ビデオがアニメを救った日 第6話:レンタルビデオ屋の棚に並ぶ夢(終)
作者のかつをです。
第十七章の最終話です。
OVAというメディアがいかにしてアニメの可能性を広げ、現代に繋がる多様性を生み出したのか。
その歴史的な意義を描きながら、この章を締めくくりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
1990年代に入ると、OVAの市場にも変化が訪れた。
「レンタルビデオ」の普及である。
街のあちこちにレンタルビデオ店ができ、人々は高いソフトを買わなくても、数百円で気軽に作品を楽しめるようになった。
それはアニメファンにとって福音であると同時に、OVAというビジネスモデルにとっては転換点でもあった。
「買う」から「借りる」へ。
一部のマニアが高額なソフトを買い支える時代から、より多くの人が気軽に作品に触れる時代へ。
市場は拡大したが、同時に「売れる作品」の傾向も変わっていった。
誰もが知っている有名シリーズの続編や、分かりやすいエンターテイメントが好まれるようになり、かつてのような実験的で尖った作品は作りづらくなっていった。
やがてバブル崩壊と共にOVAブームは沈静化し、アニメの主戦場は再びテレビ、そして深夜アニメの枠へと移っていった。
しかし、OVAが遺したものは決して消え去ってはいない。
『機動警察パトレイバー』。
当初は低予算のOVAシリーズとしてスタートしたが、そのリアルな設定と魅力的なキャラクターが人気を呼び、後にテレビアニメ化、劇場映画化され、大ヒットを記録した。
『銀河英雄伝説』。
全110話という前代未聞の長編シリーズを、テレビ放送なしですべてOVAとして完結させた。これはOVAという形式でなければ絶対に不可能な偉業だった。
これらの作品群は、テレビの制約に縛られない自由な環境があったからこそ生まれた。
そして、そこで育った庵野秀明をはじめとするクリエイターたちが、後の『新世紀エヴァンゲリオン』などの社会現象となる作品を生み出していったのだ。
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場した会社員。
彼は見終わった配信アニメのエンドロールを見ながら、ふと思う。
「この作品、もし昔だったらテレビじゃ放送できなかっただろうな」
彼は知らない。
今、自分がスマホやPCで楽しんでいるその自由な表現の数々が、かつて「ビデオ」というメディアを武器に、テレビという巨人と戦った開拓者たちが勝ち取った「自由区」の遺産であることを。
黒いプラスチックの箱は姿を消した。
しかし、そこに込められていた「誰にも邪魔されず、作りたいものを作る」という熱い魂は、デジタルの信号となって、今も世界中のスクリーンを駆け巡っている。
ビデオがアニメを救った日。
それは、日本のアニメが「子供のもの」から「みんなのもの」へ、そして「個人のもの」へと進化した、静かなる革命の日だったのだ。
(第十七章:ビデオがアニメを救った日 ~OVA、表現の自由区~ 了)
第十七章「ビデオがアニメを救った日」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
現在、NetflixやAmazon Prime Videoなどの配信オリジナル作品が隆盛を極めていますが、これらはまさに現代のOVAと言えるでしょう。メディアは変われど、クリエイターの自由な魂を求める旅は続いています。
さて、次なる物語は、あのアニメ界の巨匠たちが、自分たちの理想の城を築くために船出する物語です。
次回から、新章が始まります。
**第十八章:風の谷の職人たち ~宮崎駿とスタジオジブリの船出~**
『風の谷のナウシカ』の成功を背に、商業主義とは一線を画し、最高のアニメーションを作るためだけに設立されたスタジオジブリ。
その誕生の裏にあった、鈴木敏夫、高畑勲、宮崎駿、三人の男たちのドラマを描きます。
引き続き、この壮大な旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
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それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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