韓国からの援軍 第3話:言葉と文化の壁
作者のかつをです。
第十九章の第3話をお届けします。
「空気を読む」という日本的な文化を、海外のスタッフに伝える難しさ。
それは現在のアウトソーシングでも変わらない課題ですが、当時はもっと手探りでした。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
原画が韓国に届いても、それですべて解決とはいかなかった。
最大の障壁は「言葉」と、その裏にある「文化的なニュアンス」の違いだった。
アニメ制作には「タイムシート」と呼ばれる指示書がある。
動きのタイミングや、口パクの指示などが細かく書き込まれている設計図だ。
しかし、そこに書かれている日本語のメモ書きが、韓国のスタッフには伝わらないことがあった。
「ためてから、パンと叩く」
「なにげなく振り向く」
「ぐっと力を入れる」
日本人なら感覚的に理解できるオノマトペや形容詞が、翻訳を通すと微妙に意味が変わってしまう。
ある時、日本から「学園祭のシーン、賑やかに」という指示を送った。
戻ってきた映像を見て、田中は愕然とした。
そこに描かれていたのは、日本の学園祭ではなく、どこか無国籍な、あるいは韓国の市場のような賑わいだった。
看板の文字、屋台の形、生徒たちの仕草。
「違う、これじゃないんだ……」
決して絵が下手なわけではない。
ただ、「日本の空気感」を知らないだけなのだ。
畳の部屋での座り方、箸の持ち方、女子高生のスカートの丈の流行り。
そういった「日本のアニメ特有の文化コード」を共有できていなかった。
田中は気づいた。
「ただ仕事を投げればいいってものじゃない。伝えなきゃいけないんだ」
彼は、韓国語のできるコーディネーターを介して、必死にコミュニケーションを取ろうとした。
参考資料として日本の雑誌や写真を大量に送った。
時には国際電話で何時間も話し込んだ。
「ここは、こういう気持ちなんです」
「日本の高校生は、こういう時こうするんです」
それは、単なる業務連絡を超えた、文化交流のようなものだった。
韓国のスタッフたちもまた、必死だった。
彼らは日本のアニメを研究し、日本語を勉強し、日本のクリエイターが何を求めているのかを理解しようと努力した。
彼らの机には、日本語の辞書と、日本のアニメ雑誌が置かれていた。
「日本の要求は細かいし、うるさい。でも、それに応えれば凄い映像になる」
彼らはプロフェッショナルとしての誇りを持って、異文化の壁に挑んでいたのだ。
言葉の壁、文化の壁。
それを乗り越えるための共通言語は、結局のところ「良いアニメを作りたい」という、クリエイターとしての共通の想いしかなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
韓国のスタジオの中には、日本語の指示を完璧に理解するために、スタッフ全員で日本語学校に通ったという逸話を持つところもあるそうです。そのプロ根性には頭が下がります。
さて、文化の壁を乗り越えようとする彼らですが、時には決定的なミスも起こります。
次回、「これは日本の絵じゃない」。
品質管理の戦いと、そこから生まれる信頼の物語です。
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