スポンサーと戦った『マジンガーZ』 第2話:人が、ロボットに乗る
作者のかつをです。
第十二章の第2話をお届けします。
「ロボットに乗り込む」。
今では当たり前のこの概念がいかに革命的なアイデアだったのか。
今回はその全ての始まりとなった伝説の着想の瞬間に焦点を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
ゲームセンターの薄暗い一角。巨大なドーム型の筐体に乗り込んだ青年が興奮の雄叫びを上げている。彼の目の前のモニターにはロボットのコックピットからの視点が映し出され、操縦桿を握る彼の動きと完璧に連動して画面の中の巨大なロボットが大地を駆けビームライフルを放つ。
私たちは、「巨大ロボットを自らの手で操縦する」という感覚を当たり前の夢として共有している。
しかし、かつてその夢の形が発明されるまで、ロボットとはあくまで外部から遠隔で操るただの「機械人形」でしかなかった。その常識を打ち破った一人の天才の驚くべき着想の物語である。
1971年秋。
東映動画の若きプロデューサー小田(仮名)は、新しいロボットアニメの企画に頭を悩ませていた。
『鉄腕アトム』以降アニメの世界には数多くのロボットヒーローが登場していた。
しかしそのどれもが『鉄人28号』の亜流だった。
少年が手にしたリモコンで巨大なロボットを操り悪と戦う。
そのフォーマットはもはや子供たちを熱狂させる力を失いつつあった。
「何か全く新しいロボットはいないものか……」
スポンサーである玩具メーカーからも突き上げられていた。
「リモコンで動くロボットのおもちゃはもう売れ飽きた。何か画期的なアイデアはないのかね」
そんな閉塞感の中、小田は一人の若き漫画家に救いを求めた。
『ハレンチ学園』という過激なギャグ漫画で社会現象を巻き起こしていた時代の寵児、永井豪だった。
彼の常識にとらわれない過激な発想力に小田は賭けたのだ。
「永井先生、どうかお願いします。今までのロボットの常識を全てひっくり返すような新しいヒーローを考えてはいただけませんか」
その漠然とした依頼に永井はしばらく腕を組んで考え込んでいた。
そして数週間後。
永井は興奮した面持ちで小田の元を訪れた。
「小田さん、思いつきましたよ。とんでもないアイデアを!」
そのアイデアは永井がいつものように車で移動中、ひどい交通渋滞に巻き込まれていた時に天から降ってきたのだという。
「イライラして思ったんですよ。この俺の車に足が生えて、前の車をひょいと飛び越えて前に進めたらどんなに気持ちがいいだろう、ってね」
その瞬間、彼の頭の中で車とロボットのイメージが結びついた。
「そうか! ロボットを外から操るからじれったいんだ! 人間が直接ロボットの中に乗り込んで、自分の手足のように自在に操ることができたらどうだろう!」
それはまさにコペルニクス的大転回だった。
ロボットはもはや操られる人形ではない。
それは人間の能力を増幅するための強化スーツであり、巨大な乗り物なのだ。
主人公とロボットが完全に一体化する。
その圧倒的な没入感。
小田はそのアイデアを聞いた瞬間、全身に鳥肌が立つのを感じた。
「……すごい! それですよ、先生!」
これならば子供たちは主人公に完璧に感情移入し、自らが巨大ロボットを操縦しているかのような興奮を味わうことができる。
そして何よりもこのアイデアは玩具として最高のセールスポイントになる。
ロボットの頭部に主人公のフィギュアが乗り込むギミック。
考えただけでワクワクした。
これならスポンサーも絶対に納得するはずだ。
渋滞の中のほんの些細な妄想。
その一滴のアイデアがやがて巨大ロボットアニメというジャンルの大海を生み出す、全ての源泉となった。
歴史はいつだってそんな偶然と閃きの中から生まれるのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この「交通渋滞からマジンガーZが生まれた」というエピソードはあまりにも有名ですね。日常の些細な不満の中にこそ大発明のヒントは隠されているのかもしれません。
さて、革命的なアイデアは生まれました。
しかしそのアイデアを商品として成立させるためには、クリエイターの魂とスポンサーの欲望との激しい戦いが必要でした。
次回、「そんな武器では売れない」。
最初のプレゼンテーションが始まります。
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