ビデオがアニメを救った日 第4話:表現の自由区
作者のかつをです。
第十七章の第4話をお届けします。
規制のない自由な空間。
そこでクリエイターたちは何を表現しようとしたのか。
バイオレンス、メカ、美少女。今のアニメ文化の「濃い部分」の源流は、間違いなくこの時代にありました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
深夜、カルト的な人気を誇る古いOVA作品のリマスター版が、ミニシアターで上映されている。スクリーンに映し出されるのは、手描きのセル画による圧倒的な書き込み、飛び散る鮮血、そして妖艶な美少女たち。観客たちはその「濃さ」に酔いしれている。「今のテレビアニメじゃ、コンプライアンス的に絶対無理だよね」。そんな囁きが漏れる。
OVAというフォーマットは、アニメーションにおける「表現の自由区」だった。
『ダロス』以降、雨後の筍のようにリリースされたOVA作品群。
そこは、クリエイターたちの実験場であり、欲望の解放区でもあった。
例えば、バイオレンス。
『暴力教室』や『マッドブル34』のように、テレビでは即座にカットされるような過激な暴力描写やスプラッター表現が、OVAでは許された。血はより赤く、破壊はより徹底的に描かれた。それは社会の鬱屈を晴らすような、強烈なカタルシスを視聴者に与えた。
例えば、メカニック。
『メガゾーン23』に代表されるように、変形するバイクや緻密なロボットの描写に、アニメーターたちは持てる技術の全てを注ぎ込んだ。時間とお金をふんだんに使い、テレビシリーズでは不可能な枚数の動画を使って、鉄と油の匂いがするようなリアルな動きを追求した。
そして、美少女。
『クリィミーマミ』の成功以降、アイドルや魔法少女は人気のジャンルだったが、OVAではよりターゲットを絞った「男性ファンのための美少女」が描かれた。『幻夢戦記レダ』のビキニアーマーの戦士のように、セクシーで魅力的なヒロインたちが、ビデオのパッケージを彩った。
この「自由区」は、才能ある若手アニメーターたちにとっても最高の遊び場だった。
庵野秀明、板野一郎、梅津泰臣。
後に巨匠と呼ばれることになる彼らは、このOVAというフィールドで、誰に気兼ねすることなく自らの作家性を爆発させ、技術を磨いていった。
「面白いものなら何でもあり」
「売れれば正義」
そこには、混沌としたエネルギーが渦巻いていた。
もちろん、中には質の低い作品や、単に過激なだけの作品も混ざっていた。玉石混交のカオス。しかし、そのカオスこそが、日本のアニメーションの表現の幅を劇的に広げたことは間違いない。
テレビという「表通り」では決して育たなかったであろう、毒々しくも美しい花々。
それらが咲き乱れたのが、80年代から90年代にかけてのOVAという花園だったのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
『メガゾーン23』は、当時の若者たちに絶大な影響を与えました。バイクがロボットに変形するというギミックもさることながら、虚構の世界に生きる若者たちの姿を描いたストーリーは、後の『マトリックス』にも影響を与えたと言われるほどです。
さて、こうした作品を支えていたのは、もちろんファンたちです。
彼らの熱狂的な購買行動が、このバブルを支えていました。
次回、「マニアたちの熱狂」。
高価なビデオソフトを買い求めた、オタクたちの生態に迫ります。
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