第五話
翌朝……いや翌朝というよりも当日の朝。
鏡を見ると我の目が血走っている。目がギンギンです。二度寝でもしようと思っても、まだ眠れる気がしない。仕方なく、今日も冒険者ギルドに向かう準備をする。
今日の装備はアダマンタイト製なのだから、予知夢ということはあるまい。その点については安心しながら、装備を身につける。まあ、ミイラ男どもがいる所に行くというのが安心できないけど……。
ペチペチと顔を叩いて気合を入れる。
(これも勇者に殺されないために必要な努力だ)
理由をつけて自分に言い聞かせる。甘やかされて育った我としては成長を感じる。その成長を心の内で誇らしげに思いつつ、転移魔法でいつもの街の側の木の陰に移動した。
早速街の入り口に向かう。そして警備兵に我の方から挨拶をしてみる。
「おはようございます」
装備を変えたので、昨日のように「お前誰?」と言うことにならないようにするためだ。
「えっと……昨日オリハルコンを装備していた人ですよね?」
なぜか戸惑っている。
まあ、昨日引き留められたのは、最強装備のオリハルコンを装備しているあまり見たことないやつが来たなと、不審に思い確認したのであろう。だが、今日の疑問形はなんだ? とりあえず、冒険者の証であるブレスレットを見せた。
「ぼ、僕は冒険者です」
「……はあ……お通り下さい」
お辞儀をして街に入る。警備兵が何を言いたかったのか全く理解が出来ない。人間とはよくわからないものだ。
そして、冒険者ギルドの中に入る。我が室内に入ると周囲の者達がどよめいている。何事かと思い、周囲を見渡す。全員我に視線が釘付けになっている。
(ん? なんだ? 何かおかしかったか?)
状況がよくわからないけど、とりあえず依頼掲示板を見る。今日は薬草採集の依頼はないようである。他の素材の採集依頼を確認する。すると洞窟での鉱石の採掘依頼があった。
(洞窟か……ちょっと怖いな。昨日のやつらが仕返しに、またついてきたりしないかな?)
そっと冒険者達が座っている方に目を向ける。昨日の包帯だらけの男たちはぽかんとした顔をしている。危険察知スキルを確認しても何も危険はないようである。
よくわからんけど、害がないようなら平気だろうと思い、採掘の依頼書を剥がして、受付に持って行く。そして受付の女性に挨拶をした。
「お、おはようございます」
「……おはようございます」
ん? 受付のお姉さんも目を丸くしているぞ? 疑問を抱えたままがなんとなく気持ち悪いので聞いてみる。
「あ、あの。僕の何かおかしいですか?」
受付のお姉さんは慌てて否定する。
「いえ、そんなことはありませんよ。ただ、昨日はオリハルコンの装備をしていて、今日はアダマンタイトの装備をしているのが凄いなって思いまして」
我は問題点に気づいたかもしれない。でも、気のせいであってほしいと思いつつ、一応確認する。
「ひょ、ひょっとしてアダマンタイトの装備品も高級品?」
「あ、はい……」
我の回答が当たりだよ!
今日の所は諦めることにした。更にグレードの低い武器にしないといけないとは。人間の普通の感覚がわからんな? いや、庶民と大金持ちの差か?
