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国産アニメ創世記~絵を動かした開拓者たち~  作者: かつを
第1部:黎明編 ~絵が動き出すまで~
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東洋のディズニーを目指した者たち 第5話:白蛇はスクリーンで泣いた

作者のかつをです。

第三章の第5話をお届けします。

 

アニメ史に残る伝説的な名シーン、『白蛇伝』の涙。

今回はそのたった数秒の映像の裏側にあった、クリエイターたちのすさまじい執念とチームワークの物語です。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

2025年、東京。

 

SNSのタイムラインに「#アニメ史に残る泣けるシーン」というハッシュタグがトレンド入りしている。そこには数え切れないほどの名シーンの画像や動画がファンたちの熱いコメントと共に投稿されている。仲間との別れ、愛する人の死、そして主人公の決意の涙。

 

たった一粒のアニメキャラクターの涙が、国中の人々の心を震わせる。

 

私たちはその現象を当たり前のものとして受け入れている。

しかしその一滴の涙に作り手たちのどれほどの魂が込められているのか。

その最初で最も純粋な結晶が、かつて白亜の城で生み出された物語を知る者は少ない。

 

 

『白蛇伝』の制作はいよいよクライマックスに差し掛かっていた。

東映動画の若きアニメーターたちの情熱とベテランたちの技術は見事に融合し、フィルムには誰も見たことのない色彩豊かな動く絵物語が刻々と焼き付けられていった。

 

そして彼らはこの物語の最も重要なシーンの制作に取り掛かっていた。

それは愛する許仙シュウセンと引き裂かれたヒロインである白娘パイニャンが、一人塔に閉じ込められ静かに涙を流すというシーンだった。

 

監督である藪下泰司はスタッフ全員を会議室に集め、静かにしかし熱く語った。

「この涙はこの映画の魂だ。ただ悲しいだけではない。その中には愛する人への変わらぬ想い、そして自らの運命への儚い抵抗、その全てが込められていなければならない」

 

それはアニメーターたちへのあまりにも高く、そしてあまりにも抽象的な要求だった。

 

このたった数秒のシーンのために、東映動画が持つ全ての技術が結集された。

 

原画を担当したのは森康二。

彼は白娘の伏せられた睫毛のほんの僅かな震え、ゆっくりと頬を伝う涙の軌跡を何十枚もの繊細なタッチの絵で描き出した。涙が顎の先で一瞬溜まり、そしてきらりと光って滴り落ちる。その一連の動きはもはや神業の域に達していた。

 

色彩設計のスタッフは、その涙にどんな色を与えるか何日も悩み抜いた。

ただの透明ではない。悲しみの深い青。純粋な心の輝く白。そのいくつもの感情を一滴の色彩に込めようとした。

 

そして撮影スタッフは、その涙が最も美しくそして最も悲しく輝くための「光」を作り出した。

セル画に透過光を使い特殊なフィルターを重ねることで、涙の粒にまるで本物の宝石のようなきらめきと透明感を与えたのだ。

 

作画、色彩、撮影。

それぞれの部署の最高の職人たちが自分のプライドの全てを賭けて、たった一粒の涙を作り上げていく。

 

数週間後。

完成したフィルムが初めて試写室のスクリーンに映し出された。

暗闇の中誰もが固唾を飲んで画面を見守る。

 

そしてその瞬間は訪れた。

 

スクリーンいっぱいに映し出された白娘の美しい顔。

その瞳から一筋のきらめく雫がゆっくりとこぼれ落ちる。

 

それはもはや絵ではなかった。

紛れもない魂の叫びだった。

 

試写室のあちこちから静かな嗚咽が漏れた。

若きアニメーターたちは自分たちが心血を注いで生み出したそのあまりにも美しい涙に、自らの涙を重ねていた。

白亜の城に集った若者たちの苦しみと喜びの全てが、その一滴に結晶していたのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

この涙のシーンの美しさは当時の観客に大きな衝撃を与えました。アニメーションが単なる子供向けの娯楽ではなく、人の心を深く揺さぶる「芸術」になりうることを証明した瞬間でした。

 

さて、ついに完成した日本初のカラー長編アニメーション。

いよいよその作品が世に問われる時が来ます。

 

次回、「伝説の始まり」。

白亜の城から放たれた光は日本中を照らし出します。

 

よろしければ、応援の評価をお願いいたします!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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