002.ぽしょなれの日々(2) ◯角素麺
蕎麦屋に連れてこられた、いつもの社長さんだ。
「好きなものを頼め」
まただ、こうやって俺を試してくる。
だれが蕎麦を注文してやるものか、蕎麦屋で蕎麦みたいな常識的なことをしていてはいけない。
奢られる者として奢る側を楽しませなくてはならないのだ。
「七年も物の素麺を」
どうだまいったか、社長。
「はい、七年ものですね」
えっ、あるの?
負けた、社長は笑っている。
敗北感と一緒に素麺を味わった、熟成した素麺でコシがあり風味も豊かだ。
この店には通いたい。
大将が裏メニューを見せてくれた、熟成年数毎に1000円増えていく
ゴメン社長。
それと通えない。ゴメン大将。
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昔、富山の出張の帰りに別の社長に持たされたお土産、◯角素麺。
一度食べてみたかったが高くて買えなかったものだ。
大切に保存して(忘れていて)七年の月日が経った。
七年物の素麺だ。
袋を開けてみたがカビてはいない。異臭もしない。
恐る恐る茹でて食べてみた。
異常に美味しい。なんだこれは。
七年も熟成した麺はコシがあり歯ごたえも味も今までに食したことがない異次元の素麺だ。
これなら高くても納得である。
それから七年、また食べたくなった。
今買っても七年またなくては、、
いや、たくさん買って1年毎に味を確かめれば、
それでは味を忘れてしまう。
毎年少しづつ買って、保存していけば7年後には一度に比べて食べられるのではないか。
年越し素麺も良いものではないか、むちゃくちゃ長い麺だし蕎麦よりも適しているのではないか。
足掛け21年のプロジェクトだ。
年越しそばは、蕎麦屋の仕掛けた罠か。我々はいろいろなものに踊らされているな。
俺は年越し素麺派になって対抗しよう。
『年越し素麺は◯角素麺』