そんなことを考えつつ、鉱石の採掘依頼を受けた。
冒険者ギルドを出ると背後をじっと見つめる。
どうやらつけてくる人間はいなそうだ。昨日の包帯だらけの男たちも、マリアさんにぼこぼこにされて懲りたのであろう。ほっと胸をなでおろし、採掘場に向かおうとした。
だが、うっかりしていた。その前につるはしやスコップがいるのでは? 採掘に必要な道具は想像つくが、どこの店で買うのかが分からない。雑貨屋か? いや、雑貨とはなんか違うな? つるはしやスコップは武器になりそうだが武器屋にでもあるのか? そう結論付けて武器屋に向かった。
武器屋に入り店内を探す。しかしつるはしもスコップも見つからない。勇気を出して店主に聞いてみることにした。
「あ、あの、つるはしとスコップはないですか?」
「はぁ? うちは武器屋だよ? つるはしとスコップなんてあるわけないだろ」
呆れ気味に言われてしまった。
「す、すみません。あの、どこのお店で売っているか教えて貰えませんか?」
「つるはしとスコップなら金物屋で売っているよ」
金物屋か。想像がつかないが土木工事の道具でも扱っているお店かな? とりあえず教えてくれたお礼を言って武器屋を出た。そして金物屋を探す。店を出てから後悔する。
(あ~、場所も聞けばよかった)
だが、武器屋に再突入して金物屋の場所を聞く勇気はない。仕方なく歩いて探し回る。歩き回りようやく見つけた。依頼の採掘を行う前に既にヘロヘロ。だが、我の命がかかっているので頑張って店の中に入る。
「いらっしゃいませ」
声をかけられて驚いた。
カウンターにはそこそこ年を取ったような女性がいる。確か魔王城で人間のことを学んでいた時に教わった気がするな? 熟女っていうんだっけ? その熟女につるはしとスコップがないかと聞いてみる。
「つ、つるはしとスコップないですかね?」
「つるはしとスコップですか? ひょっとして採掘でもするのですか?」
「ええ、冒険者ギルドの依頼で鉱石の採掘をやるんですよ」
「冒険者になりたてですか?」
「は、はい。わかるですか?」
そう答えると笑い気味に言ってくる。
「やけに緊張しているし、買いに来たということは採掘が初めてと思いまして」
「あ、ああ、そうなんですね。いや、そうなんですよ」
そう言うと熟女はカウンターの椅子から腰を上げて、つるはしとスコップを見繕ってくれた。そして麻袋も見ている。あれ? 我は麻袋のことは何も言ってないけどなぜだ?
そう考えていると、熟女の店主はカウンターの椅子に座り話しかけてきた。
「はいよ。初心者ならこのつるはしとスコップが使いやすいよ。それとアイテムボックスがあるかもしれないけど、個別に入れると大変だから、麻の袋に入れてからアイテムボックスに入れるといいよ。麻袋はうちで買ってくれたおまけだよ」
おお! 助言をしてくれたし、しかも麻袋をおまけでつけてくれた。人間も優しい人がいるもんだ。昨日の三人組とは大違いだ。
「あ、ありぎゃとうございます」
照れて思わず噛んでしまった。くすくすと笑われた。だが、なんとなく心地いい笑われ方だ。
(なんか平和でいいな~)
商品を受け取ると、アイテムボックスにしまった。お礼を言って店を出た。
優しさに触れたことにより、気合を入れる。うん、採掘を頑張ろうと思える。採掘場所に辿り着くと、腕まくりをしてつるはしを取り出した。そして、鉱山内に入って行く。
中には専門の鉱夫らしき人もいて、既に作業を行っていた。我は空いている場所を探した。中々混んでいる。かなり奥まで進み、やっと場所を確保した。
早速、採掘を開始する。ガキン! と音がして手に衝撃が伝わって来た。何度か繰り返していると手が疲れた上に痛いので、休憩を取った。
休憩しながら辺りの鉱夫を見ると、黙々とつるはしで採掘を行っている。
我の短い採掘時間と長い休憩を逆にした感じで働いている。思わず感心する。それを見て我も頑張ろうと刺激を受けた。
再びつるはしに手を伸ばして、それを力いっぱい振った。何度かやっているうちに何か赤みを帯びた金色の鉱石が見えてきた。
(うん? なんだこれ? オリハルコンじゃないのか? 我が依頼で必要なのはミスリルなのだが)
こんなものはいらんと麻袋に雑に投げ込んだ。その後も採掘を行うが、出てくるのはオリハルコンばかり。大きな麻袋の半分はオリハルコンで埋め尽くされてしまった。
我は両ひざをつき、頭をがくりとうな垂れた。
周囲の人たちの採掘具合が気になり、近くにいる鉱夫の麻袋の中をこっそりと覗き込んだ。
するとミスリルがいっぱい入っている。よだれを垂らすように麻袋を見ていてすぐに気づかなかった。こちらを見る視線がある。目をそちらに向けると、その麻袋の持ち主だった。その鉱夫も呆然として我の麻袋を見ていた。
(なんだろう? ゴミばかり掘っているとでも思われたか?)
