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国産アニメ創世記~絵を動かした開拓者たち~  作者: かつを
第2部:革命編 ~テレビとお茶の間~
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『鉄腕アトム』とリミテッドアニメの発明 第3話:動かさずに、動いているように見せる魔法

作者のかつをです。

第五章の第3話をお届けします。

 

ついに明かされた革命の核心。

それは技術論ではなくアニメーションというものの概念そのものを捉え直す、思想の大転換でした。

今回はその歴史的な瞬間の高揚感を描きました。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

2025年、東京。

 

あるアニメ評論家が自身のブログでこう語る。「日本のアニメの真の強みは、その省略の美学にある。限られた情報量の中でいかに観客の想像力を掻き立て、物語の核心を伝えるか。それは俳句や浮世絵にも通じるこの国独自の文化なのだ」。

 

私たちは、その「少ない情報で多くを語る」というアニメの表現を、一つの芸術として語ることができる。

 

しかし、その高尚な「美学」がもともとは制作現場のあまりにも切実な叫びの中から生まれた、サバイバルのための知恵だったという事実を知る者は少ない。

 

 

その日、虫プロダクションの狭い試写室に、疲労困憊の全スタッフが集められた。

誰もがこれから神様の口からどんな奇跡の言葉が語られるのか、期待と不安の入り混じった表情で固唾を飲んでスクリーンを見つめていた。

 

やがて部屋の電気が消え、手塚治虫が静かに語り始めた。

彼の声は穏やかだったが、その言葉はその場にいた全ての人間にとって衝撃的な内容だった。

 

「皆さん、まず頭を切り替えてください。我々はこれからディズニーの呪いを解かなければなりません」

 

ディズニーの呪い。

誰もがその意外な言葉に耳を疑った。

ディズニーは自分たちが神として崇拝してきた絶対的な目標ではなかったのか。

 

「フルアニメーション。一秒間に24枚の絵を全て動かす。その信仰が我々を苦しめているのです。なぜ全ての絵を動かす必要があるのでしょうか? 本当に大事なのはそこなのでしょうか?」

 

手塚はそこで言葉を切り、おもむろに一枚のアトムの絵をスクリーンに映し出した。

それはアトムが力強く拳を握りしめている、ただの一枚の絵だった。

 

「この絵は止まっています。しかし皆さんの頭の中では今何が見えていますか? この次の瞬間アトムが空を飛ぶ姿が見えませんか? あるいは敵にパンチを繰り出す姿が見えませんか?」

 

確かにそうだった。

たった一枚の静止した絵が観る者の想像力を刺激し、その前後の物語を雄弁に語りかけてくる。

 

「そうです。これこそが漫画家である僕がずっとやってきたことなのです。漫画は動かない。しかし読者はそのコマとコマの間でキャラクターが動く時間を感じている。アニメーションも同じはずです」

 

「我々がやるべきことは全てを動かすことではない。本当に動かすべき重要な部分だけを効果的に動かし、あとは観客の想像力に委ねる。動かさずにいかに『動いているように見せるか』。その魔法を我々はこれから発明するのです!」

 

それはまさにコペルニクス的大転回だった。

アニメーションとは絵を「動かす」芸術である。

その誰もが疑うことのなかった大前提を、彼はあっさりとひっくり返してみせたのだ。

 

アニメーターたちは唖然としていた。

しかしその心の中には今まで感じたことのない新しい光が差し込んできていた。

 

そうだ。

自分たちはただディズニーの猿真似をしようとしていただけなのではないか。

自分たちには自分たちだけの戦い方があるのではないか。

漫画の神様が長年漫画の世界で培ってきた、その省略と誇張の演出の魔法。

それをアニメーションの世界に持ち込むのだ。

 

それはフルアニメーションという王道からの訣別宣言だった。

そして日本のアニメがディズニーとは全く違う独自の進化の道を歩み始める、その歴史的な第一声だったのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

「漫画家が作ったアニメ」。

この虫プロの最大の特徴がそのままリミテッドアニメという発明の最大の武器となりました。まさに逆転の発想でした。

 

さて、革命の思想は示されました。

しかしそれを実現するための具体的な「武器」がなければ戦うことはできません。

 

次回、「止め絵、バンク、3コマ撮り」。

ついにリミテッドアニメの三種の神器が姿を現します。

 

ブックマークや評価、お待ちしております!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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