デジタルアニメの夜明けと職人たちの選択 第4話:ベテランのプライドと涙
作者のかつをです。
第二十章の第4話をお届けします。
新しい技術に適応しようともがくベテランの姿。
それは痛々しくもあり、同時に人間の可能性を感じさせる希望の物語でもあります。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
「私、辞めません。覚えます、パソコン」
定年間近の色彩設計の女性、大山(仮名)は、プロデューサーにそう宣言した。
彼女はこの道40年の大ベテランだ。手塚治虫の時代から、数々の名作の色を決めてきた。
彼女の目は、まだ死んでいなかった。
道具が変わっても、色が持つ意味、色が物語に与える力は変わらないはずだ。
そう信じていた。
しかし、現実は厳しかった。
マウスの操作一つ覚えるのに、指が震えた。
老眼の目に、モニターの光はきつすぎた。
「なんで、思った通りの色が出ないのよ!」
誰もいない深夜のスタジオで、彼女はモニターに向かって叫んだ。
頭の中には理想の色がある。
絵の具なら、赤と青と白を混ぜて、ほんの一滴の黒をたらせば、すぐに作れる色だ。
それが、デジタルの数値入力では再現できない。
RGB、CMYK。数字の羅列が、彼女の感性を拒絶しているように思えた。
若いスタッフが心配して声をかける。
「大山さん、手伝いましょうか?」
「いいえ、自分でやるわ」
彼女は頑固だった。
これは、彼女のプライドをかけた戦いだった。
自分が積み上げてきた「色の記憶」を、デジタルという新しい器に移し替えることができるか。
それとも、機械に負けて消え去るか。
彼女は、モニターの横に色見本帳を置き、画面の色と見比べ続けた。
印刷された時の発色の違い、テレビで放送された時の色の変化。
デジタルの特性を一から勉強し直した。
そして数ヶ月後。
ある新作アニメのメインビジュアルの色彩が決定した。
その画面には、かつてのセル画のような、深く、温かく、そしてどこか懐かしい色彩が広がっていた。
デジタル特有の冷たさは消え、キャラクターの肌には血が通っていた。
「……やっと、私の色になった」
大山は、涙ぐみながらマウスを握りしめた。
彼女は証明してみせたのだ。
デジタルは単なる効率化の道具ではない。
使い手の魂さえあれば、そこには以前と変わらない、いや、それ以上の「職人の技」を宿すことができるのだと。
彼女の背中を見て、デジタルに懐疑的だった他のスタッフたちの目も変わっていった。
道具に使われるのではない。道具を使いこなすのだ。
その職人魂が、無機質なデジタル制作の現場に、再び熱を取り戻させていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
現在のアニメ業界でも、デジタル作画や仕上げの現場で、かつてのアナログ時代のノウハウが活かされています。「デジタルでいかにアナログの良さを出すか」というのは、今なお続く重要なテーマです。
さて、職人の魂を受け継いだデジタルアニメ。
それは新たな表現の扉を開きます。
次回、「失われる技術、生まれる表現」。
新海誠監督などの登場により、アニメは次なるステージへ。
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