疲れたし、恥ずかしさで逃げ出したくなった。帰り支度をしてその場を離れた途端に、その隣で採掘をしていた鉱夫がずれて来て、我のいた場所を確保した。
(チャンス!)
そう思い、我はその鉱夫がいた所を確保するとが出来た。採掘を再開すると白銀色の鉱石、ミスリルが出て来た。
(ふお~)
ミスリルが出て来たことに感激して、掘りまくる。その勢いに唖然としたのか、我がいた所に移動した鉱夫が声をかけてきた。
「兄ちゃんすげえな?」
夢中になっていた所に突然声をかけられて驚いた。
「え? あ?」
「いやいや、次々に掘って凄いなって」
「い、いや~それほどでもあります」
照れていると鉱夫のおっさんが聞いてきた。
「ミスリルが欲しいのかい?」
「ええ、そうなんです。ミスリルがもっと必要なのですよ」
鉱夫のおっさんがにやりと笑う。
「その麻袋の中のオリハルコンと、俺の麻袋のミスリルを交換しないか?」
そう提案された我はつるはしで掘るのをやめて、両方の麻袋に目をやる。
我の麻袋の中にオリハルコンが半分の量、入っている。まだまだミスリルを掘らないといけない。一方、鉱夫のおっさんの麻袋はミスリルが上まで満杯になっている。我は喜びを隠しつつ、その提案を受け入れた。
(こいつ馬鹿だな。半分しかないオリハルコンを、袋いっぱいのミスリルと交換してくれるとは)
しめしめと思い交換した。もちろん我はオリハルコンとミスリルの価値なんぞ知らないが。
相手の気が変わる前にそのミスリルをアイテムボックスにしまった。ほくほく顔で鉱山を出て冒険者ギルドに向かった。
ギルドの受付で依頼書と採掘したミスリルを渡して確認してもらう。
その間、暇なので依頼掲示板に目を通す。すると依頼書が増えていた。
内容はオリハルコンの採掘依頼であった。価格に目をやるとミスリルの二十倍の報酬金額になっている。
(え? えーっと? 我のオリハルコンが袋いっぱいだった場合に考えると二十倍。その半分ということだから十倍。え? あの時点でミスリルの十倍の報酬金額が貰えたの? つまり十倍の利益を失ったってこと?)
椅子に座りうな垂れる。心にダメージを受けたせいか身体もドッと疲れた。そして何より手の平の痛みを感じる。豆が出来て潰れ、血が出ている。甘やかされていた我が、努力をした結果がこれとは涙が出そうだ。落ち込んでいると女性に声をかけられた。
「こんにちは。マオさん」
声をかけられて顔を上に向ける。するとそこにはマリアさんがいた。
「こんにちは……」
「依頼終わりですか? うわ、手が痛そう」
マリアさんが我の手を取り、回復魔法をかけてくれた。痛みが引き、傷も綺麗に治った。
マリアさんの優しさに思わず愚痴が出た。
「採掘の依頼でドジなことをしちゃいまして」
「ドジなことですか?」
マリアさんは不思議そうに首を傾げる。我は続きを話した。
「依頼掲示板にミスリルの採掘があったんですよ。それでその依頼をやっていたら、オリハルコンばかりが出て来て麻袋の半分になったんです。それを隣で採掘していたおじさんがミスリルがいっぱいに入った麻袋と交換しようと提案してきて、それを受けてしまったのです。ギルドに戻ると依頼掲示板には新しくオリハルコンの採掘があって、しかも報酬金額が二十倍だったのです。なんか損した気分でして……」
最後の方は小声になった。そんな我にマリアさんが言葉をかけた。
「マオさんは立派なことをしましたよ?」
「立派なこと? ドジをしただけに思えますが」
「いいえ、ミスリルの依頼を出した人は助かりました。喜んでいるでしょう。マオさんは人助けをしたのです」
言われて見るとそんな気がする。いや、我がチョロいのか? だが、心が洗われた気分だ。我はお城を構えるほどお金持ちだし、オリハルコンの装備もたくさん宝庫にある。
報酬金程度なんだと思えてきた。なんか元気が出て来た。すると、マリアさんに対して普通に話を出来ていることに気づいた。ひょっとしてコミュ障治った?
