アニソンが“ビジネス”になった日 第3話:このメロディには力がある
作者のかつをです。
第八章の第3話をお届けします。
全ての革命は一つの輝く個別の作品との出会いから始まるのかもしれません。
今回はそんな歴史を動かした「一曲」の持つ力に焦点を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
カラオケボックスの一室で会社の同僚たちがマイクを握りしめている。「懐かしいアニソンでも歌うか!」。イントロが流れた瞬間、部屋のボルテージは最高潮に達する。世代を超えて誰もが知っているあのメロディ。その歌はもはや単なるアニメの主題歌ではない。それぞれの青春時代の記憶と分かちがたく結びついた、人生のサウンドトラックとなっている。
私たちは、「世代を超えて愛されるアニソン」の存在を当たり前の文化として享受している。
しかし、その一曲一曲がそもそもレコードとして世に出ることすら困難だった時代があった。
その価値を誰よりも最初に見抜いた一人の男の耳の物語である。
会社との交渉が暗礁に乗り上げたまま、若きディレクター木田の苦悩の日々は続いていた。
彼は来る日も来る日も自問自答を繰り返していた。
自分の信じていることは本当に正しいのだろうか。
やはり部長の言う通り、テレビまんがの歌などただの子供だましの使い捨ての音楽なのだろうか。
彼の自信は揺らぎ始めていた。
そんなある日の午後だった。
彼は資料室の片隅で、テレビ局から送られてきた放送前のアニメのデモテープをぼんやりと眺めていた。
その中の一本に彼の目が留まった。
東映動画が制作中の新しい宇宙SFアニメ、『宇宙パトロールホッパ』。
彼は何気なくそのテープを再生した。
スピーカーから流れてきたのは、まだ仮歌の状態の主題歌だった。
そのメロディを聞いた瞬間、木田の全身に電流が走った。
それは今までのテレビまんがの歌とは明らかに何かが違っていた。
勇壮でどこか物悲しいマイナーコードのメロディ。
宇宙の壮大さと孤独を感じさせるスケールの大きな編曲。
そして子供向けでありながら決して子供だましではない、真摯な言葉で綴られた歌詞。
「……すごい」
彼は思わず呟いた。
これはただの子供の歌ではない。
大人の鑑賞にも十分に堪えうる、一つの独立した音楽作品としての強度を持っている。
このメロディには力がある。
人の心を掴んで離さない普遍的な何かが宿っている。
彼は確信した。
この曲だ。
この曲ならばきっと、あの分厚い常識の壁を打ち破ることができる。
その日から彼の行動は変わった。
彼はもはやただ漠然と「テレビまんがの歌は売れる」と主張するのをやめた。
彼はこの『宇宙パトロールホッパ』の主題歌、ただ一点に全ての情熱を集中させた。
彼はこの曲を作った作曲家、菊池俊輔の元へと通い詰めた。
そしてこの素晴らしいメロディを最高の形で世に届けさせてほしいと頭を下げた。
彼は最高の歌手と最高のオーケストラを手配することを約束した。
ソノシートではない。
最高の音質で録音された本格的なレコードとしてこの曲を発売させてください、と。
彼の常軌を逸した熱意に、最初は戸惑っていた菊池もやがてその本気度を認めざるを得なかった。
たった一曲との出会い。
そのメロディが持つ力を信じ抜いた一人のディレクターの耳。
それが全てを変えようとしていた。
会社の反対を押し切り、彼は自らのクビを覚悟で独断でこの曲のレコード制作を推し進めることを決意する。
彼の人生を賭けた大博打が今始まろうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この『宇宙パトロールホッパ』の主題歌を作曲した菊池俊輔は、その後『タイガーマスク』や『UFOロボ グレンダイザー』など、数々の歴史的な名曲を生み出すアニソン界の巨匠となります。まさにその才能の原点がここにありました。
さて、運命の一曲と出会った木田。
彼の無謀な賭けはついにレコード店の店頭へとその舞台を移します。
次回、「レコード店の片隅で」。
その一枚のレコードが静かな奇跡を起こします。
ブックマークや評価、お待ちしております!
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