172.獣人国(38) エワンの冒険(1) 出港
エラン(・ワン)は無事学園を卒業した。分体を作った事で成績はもちろん出席日数も満たした。
当然、各地・各部署・各人から来ないかとお誘いがあったが。全て断った。浮いた話ももちろん無い。
エラン・ワンは役目を終えたため、エシックスと同じ様に変装して獣人国で冒険者として活動する事にした。『エワン A級冒険者』で登録して幻術で姿を偽装した。
獣人国はエラン(・フォー)が国王をしているが、獣人大陸全土の王である、色々と多忙で西海岸の獣人部族の視察が出来ていないし、獣人国大陸と魔人国大陸の間の海も行っていない。エワンは冒険者ではあるが国王代理として西海岸の視察の指名依頼を出すことにした。
と同時にA級冒険者では箔が足りないと、依頼とともにS級に昇格することにした。
いきなり出向いても良いが、ここは順を追って進むことにする
場所はエラン領の港。
実は東海岸の人族大陸と魔人大陸間の貿易船ルート開通から少し遅れて人族大陸と獣人族大陸間の貿易ルートも開通している。貿易船の仕様は同じだ。また同じ様に押収した船もエラン領の商社に払い下げしている。本来はステライズ帝国ユグエンドーラ領の物だが、エラン領の資金調達のために移譲している。
払下げはもちろんロレイン商会だ。
エラン商会の貿易船にはエラン専用部屋があるのでそこを使用して海を渡る。
同行者は、飛竜のドーラと魔人族のアニーと召喚体のマギドラだ。マギドラは軽く見られないように必須だ。
幻影で姿を変えているがサイズまで偽装するのは無理があるのだ、ちっこいマギドラじゃ威厳ないし。まだ少女の方がマシだ。従って顔立ちと髪の色だけ偽装している。
クラークケンタも特殊な魔道具を搭載した船は襲わないように言いつけてあるし、私が居ればもちろん襲われる事は無い。と言うより護衛してくれている。もちろんロレイン商会に払い下げた船にもその魔道具は付けてあげている。その他の船は、知らない頑張ってくれ。
この魔道具は独占しているわけではなくエラン領又はユグエンドーラ領から一つ金貨2000枚で販売している。少し高いが、船の安全には代えられない。金貨3000枚以上の払い下げ船を買うと付いてくるのでお買い得だ。魔道具が要らないと言えば原価である金貨1000枚引きになる。
原価と言ってもエランが採掘採取した物の価値なのでエラン大儲けである。
今回は気ままな海の旅ではなく、海底調査も含まれている。物体探査の精度が上がったので、海底の地図も作成しようと言うわけだ。今回は静止衛星もあるのでかなり精度の高い地図が出来るはずだ。
海底地図を作ると言ってもスキル任せなので煩わしさは無いが、他のことは出来ない。外から見たらまったり寝ている様に見える。
ドーラは時々飛び回って魚などを獲ったり鳥を獲ったりして楽しんでいる。アニーとマギドラは何もしない余暇の使い方がわからない様だ。マギドラに釣りでもしたらと勧めてみた。
なんか10メートル程の巨大魚を釣ってきたので乗員達に振る舞った。楽しかったらしいが、その後釣れ過ぎて飽きてきたみたいだ。
ん? 海底にドームがある、海底人かな? 要観察だな地図にチェックを入れておく。
えっと、マギドラが海底人を釣ってしまった様だ、どうしよう。外交問題になるかな。
念話使えるかな?
ぎょぎょぎょっ、ぎょぎょ
分からない
〈念話使える?〉
〈助けてくれ〉ぎょぎょ
〈ごめん釣っちゃった、帰っていいよ、穏便に済ませてね〉
〈俺じゃない、仲間を助けて欲しい〉ぎょ、ぎょぎょぎょ
〈どうしたの?〉
〈クラーケンに襲われている〉ぎぎょーぎょ、ぎょぎょ
〈ちょっと待って〉
〈クラークケンタ、海底人を襲っている?〉
〈いいや、ちょっと卵を産んでる〉
メスだったのか、クラークケンタはまずかったか
〈ひょっとして海底ドーム?〉
〈ちょうど良いところがあって〉
そこだ
〈海底人その1、クラーケンは卵を産んでいるだけ、大丈夫〉
〈孵化したら俺達は食われる〉ぎょ、ぎょっー
〈クラークケンタ、孵化したら別の所で育てられる? ちょっと海底人が困っていて〉
〈いいぞ、でも最初の1〜2匹はくわれるかな〉
〈海底人に面倒見てもらう環境を整えたら?〉
〈難しいな〉
〈卵の状態でティムしたらどうかな? ティムの恩恵があれば生き残りやすいし〉
増えすぎても困るけど
〈いいぞ〉
「みんな、ちょっと行ってくる」
じゃぽ〜ん、結構深いのでバリア全開だ
卵沢山あるなぁ100個はあるな、全てティムして〈海底人食べないでね〉と念じておく〈・・・〉返事があった気がする何処まで有効かわからないけど
〈海底人さんとりあえずクラーケンに話を付けてきた〉
〈卵を守っている間は大丈夫だと思う〉
〈ほんと?〉ぎょ
〈卵を傷つけたら保証でないけど〉
〈帰って説明する〉ぎょ、ぎょ
〈クラークケンタ、宜しくね〉
〈わかった〉
「マギドラ、話は付けた、海に帰してやれ」
どっぱーん
どうなるかわからないが出来ることはした、戻ろう。
そう言えば名前も聞かなかったな、私も言わなかったけど。まあいいか
あまり干渉しすぎてはいけない
また船の旅は続く
クラーケンに乗った海底人が見かけられるようになるのはもう少し先の話




