていた。
「……やはりダメだったか」
鈴木が諦めかけたその瞬間だった。
一人また一人と中高生と思われる若者たちが、そのコーナーへと吸い寄せられるようにやってくる。
そして彼らは迷うことなく『アニメージュ』を手に取りレジへと向かっていくのだ。
彼らの目は誰もが輝いていた。
まるでずっと探し求めていた宝物をようやく見つけ出したかのような、そんな表情だった。
その光景を見た瞬間、鈴木の目から熱い何かがこぼれ落ちた。
届いた。
俺たちの声は確かに彼らに届いたのだ。
その日創刊号は驚異的なスピードで全国の書店から姿を消した。
7万部刷った雑誌は即日完売。
すぐに10万部の増刷が決定した。
それは出版業界の常識を覆す歴史的な大勝利だった。
そして何よりもそれは、これまで日陰の存在だったアニメファンという世代が初めて自らの存在を社会に証明した、輝かしい独立記念日でもあったのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
創刊号のこの爆発的な成功は出版業界全体に大きな衝撃を与えました。この後『アニメック』や『月刊OUT』、『ファンロード』といった競合誌が次々と創刊され、アニメ雑誌は一つの巨大なジャンルとして確立されていくのです。
さて、大成功を収めた『アニメージュ』。
しかしその本当の功績は雑誌が売れたということだけではありませんでした。
次回、「ファンは「読者」になった」。
アニメージュがファンに何をもたらしたのか。その本質に迫ります。
ブックマークや評価、お待ちしております!
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