スポンサーと戦った『マジンガーZ』 第3話:そんな武器では売れない
作者のかつをです。
第十二章の第3話をお届けします。
クリエイターの描く理想とスポンサーが求める現実。
その永遠のテーマとも言える衝突の瞬間を描きました。
この最初のプレゼンテーションの失敗がなければ、あのマジンガーZは生まれなかったのです。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
広告代理店の会議室。若きクリエイターがクライアント企業の重役たちを前に新しいテレビCMの企画をプレゼンテーションしている。「この映像はこれまでにない斬新な表現で商品の革新性を訴求します」。しかしクライアントの反応は渋い。「うーん、斬新なのは分かるけどちょっと分かりにくいんじゃないかな。もっとストレートに商品の良さを伝えてくれないと視聴者には響かないよ」。
私たちは、「クリエイティブと商業の衝突」という光景をあらゆるビジネスの現場で当たり前のものとして見ている。
しかし、その衝突が時に奇跡的な化学反応を生み出し、歴史的な大ヒット商品が生まれることがある。
これはそんな幸福な戦いの物語である。
東映動画の会議室。
そこには三者の男たちが向かい合っていた。
東映動画のプロデューサー小田。
原作者の永井豪。
そしてこのプロジェクトの最大の出資者であり最高決定権者でもある、玩具メーカー「ポピー」の企画部長、村上(仮名)。
小田と永井は自信に満ち溢れていた。
「人がロボットに乗り込む」。
この革命的なアイデアを聞けば村上も諸手を挙げて賛成するに違いない。
永井はおもむろにスケッチブックを開き、自らが描き上げた新しいヒーローのデザインを提示した。
「これが僕の考えた新しいロボット、『マジンガーZ』です」
その絵を見た瞬間、村上の眉間に深いシワが刻まれた。
そこに描かれていたのは彼が想像していたようなヒロイックなロボットではなかった。
全体のフォルムは黒を基調とし、顔はまるで悪魔のような禍々しいデザイン。
それは正義の味方というよりむしろ破壊の化身とでも言うべき、ダークで暴力的な雰囲気を放っていた。
「……永井先生。これは何ですかな?」
村上の声は冷たかった。
「ヒーローです。神にも悪魔にもなれる力を持つ苦悩のヒーローです」
「いや、そうではない。こんな黒くて怖い顔のおもちゃが子供に売れると思いますか? ヒーローというものはもっと分かりやすく格好良く、そして正義の象徴でなければならんのです」
村上の言葉はクリエイターの感性ではなく、玩具屋の冷徹な論理で貫かれていた。
「色はダメだ。もっと明るいトリコロールカラー(赤・青・白)にしなさい。その方がヒロイックで店頭でも目立つ」
「武器はどうなっておるのかね? 剣か? 銃か?」
「いえ、マジンガーZは超合金Zという無敵の装甲で敵を粉砕します。武器など必要ありません」
永井の答えに村上は呆れたように首を振った。
「先生、分かっていない。おもちゃというものは『ごっこ遊び』ができなければ売れんのです。剣や銃があれば子供はそれを振り回して遊べる。しかし、ただ固いだけのロボットでどうやって遊べと言うんですか? もっと派手で飛び出すとか合体するとか、そういうギミックのある武器を考えなさい」
色もダメ。武器もダメ。
永井が心血を注いで作り上げたダークヒーローのコンセプトは、玩具屋の商業主義の論理の前に粉々に打ち砕かれた。
会議室は重い沈黙に包まれた。
小田は顔面蒼白だった。
このままでは企画そのものが頓挫してしまう。
しかしその絶望的な空気の中で、原作者永井豪の目だけはまだ死んでいなかった。
彼の逆境に強い反骨の魂が静かに燃え上がろうとしていた。
「……分かりました。そこまで言うのなら考えてきましょう。誰もがぶったまげるような最高の武器とやらを、ね」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
実際に永井豪の初期のデザインはもっと禍々しいものだったと言われています。私たちが知っているあのヒロイックなマジンガーZは、まさにこのスポンサーとの戦いの中から生まれた妥協の産物でもあったのです。
さて、絶体絶命のピンチに追い込まれた永井豪。
しかし彼はこの逆境をとんでもない発明で乗り越えます。
次回、「ロケットパンチの衝撃」。
ついにあの伝説の必殺技が誕生します。
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