制作進行、地獄の誕生 第6話:今日もアニメは放送される(終)
作者のかつをです。
第六章の最終話です。
一つの「仕事」がいかにして生まれ、そしてその精神が現代にまで受け継がれていったのか。
今回はそんな壮大な歴史の繋がりを描きながら、制作進行という仕事へのリスペクトを込めて物語を締めくくりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
物語の冒頭に登場したあの制作進行の鈴木。
彼は深夜、自宅のテレビの前で自分が担当したアニメの最新話が無事に放送されているのを見届けていた。
エンドロールに流れる自分の名前。
それはほんの一瞬の出来事だった。
しかしその一瞬のために彼はこの数ヶ月間全てを捧げてきた。
彼は誰に褒められるでもなく、一人静かに安堵のため息をつき達成感を噛み締めていた。
私たちは、その毎週当たり前のように届けられるアニメの裏側で、今この瞬間も戦い続けている彼らのような若者たちの存在をほとんど意識することはない。
しかし、その名もなき戦いこそが、日本のアニメという巨大な文化をその根底から支え続けている紛れもない真実なのだ。
手塚治虫が発明した「週一テレビアニメ」というフォーマット。
それは日本のアニメ界に空前の好景気をもたらした。
しかし同時に、それは制作現場に永遠に終わることのない地獄の締め切りとの戦いを強いることになった。
その矛盾に満ちた戦場で最も重要な役割を担ったのが「制作進行」だった。
彼らがいなければ週一アニメというシステムは、おそらく放送開始から数ヶ月で完全に崩壊いただろう。
彼らはただの運び屋ではなかった。
彼らは制作現場の潤滑油だった。
クリエイターとクリエイターの間に立ち、人間関係の軋轢を吸収しチームが円滑に動くように心を配った。
彼らはクオリティ管理の最前線だった。
上がってきた原画のミスを発見し修正を依頼する。
彼らの鋭い目が放送事故を未然に防いだことも一度や二度ではなかった。
そして何よりも彼らはクリエイターたちの精神的な支えだった。
締め切りに追い詰められスランプに陥ったアニメーターの横で、ただ黙って寄り添い励まし続けた。
彼らが築き上げた「制作進行」という仕事のあり方。
そのあまりにも泥臭く、そしてあまりにも人間臭い仕事の流儀と精神。
それが半世紀以上の時を超えて、現代の日本のアニメ産業の最も重要で、そして最も強力な土台となっている。
どんなに作画技術が進化しても。
どんなにCGが当たり前になっても。
制作の管理がデジタル化されても。
結局アニメを作っているのは人間だ。
そしてその人間の心を繋ぎ動かすのは、いつの時代も人間でしかない。
歴史は遠い資料館の中にあるのではない。
あなたが今当たり前のように見ているアニメのエンドロール。
その無数の名前の一つ一つに、彼らのような名もなきヒーローたちの知られざる戦いの物語が確かに息づいているのだ。
今日も日本のどこかの道の上を一台の車が走っていく。
その荷台には子供たちの夢が、そして日本のアニメの未来が乗せられている。
その命綱を運ぶ若者がいる限り、この国のアニメは決して終わらない。
(第六章:原稿を運ぶ命綱 ~制作進行、地獄の誕生~ 了)
第六章「原稿を運ぶ命綱」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
多くのアニメ監督やプロデューサーがこの「制作進行」の経験者であることは決して偶然ではありません。この仕事を通じてアニメ制作の全てを学び、そして人として成長していくのです。
さて、白黒だったテレビアニメの世界。
しかしそのブラウン管に、ついに「色」が灯る日がやってきます。
次回から、新章が始まります。
**第七章:ジャングルに色が灯った日 ~国産初のカラーテレビアニメ~**
アメリカとの共同制作。莫大な予算。
国産初のカラーテレビアニメ『ジャングル大帝』の華々しい船出。
しかし、その輝かしい光の裏側には技術的な挑戦と現場の大混乱という、知られざる影がありました。
引き続き、この壮大な旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第七章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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