宮崎駿とスタジオジブリの船出 第6話:理想は、続くか
作者のかつをです。
第十八章の第6話をお届けします。
ジブリが他のスタジオと決定的に違った点、それは「アニメーターの社員化」でした。
それはクリエイターを大切にするという宮崎監督の信念であり、同時に経営上の大きな賭けでもありました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
『となりのトトロ』と『火垂るの墓』の公開を経て、さらに『魔女の宅急便』の大ヒットにより、スタジオジブリの経営はようやく軌道に乗り始めた。
しかし、ここで宮崎駿と鈴木敏夫は、大きな決断を迫られることになった。
これまでの「作品ごとのスタッフ招集」というシステムが、限界を迎えていたのだ。
アニメーターたちは不安定な身分であり、給料も歩合制。
これでは、技術の継承もできないし、生活の不安から優秀な人材が流出してしまう。
「社員化しよう」
宮崎が提案した。
アニメーターを正社員として雇い、固定給を払い、社会保険も完備する。
そして、新人には一から教育を施す。
それは、当時のアニメ業界では常識外れの「高コスト」な体制だった。
固定費が跳ね上がる。
映画がヒットしなかった時のリスクは、これまで以上に巨大になる。
「宮さん、本気ですか。会社が潰れますよ」
周囲は反対した。
しかし、宮崎は譲らなかった。
「アニメーターは使い捨ての道具じゃない。人間だ」
「人間らしい生活ができなければ、人間を描くことなんてできない」
それは、かつて東映動画の労働組合で彼が訴え続けてきた理想そのものだった。
鈴木も腹を括った。
「やりましょう。その代わり、これからは絶対にヒットさせなきゃいけない」
こうして、スタジオジブリは「作品を作るための期間限定プロジェクト」から、「人材を育て、文化を継承する恒久的な組織」へと生まれ変わった。
新社屋の建設も決まった。
スタッフが快適に働ける広いスペース、緑の多い環境、美味しい食事が食べられる社員食堂。
宮崎の理想が詰まった「人間的なスタジオ」。
しかし、それは同時に「ヒットの義務化」という重い十字架を背負うことでもあった。
もはや、好きなものを作って失敗したら解散、では済まされない。
何百人もの社員とその家族の生活が、一本の映画にかかっている。
『紅の豚』、『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』。
プレッシャーの中で生み出された作品たちは、次々と日本映画の興行記録を塗り替えていった。
理想を掲げ、それを現実的なシステムとして維持し続けることの難しさ。
宮崎駿と鈴木敏夫は、その矛盾と戦い続けながら、ジブリという船を漕ぎ続けた。
「最高の職人たちが、最高の環境で、最高のものを作る」
そのあまりにも純粋な理想は、商業主義の海の中で、奇跡的に守られ続けたのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ジブリの社員旅行や、社内保育園の話などは有名ですが、それもすべて「人間らしい生活」を重視する方針から来ています。
さて、小さなアパートから始まったジブリは、世界的なブランドとなりました。
その旅路の果てに、私たちは何を見るのでしょうか。
次回、「あなたが映画館で見る夢(終)」。
第十八章、感動の最終話です。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。
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