韓国からの援軍 第5話:電話越しの「お願いします」
作者のかつをです。
第十九章の第5話をお届けします。
ビジネスを超えた、人間同士の繋がり。
「援軍」という言葉がこれほど相応しい瞬間はありません。
アニメ制作は、最終的には人の心と心で作られるものなのです。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
放送まであと3日。
制作デスクの田中の元に、絶望的なニュースが飛び込んできた。
国内で作業していた原画マンが急病で倒れ、クライマックスの重要なシーンが手付かずになってしまったのだ。
代わりの人間はいない。
今から国内で探しても間に合わない。
万事休すか。
田中の脳裏に浮かんだのは、ソウルのスタジオの社長、金さんの顔だった。
しかし、向こうもすでに手一杯のはずだ。これ以上の無茶振りは、信頼関係を壊しかねない。
それでも、やるしかなかった。
田中は受話器を握りしめ、国際電話をかけた。
「もしもし、キムさんですか。田中です……」
事情を説明すると、電話の向こうで重い沈黙が流れた。
無理もない。常識的に考えれば不可能な相談だ。
「……タナカさん」
キムさんの声は低かった。
「ウチのスタッフも、もう三日寝てない。これ以上は、彼らを殺すことになる」
「分かっています。でも、頼れるのはあなたたちしかいないんです。このシーン、作品の肝なんです。あなたたちの力で、救ってほしいんです!」
田中の声は震えていた。
それはビジネスの交渉ではなかった。
同じ作品を作る仲間としての、魂の叫びだった。
長い、長い沈黙。
電話回線のノイズだけが響く。
やがて、キムさんが韓国語で誰かに何かを叫んだ。
そして、受話器に向かって言った。
「……わかった。やりましょう」
「えっ?」
「スタッフに聞いたんだ。『日本の友達が困ってる。やるか?』って。そしたらあいつら、『面白い、やってやろうじゃん』ってさ」
涙が出そうだった。
そこからの24時間は、伝説となった。
ソウルのスタジオでは、全スタッフが他の仕事を一時中断し、そのシーンのためだけに総力を結集した。
田中も東京から電話を繋ぎっぱなしにし、リアルタイムで演出の指示を出し続けた。
海を越えて、二つのスタジオが一つになった瞬間だった。
翌日の朝一番の便で、原画と動画が届いた。
それは、田中の期待を遥かに超える、鬼気迫るような素晴らしいクオリティだった。
「ありがとう……ありがとう、キムさん、みんな……」
その週の放送は、神回としてファンの間で語り草となった。
しかし、その映像の裏に、国境を越えた男たちの熱い友情と、限界を超えた踏ん張りがあったことを知る者は、エンドロールの隅に小さく載った彼らの名前を見た人だけだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
韓国のスタジオが日本のピンチを救ったエピソードは、当時の制作現場では数多く語られています。彼らは単なる下請けではなく、まさに戦友でした。
さて、時は流れ、彼らの関係はどうなっていったのでしょうか。
次回、「エンドロールの向こう側(終)」。
第十九章、感動の最終話です。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。
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