スポンサーと戦った『マジンガーZ』 第4話:ロケットパンチの衝撃
作者のかつをです。
第十二章の第4話をお届けします。
ついに誕生した伝説の必殺技「ロケットパンチ」。
今回はその革命的なアイデアがいかにしてスポンサーとの戦いという逆境の中から生まれてきたのか、そのカタルシスの瞬間を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
小学生の男の子がリビングでヒーローごっこに興じている。「くらえ! 〇〇(必殺技名)ビーム!」。彼はテレビのヒーローの決め台詞を叫びながら腕を突き出しポーズを決める。いつの時代も子供たちはヒーローの必殺技を真似することでその世界に没入し、自らがヒーローになったかのような万能感を味わう。
私たちは、その「叫んで放つ必殺技」という文化を日本のエンターテイメントの様式美として当たり前に受け入れている。
しかし、その様式美の全ての原型となった、あまりにもシンプルでそしてあまりにも衝撃的な一つの発明があったことを知る者は少ない。
玩具メーカー「ポピー」の企画部長村上からの厳しいダメ出し。
「もっと派手でごっこ遊びができる武器を考えろ」
永井豪は自室にこもり頭を抱えていた。
自分の描きたいダークで重厚な世界観と、スポンサーが求める子供向けの分かりやすいギミック。
その二つの矛盾した要求をどうすれば両立させることができるのか。
彼はスケッチブックに新しい武器のアイデアをいくつも描きなぐった。
剣、斧、槍。
しかしどれも既存のヒーローの模倣の域を出ない。
これではあの村上を納得させることはできないだろう。
もっとシンプルで誰も見たことがなく、そして何よりも玩具にした時に子供たちが熱狂するような画期的なギミック。
その時彼の脳裏にふと一つの光景が浮かんだ。
それは彼がアシスタント時代に描いていたギャグ漫画のワンシーン。
キャラクターが驚いた拍子に目玉がびよーんと飛び出すあの古典的な表現。
「……飛び出す?」
その瞬間、彼の頭の中でギャグ漫画の表現とロボットの武器が奇跡的な化学反応を起こした。
「そうだ! 腕が飛べばいいんだ!」
拳がロケットのように発射され敵を打ち砕く。
そのあまりにも荒唐無稽でしかし視覚的に圧倒的にインパクトのあるアイデア。
永井は震える手でその光景をスケッチブックに描き出した。
これだ。
これならば玩具にした時にバネのギミックで拳を発射させて遊ぶことができる。
これ以上ないほど分かりやすくそして魅力的な「ごっこ遊び」だ。
そして彼はその必殺技に最高の名前を与えた。
「ロケットパンチ」
その発明は止まらなかった。
胸の放熱板から超高温の熱線を発射する「ブレストファイヤー」。
口のスリットから強酸性の嵐を吹き付ける「ルストハリケーン」。
彼はスポンサーの要求を逆手に取り、ロボットのボディそのものを武器の塊として再発明してみせたのだ。
そしてその全ての必殺技に、主人公がコックピットで絶叫するという様式美を加えた。
「ロケット、パーーーンチ!」
数日後。
東映動画の会議室。
永井は自信に満ちた表情で村上の前に新しいスケッチブックを広げた。
「村上さん、これが俺の答えです」
その絵を見た村上の目が大きく見開かれた。
彼の目はもはやクリエイターのものではなく、百戦錬磨の玩具屋の目に変わっていた。
売れる。
彼の全身の細胞がそう叫んでいた。
この腕が飛び出すギミックは絶対に売れる。
これは革命だ。
「……参りました、先生」
村上は深々と頭を下げた。
クリエイターの魂とスポンサーの欲望。
その決して交わるはずのなかった二つのベクトルが、ついに一つの奇跡的な到達点で固く結びついた瞬間だった。
制約は時に発明の母となる。
その真理を彼らはまさに体現してみせたのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この「叫んで放つ必殺技」という様式美はマジンガーZ以降、日本のあらゆるヒーロー番組のお約束となっていきます。その全ての源流がここにありました。
さて、ついに最強の武器を手に入れたマジンガーZ。
いよいよその鋼の魔神がお茶の間のブラウン管に解き放たれます。
次回、「子供たちの熱狂」。
日本中に巨大ロボットブームが巻き起こります。
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