『アニメージュ』創刊とファン世代の覚醒 第1話:子供雑誌の付録
作者のかつをです。
本日より、第四部「熱狂編 ~ファンと文化の誕生~」の幕開けとなる、第十三章「『アニメージュ』創刊とファン世代の覚醒」の連載を開始します。
今回の主役は作り手ではありません。
アニメを「語るべき文化」へと押し上げたファンとメディアの物語です。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
一人の大学生が自室のパソコンの前で熱心にキーボードを叩いている。彼が見ているのは来期から放送が始まる新作アニメの公式サイトだ。そこには美麗なキービジュアルと共に詳細なスタッフリスト、キャラクターの設定画、そして監督や声優のロングインタビューが掲載されている。彼はそれらの情報を貪るように読み込み、自らのブログに放送前の期待と考察を書き込んでいく。「このメカデザインはあの伝説の〇〇さんの流れを汲んでいるな」「監督の過去作から察するに今回のテーマはおそらく……」。
私たちは、「アニメを深く語る」という文化を当たり前の知的な楽しみとして享受している。
しかし、かつてアニメがただ子供が観て楽しむだけの使い捨ての娯楽であり、その裏側にある作り手の思想や物語など誰も気に留めなかった時代があったことを知る者は少ない。
物語の始まりは1970年代半ば。
『マジンガーZ』の大成功によって巨大ロボットアニメブームが巻き起こり、テレビの前では毎週新たなヒーローが産声を上げていた時代。
子供たちは熱狂していた。
しかしその熱狂を受け止めるメディアはあまりにも貧弱だった。
当時アニメの情報を得られる場所はただ一つ、学年誌や『テレビマガジン』に代表される子供向けのテレビ雑誌だけだった。
そこでのアニメの扱いはあくまで数多ある特撮ヒーロー番組の中の一つ。
与えられるページはせいぜい数ページ。
そこに掲載されるのは派手なイラストと単純明快なストーリー紹介、そして新しく登場する敵キャラクターの情報だけ。
そこに「作り手の顔」は存在しなかった。
誰がこの格好いいロボットをデザインしたのか。
誰がこの胸を熱くする物語を書いているのか。
そんな情報はどこにも載っていなかった。
アニメは「作品」ではなくただの「商品」だった。
しかしそんな時代に、ただ与えられる情報だけでは満足できない飢えた世代が確かに存在したのだ。
彼らはもはや子供ではなかった。
中学生、高校生、そして大学生。
彼らはアニメの中に子供向けの娯楽以上の何か、深く語るべき「テーマ」や「作家性」を見出し始めていた。
彼らは自分たちの手でガリ版刷りの「同人誌」を作り、そこへ自らの熱い考察や批評を書き連ね仲間内で共有していた。
それはあまりにも小さくそして閉じた世界の中での熱狂だった。
その見えざる熱狂のマグマが社会の地下でぐつぐつと煮えたぎっていることに、ほとんどの大人たちは気づいていなかった。
しかし、そのマグマの熱を肌で感じ取っていた一人の若き編集者がいた。
彼の名は鈴木敏夫。
徳間書店で子供向けのテレビ雑誌の編集に携わっていた彼は、毎月編集部に殺到するファンからのハガキの中にこれまでとは明らかに質の違う熱量を見出していた。
「この熱は本物だ。これは金になる」
彼のその野心的な直感が、やがて日本のアニメとファンの関係を永遠に変えることになる巨大な宇宙戦争の引き金を引くとは、まだ誰も知らなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第十三章、第一話いかがでしたでしょうか。
アニメを深く語りたい。そのファンの根源的な欲求は今も昔も変わりません。
しかし当時はその欲求を満たすための場所がどこにもなかったのです。
さて、時代の熱を感じ取った若き編集者、鈴木敏夫。
彼の野心はついに会社を動かすための壮大な企画へと結実します。
次回、「徳間書店、若き編集者の野望」。
伝説の雑誌が産声を上げるその前夜の物語です。
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▼作者「かつを」の創作の舞台裏
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