『アニメージュ』創刊とファン世代の覚醒 第3話:作り手の顔が見たい
作者のかつをです。
第十三章の第3話をお届けします。
「作り手の顔が見たい」。
そのファンの根源的な欲求に初めて応えようとしたのが『アニメージュ』でした。
今回はその革命的な編集方針がいかにして生まれたのか、その核心に迫りました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
あるアニメ監督が自身のX(旧Twitter)アカウントにこう投稿する。「次回〇話の絵コンテ上がりました。今回はかなり攻めた演出に挑戦しています。お楽しみに!」。その投稿には瞬く間に数万の「いいね」がつき、ファンからの「楽しみです!」「頑張ってください!」といった温かい応援のコメントが殺到する。作り手とファンがSNSを通じてリアルタイムで繋がりコミュニケーションをとる。
私たちは、その親密な関係性を当たり前の文化として享受している。
しかし、かつて作り手が完全に匿名の存在であり、ファンがその素顔や肉声を知る術が全くなかった時代があった。その分厚い壁を初めて打ち破ろうとした一人の編集者の物語である。
社内の猛反対に遭い暗礁に乗り上げた『アニメージュ』創刊企画。
鈴木敏夫は自室にこもり考え抜いた。
どうすればあの頭の固い役員たちを説得できるのか。
この企画のどこに「新しさ」と「勝算」があるのか。
彼がたどり着いた答え。
それは既存の子供向けテレビ雑誌との決定的な差別化ポイントにあった。
既存の雑誌がただ完成された「商品」としてのアニメしか紹介してこなかったのに対して、『アニメージュ』はその「商品」が生まれる裏側、その「過程」そのものをコンテンツにするのだ。
そしてその「過程」の中心にいる主役、すなわち「作り手」に徹底的に焦点を当てる。
「ファンが本当に知りたいのはストーリーのあらすじだけではない」
彼は確信していた。
「彼らは知りたいのだ。この素晴らしい物語を生み出しているのが一体どんな人間なのか。どんな顔でどんな声でどんなことを考えているのか。その作り手の生身の人間性に触れたいと渇望しているのだ」
それは革命的な編集方針だった。
アニメを作家の個性が色濃く反映された「作品」として捉える。
そしてその作家とファンを雑誌というメディアが繋ぐ架け橋となる。
鈴木は企画書を書き直した。
そこには具体的な誌面のイメージがびっしりと書き込まれていた。
監督独占ロングインタビュー。
キャラクターデザイナーによる貴重な初期設定画の公開。
現場のアニメーターたちによる制作裏話座談会。
声優のグラビアとパーソナルな質問コーナー。
それはもはやアニメの情報誌ではなく、アニメを作る「人間」に焦点を当てたドキュメンタリー雑誌だった。
その新しい企画書を武器に鈴木は再び行動を開始した。
しかし彼が向かったのは社内の会議室ではなかった。
彼は制作現場へと直接乗り込んでいったのだ。
彼はアポも取らずにサンライズのスタジオを訪れ、当時『無敵鋼人ダイターン3』を監督していた若き鬼才、富野由悠季を捕まえた。
「富野さん、あなたのアニメ哲学を僕の雑誌で語ってはくれませんか!」
最初は訝しげな顔をしていた富野。
しかし鈴木の異常なまでの熱意と、そして自分の作品を単なるおもちゃの販促番組ではなく一つの「作家の作品」として扱おうとしているその真摯な姿勢に、次第に心を開いていった。
鈴木は確かな手応えを感じていた。
作り手たちもまた飢えていたのだ。
自らの作品に込めた想いを熱く語れる「場所」に。
ファンと作り手。
その双方の渇望が一つの雑誌の上で出会う時、そこにかつてない巨大な熱狂が生まれる。
その化学反応のイメージが鈴木の頭の中ではすでにはっきりと見えていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この「作り手」に焦点を当てるという編集方針は、今ではあらゆるエンタメ雑誌の基本となっています。その全ての原型を鈴木敏夫が作り上げたのです。
さて、強力な武器を手に入れた鈴木。
しかしその武器を役員たちに認めさせるためには最後の戦いが必要でした。
次回、「売れるわけがない」。
運命の最終プレゼンテーションが始まります。
ブックマークや評価、お待ちしております!
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