韓国からの援軍 第4話:これは日本の絵じゃない
作者のかつをです。
第十九章の第4話をお届けします。
クオリティの違いに悩み、それを乗り越えようとする現場の苦闘。
「発注者と下請け」という関係を超えて、互いに理解し合うことの重要性を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
制作デスクの田中は、韓国から空輸されてきたばかりのセル画の入ったカット袋を開け、中身を確認していた。
そして、深いため息をついた。
「……色が違う」
キャラクターの服の色が、指定よりもわずかに彩度が高い。
影の付け方が、日本の流行りのスタイルとは違い、どこかアメコミ風の濃いタッチになっている。
「これじゃあ、前のカットと繋がらないよ」
これは「作画崩壊」とは違う。
絵としては成立しているし、動きも滑らかだ。
しかし、「日本のアニメとしての統一感」が損なわれているのだ。
当時の韓国のアニメスタジオは、日本だけでなくアメリカのアニメの下請けも数多くこなしていた。
そのため、どうしてもアメリカ的な色彩感覚や、動きのクセが混ざってしまうことがあった。
田中は悩んだ。
これをリテイク(描き直し)に出せば、放送には間に合わない。
かといって、このまま流せば、日本の視聴者は違和感を持つだろう。
「直すしかない。俺たちで」
田中は社内の仕上げスタッフや撮影スタッフに頭を下げた。
「すまない、色調整でなんとか誤魔化してくれ」
「動画の線、ちょっと修正できるか?」
日本側のスタッフが、納品された素材に修正を加え、なんとか放送レベルに持っていく。
そんな綱渡りが日常茶飯事だった。
田中は、韓国のスタジオに対して怒りを覚えることもあった。
「なんで指定通りにやってくれないんだ」
しかし、実際に現地を訪れた時、彼の考えは変わった。
ソウルのスタジオでは、日本以上に過酷なスケジュールの中で、アニメーターたちが必死に筆を動かしていた。
彼らは決して手を抜いているわけではなかった。
彼らなりの美学で、彼らなりの解釈で、一生懸命に「良い絵」を描こうとしていたのだ。
ただ、その「良い」の基準が、日本とは少しずれていただけだった。
「彼らは下請けじゃない。パートナーなんだ」
田中は、一方的に指示を出すのをやめた。
「なぜこの色なのか」「なぜこの影の形なのか」。
その意図を丁寧に説明し、彼らの技術をリスペクトしながら、日本のアニメが求めるスタイルを共有していこうと決めた。
「一緒に、良いものを作りましょう」
その姿勢が伝わったのか、次第に韓国から届く素材のクオリティは上がっていった。
それは、「日本の絵」に近づき、やがてそれを超えるほどの力強さを持つようになっていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
韓国のアニメーターたちは非常に手が早く、そして勤勉でした。彼らの学習能力の高さが、日本のアニメの大量生産を可能にした最大の要因だったのです。
さて、信頼関係が築かれつつある中で、最大のピンチが訪れます。
次回、「電話越しの「お願いします」」。
放送落胆の危機。国境を越えた絆が試されます。
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