表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国産アニメ創世記~絵を動かした開拓者たち~  作者: かつを
第1部:黎明編 ~絵が動き出すまで~
24/126

手塚治虫、テレビの荒野へ 第5話:富士見台の小さな砦

作者のかつをです。

第四章の第5話をお届けします。

 

どんなに偉大な企業もその始まりは小さなガレージや学生寮の一室だったりします。

今回は後に日本のアニメ史を根底から変えることになる伝説のスタジオ「虫プロ」の、あまりにも人間臭いその船出の風景を描きました。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

2025年、東京・杉並区。

 

この街には大小数百ものアニメスタジオがひしめき合っている。ガラス張りの近代的なビル。クリエイターの創造性を刺激するおしゃれな内装。そこは世界中から憧れの目で見られるクールジャパンの最前線基地だ。

 

私たちは、その洗練された「スタジオ」のイメージを当たり前のものとして捉えている。

 

しかし、かつて日本で初めてテレビアニメシリーズを専門に作るという無謀な挑戦の拠点となったのが、雨漏りのする小さな木造の建物だったという事実を知る者は少ない。

 

 

1961年夏。

テレビ局との破格の契約を取り付けた手塚治虫は、ついに長年の夢だった自分自身のアニメスタジオを設立した。

彼は漫画家として稼いだ莫大な私財を惜しげもなくその夢に注ぎ込んだ。

 

その名は「虫プロダクション」。

 

しかしその船出の場所は、東映動画のような白亜の殿堂では断じてなかった。

彼が新たな拠点として借りたのは、東京・練馬区富士見台にあった木造二階建ての小さな建物。

元々は個人の柔道場として使われていた古い家屋だった。

 

夏は蒸し風呂のように暑く、冬は隙間風が身を切るように冷たい。

雨が降れば天井のあちこちからポツポツと雨漏りがした。アニメーターたちは貴重なセル画が濡れないようにバケツを片手に走り回らなければならなかった。

 

それはお世辞にも最新鋭のスタジオとは言えなかった。

むしろ大学の貧乏なサークルの部室のような佇まいだった。

 

しかし、そのオンボロの建物の中には東映動画のどんな立派なスタジオにも負けない、一つの強力なエネルギーが渦巻いていた。

それは「熱気」だった。

 

手塚治虫という漫画の神様が自らアニメを作る。

そのあまりにも魅力的な呼び声に、様々な場所から夢を抱いた若者たちが吸い寄せられるように集まってきたのだ。

 

手塚の漫画アシスタントをしていた若者たち。

東映動画の管理されたシステムに息苦しさを感じていた腕利きのアニメーターたち。

そしてそのどちらでもない全くの素人。アニメの作り方など何も知らないが、ただ有り余る情熱だけを持て余していた若者たち。

 

経歴も年齢もバラバラ。

まさに寄せ集めの烏合の衆だった。

 

彼らを一つにまとめていたのはただ一点。

「手塚先生と共に誰も見たことのない新しいアニメを作りたい」

という純粋で、そして狂信的ですらある思いだけだった。

 

スタジオの二階には手塚自身の仮眠用の小部屋が作られた。

彼は漫画の連載を続けながらスタジオに泊まり込み、全ての作業を自らの目で監督した。

 

神様は決して雲の上の存在ではなかった。

同じインクの匂いの中で同じ安い弁当を食べ、同じように徹夜で机にかじりついていた。

その姿は若いスタッフたちの心を強く奮い立たせた。

 

富士見台の小さな砦。

そこには金も立派な設備もなかった。

しかしそこには夢があった。

これから自分たちの手で歴史を作るのだという圧倒的な高揚感があった。

 

伝説の始まりの場所はいつも、こうして混沌と熱狂の中から生まれるのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

この富士見台の元道場だった建物はファンから「虫プロの聖地」として長く語り継がれることになります。まさに伝説が生まれた小さな砦でした。

 

さて、城はでき兵士も集まった。

しかし彼らがこれから挑む戦いがどれほど過酷なものか、まだ誰も本当の意味では理解していませんでした。

 

次回、「賽は投げられた(終)」。

第四章、運命の最終話です。

 

物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。

ーーーーーーーーーーーーーー

もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