ビデオがアニメを救った日 第3話:ダロスの衝撃
作者のかつをです。
第十七章の第3話をお届けします。
世界初のOVA『ダロス』。
今見てもその硬派な内容は色褪せません。
テレビ放送という縛りから解放された時、アニメがどれほどのポテンシャルを発揮するのか。それを証明した記念碑的な作品です。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
1983年12月。
東京のレコード店や家電量販店のビデオコーナーに、見慣れないパッケージの商品が並んだ。
タイトルは『ダロス』。
パッケージには「世界初のオリジナル・ビデオ・アニメーション」という文字が誇らしげに躍っていた。
監督を務めたのは、当時『うる星やつら』で斬新な演出を見せ、アニメファンの間で注目を集め始めていた若き鬼才、押井守。
そして彼の師匠でもあるベテラン、鳥海永行。
彼らが作り上げたその作品は、当時のテレビアニメの常識を遥かに超えていた。
物語の舞台は、資源採掘のために開拓された月面都市。
そこで繰り広げられるのは、過酷な労働環境に耐えかねた月面開拓民と、地球政府軍との血で血を洗うゲリラ戦だった。
正義の味方はいない。
改造された作業用機械が兵器として暴れまわり、治安警察の犬が容赦なく市民を弾圧する。
画面全体を覆う、乾いた埃っぽい空気感。
リアルな銃器の描写、重厚な人間ドラマ。
そして、解決されないまま終わるビターなラスト。
それは、日曜の朝に子供たちが観るような代物では断じてなかった。
実写映画のようなリアリズムと、ハードなSF設定。
「なんだこれは……」
ビデオデッキにテープを押し込み、再生ボタンを押したアニメファンたちは息を呑んだ。
テレビでは絶対に放送できない。
しかし、これこそが自分たちが観たかった「大人のためのアニメ」だ。
『ダロス』は商業的にも成功を収めた。
一本数千円から一万円もする高価なビデオテープが、飛ぶように売れたのだ。
この成功は、業界に激震を走らせた。
「テレビの放送枠がなくても、アニメは作れる」
「ファンは、本当に面白いものなら高くても買う」
その事実は、これまで「テレビ局」と「玩具メーカー」に首根っこを掴まれていたアニメ制作会社にとって、まさに福音だった。
制作会社は、自らの企画力で勝負ができるようになった。
クリエイターは、視聴率やスポンサーの意向を気にせず、自分の作りたいものを作れるようになった。
『ダロス』が開けた風穴から、堰を切ったように新しい企画が溢れ出した。
SF、ファンタジー、ホラー、美少女。
あらゆるジャンルの「テレビではやれない企画」が、OVAという形を得て世に放たれることになったのだ。
それは、アニメーションという表現媒体が、子供向けのおもちゃ箱から飛び出し、無制限の荒野へと足を踏み出した歴史的な瞬間だった。
押井守という異能の作家が放った一撃は、アニメの未来を決定的に変えてしまったのである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
『ダロス』の成功を皮切りに、OVA市場は急速に拡大していきます。それは同時に、押井守監督のような作家性の強いクリエイターが活躍できる土壌が整ったことも意味していました。
さて、自由を手に入れたクリエイターたち。
彼らの実験はさらに加速し、アニメ表現の極北へと向かいます。
次回、「表現の自由区」。
OVAだからこそ可能だった、過激で濃厚な世界へご案内します。
ブックマークや評価、お待ちしております!
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