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国産アニメ創世記~絵を動かした開拓者たち~  作者: かつを
第5部:産業編 ~未来への布石~
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デジタルアニメの夜明けと職人たちの選択 第3話:絵の具の匂いが消える日

作者のかつをです。

第二十章の第3話をお届けします。

 

道具がなくなるということは、それを使っていた職人の技術も失われるということ。

時代の波とはいえ、あまりにも残酷な現実がそこにはありました。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

その通達は、まるで死亡宣告のように淡々と届いた。

 

「富士写真フイルム、セル画用フィルムの生産終了を決定」

 

2000年代初頭。

写真業界のデジタル化に伴い、需要の減ったアニメ用セルの生産ラインを維持することが、もはや経済的に不可能になったのだ。

他のメーカーも次々と撤退を発表していた。

 

これは、「デジタルか、アナログか」という選択の余地がなくなったことを意味していた。

描くための「キャンバス」そのものが、この世から消えてしまうのだ。

 

アニメスタジオは、パニックに近い状態に陥った。

倉庫に残っているセルを買い占める動きもあったが、それは一時しのぎに過ぎない。

どんなにアナログにこだわりたくても、物理的に作れなくなる日が、数年後に確実にやってくる。

 

「……終わったな」

 

ある制作会社の彩色の部屋で、ベテランの女性スタッフが呟いた。

彼女の周りには、何百色ものアニメカラー(セル専用の絵の具)の瓶が並んでいる。

その一本一本の色味を、彼女はすべて記憶していた。

湿気の多い日は絵の具の粘度を調整し、急ぎの時はドライヤーの風を当てて乾かす。

その指先には、何十年分の職人技が染み付いていた。

 

しかし、その技術はもう必要とされなくなる。

 

会社は、急速にデジタルへの移行を進めた。

彩色の部屋からは絵の具の瓶が片付けられ、代わりに無機質なパソコンとペンタブレットが並べられた。

 

「明日からは、このソフトを使って色を塗ってください」

 

渡されたのは、マウスと電子ペン。

絵の具の重みも、筆の感触もない。

画面上のパレットから色を選び、クリックするだけで、指定された範囲が一瞬で塗りつぶされる。

 

「便利だねえ……」

 

誰かが力なく笑った。

確かに便利だ。絵の具を洗う手間もないし、服が汚れることもない。

でも、そこには「塗っている」という実感がなかった。

 

スタジオから、あの独特の酢酸の匂いと、絵の具の香りが消えていった。

それは、日本のアニメ制作現場が半世紀にわたって守り続けてきた「工房」としての空気が、無機質な「オフィス」へと変わっていく瞬間だった。

 

多くのベテラン職人たちが、このタイミングで業界を去る決意をした。

「機械相手の仕事は、私にはできないよ」

寂しそうに笑って筆を置く彼らの背中は、一つの時代の終わりを告げていた。

 

強制的なデジタル移行。

それは、日本のアニメが生き残るために避けては通れない道だったが、同時に多くの貴重な財産を失う痛みでもあった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

『サザエさん』だけは、2013年までセル画での制作を続けましたが、それも最後にはデジタルへと移行しました。セル画は今や、コレクターズアイテムとしての価値を持つ「過去の遺産」となっています。

 

さて、多くの職人が去る中で、残ることを選んだ者たちもいました。

彼らはどうやってデジタルと向き合ったのでしょうか。

 

次回、「ベテランのプライドと涙」。

新しい道具を前にした、職人の意地を描きます。

 

ブックマークや評価、お待ちしております!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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