295.御神幸(8)
まだエマージェンシーボタンが押された様だ、地球か。
トロと市国へ世渡りをした。
どうやら戦争とかではなく、トロの家族の話らしい。
私は食事に専念しよう。
「実は、妹の具合が悪いらしく・・先天性の疾患でして・・・もう余命幾ばくもないとか」
「地球に帰る?」
「いえ、そういうことではなく、なんとかならないかなーって」
「先天性の疾患って、回復やリペアとかエリクサーとか効かないよ」
「そうですね、でも何か方法がないかと」
「そもそも生物の進化のために様々な変化が起き、死ぬように出来ているのは知っているよね。そういう変化は必要悪でそれこそが生物である証しよ。
もし、なんとかする方法があったとしたら、それは人が人でなくなるって方法になるよ。
例えば女神になる、は無理ね、力が必要だからね。
妖精や精霊なら可能性があるけど、魔力のない地球ではすぐに消えてしまう。
魔獣になっても同じ。
ゴーレムに魂を埋め込む、死体に魂を埋め込む、・・・とかは出来るけど
とにかく地球では無理ね」
「そうですか、治せないんですね・・」
「女神の辞書に『不可能』はあるわ
とにかく会ってみようか?」
「お願いします。」
久々の日本だ、色々新しい建物は多少増減しているが大きくは変わらない。
「所で何処へ行けばいいの?」
「・・それを言う前にここは許してほしいですね」
「なんで? スカイツリーのてっぺんは見晴らしが良いでしょ」
「◯◯病院へお願いします、 あそこの黒い高いビルの右下の所に看板があります」
「パスポートは市国から貰っているけど、通関通ってないけど良いよね」
「私は了承できる立場にはありませんが、バレなきゃ良いでしょ」
転移で◯◯病院の屋上に来た。目立つからね。
「今、目立たないようにここに来たって、ドヤ顔してませんでしたか?」
「ええっ?」
「その服装目立ちますからね」
「そっか」
どろん〜
「変身!〜普通の服装」
幻術で身なりを普通の女性っぽくしてみた。
サイズは中学生ぐらいだけど・・・
「良いですね、妹の友達って感じですね、名前はパスポートのまま『エラン・ユグエンドーラ』にしましょうか」
悲しいが、そういう見栄えになってしまう。万年少女エラン。
「さあ行きましょう」
「一旦外に出てから面会の手続きを・・・」
「はい」
面会手続きを終えて、妹さんの病室に向かう。
「妹さんの名前は?」
「前須 妙」
「マエスター? え?」
「ふざけないで下さい」
ふざけているのは名前の方だと思うけど?
「お兄さん・・久しぶりですね、病弱な妹を一人にして」
おっ険悪なムード?
「ここの維持費も大変なんだ、わかってくれ」
「冗談よ、来てくれてありがとう。嬉しいわ ゴホッ、ゴホッ
それで今日は彼女を紹介しに来たの、 ・・未成年を・・犯罪よ」
よかった、冗談が通じるらしい。
「ちがうわ!、これでも私の上司だ
エラン・ユグエンドーラ様だ」
「若い上司ね、私は 前須妙よ、兄が迷惑かけてないでしょうか」
「今は私専属の料理長をしてもらっているわ、優秀だから助かっているわ」
「えっと、市国の方でしょうか? 日本語が上手ですね」
「妙、市国のニュースは聞いてないか?」
「女神様が降臨なされて・・大国を破滅に追いやったとか・・・ひょっとして女神様!?」
「正解!」
個室で誰も居ないので、元の姿に戻った。
起き上がろうとしていたので止めた。
「そのままで良いわ、楽にしていて」
「はいっ・・・その・・・実は大ファンでして・・サインを下さいっ・・・」
サインなどしたことは無いが、あちらの言葉で名前を書いてあげた。・・それらしく見えるだろう。
それから近況など面白おかしく話していたが、面会時間は残り少なくなった。
「体の状態を確認しても良い?」
「はい、お願いします」
どれどれ・・・うーん、
やはりDNA上に不具合があるようだ。
「弱っている様だから回復を掛けても良い?」
「はい」
これは医療行為じゃないから良いよね。「元気になぁ〜あれ」という単なる励ましの言葉だ。
体がほのかに光りバイタルが安定し顔色が良くなった様だ
「でも根本治療は出来ないわ」
そう、DNA情報に従って修復回復されるので、現在が正常と判断されるのだ。 また症状は進行していく。 この時代遺伝子治療はまだ限定的みたいだ。 神にはそもそも遺伝子治療という概念がない、遺伝子に変化をもたせることで種としての存続を優先する。 偶発性が進化を促す。それは個人としては成功もあれば失敗もある。 それが種として失敗か成功かは後々の世代にならないとわからないのだ。 そしてそれが種としての存続につながる。
「これは栄養ドリンク(エリクサー)よ、具合が悪くなったら使って」
瓶に『女神様の栄養ドリンク』とかいてある、薬じゃないから良いよね。
「これが、あのおとぎ話で出くる・・高いのでょ?」
「市販品は高いけど、これは私が作ったから只よ」
「いや、それ、更にプレミア付くんじゃないの?」
「お兄さんと話したんだけど、治せないの
少なくとも人間の状態では無理みたい」
「人間でなければ方法はあるんですか?」
「所謂リボーン、転生なら出来るけど『治す』とは違うから、
ゴーレムとかに魂を貼り付けるとか・・死体は嫌よね
とにかく地球では無理」
「そうですよね・・」
「とりあえず考えておいて・・またくるわ、私達帰るから緊急時にはこれを押してね」
エマージェンシーボタンを渡しておく