試しにマリアさんに話しかけてみることにする。
「マ、マリアしゃん、ありがとうございましゅ」
全然ダメダメであった。単に気分が落ち込んでいて、普通に話せたみたいだ。気分が戻ったら人と話す焦りも戻った。
そして、受付の女性に呼ばれた。どうやら確認が終わったようである。
「マリアさん、ありがとうございました」
お礼を言って席を立ち、受付に向かう。するとマリアさんもついてくる。なんで?
とりあえず気にしないで受付で報酬を受け取る。するとそれ以外のことも受付の女性が言ってきた。
「マオさん、おめでとうございます。ギルドランクが上がりました。Dランクです。今後Dランクの依頼を受けることが出来るようになりました。当然、今までのEランクの依頼を受けることも可能です
すると横からマリアもお祝いしてくれた。
「マオさん、おめでとうございます!」
思わず照れて顔が赤くなってしまいそうである。恥ずかしさで顔を俯かせながら二人にお礼を言う。
「あ、ありがとうございます」
「マオさん。それじゃあ今後、私と一緒に討伐の仕事をしませんか? 私もDランクなのですよ」
「え?」
驚いてマリアさんの顔を見た。我の顔は恐らく赤から青に変わったであろう。討伐ってあれだよね? 魔物や魔族を討伐する奴だよね? 魔物ならともかく、魔族は我の部下なのだが……。
「え? いや? あ? えっと?」
言葉が出てこない。我は一体どうしたら良いのか。そんな我の挙動を悪い意味で受け取ったのか、マリアさんはシュンとした顔で落ち込んでしまった。
「ごめんなさい。私とパーティを組みのは嫌でしたよね……」
我はそんなことは思っていないので、慌ててフォローする。
「い、いえ、違います。突然誘われたのにびっくりしちゃって、反応できなかっただけです。よろしくお願いしましゅ」
相変わらず嚙んだ。でも、今はそんな些細なことはどうでもいい。我は女性を泣かせるような真似はしたくないので必死である。そんな気持ちが伝わったのか、マリアさんは笑顔に戻った。
「よかった。明日からよろしくお願いしますね」
そして、マリアさんと別れて、魔王城に戻った。
ベッドで寝転び顔を枕に埋めて考える。
(困った……。魔物を討伐する時はまあ別に良い。魔族を討伐する時は、下っ端だと殺しても問題ない。我の魔力でいくらでも生み出せる。問題は自我を持った幹部どもだ。自我があるものを殺すのは抵抗もあるし、そもそも、今の我の実力では事前に打ち合わせをして、相手に殺されて貰うくらいしか出来ない実力差である。普通に一対一で戦うと我が負ける)
しばらく悩みつつも閃いた。幹部におとなしくさせておけばいいじゃないか?
早速部屋を出て幹部の部屋へと向かう。基本的に我以外は雑魚寝となっている。
幹部の部屋の扉を勢いよく開ける。幹部の魔族たちの視線が一斉に我の方に向く。
「幹部の諸君。君たちには大事な任務をやって貰いたい」
すると、幹部たちが殺気を放ちながら立ち上がった。
「人間が入り込んでやがる」
「魔王様を暗殺に来やがったか」
「一人でのこのこ来るとは舐められたものだ」
そんなことを言われて気づいた。我は人間の姿に変身していたのだった。慌てて元の姿に戻り、幹部たちを宥める。
「我だ! 我だよ! ビビマオールだよ!」
幹部たちは、驚いていた。だが、幹部たちにも知らせずに人間に化けていたので仕方がない。皆納得してくれたようで、殺気が消えた。約一名を除いて……。
「本当に魔王様か? 魔王様は人間が変化で魔族に化けて入り込むかもと仰っていた。実は人間で魔王様に化けているのでは?」
部屋の幹部たちに殺気が再び戻って来た。いや、お前何言っちゃってくれるの? 確かにそう言ったけど、我の言うこと聞けよ!
「い、いや、本物の我だよ。魔王だよ!」
必死に説得した。何しろ命がかかっている。命を守るために人間に化けたはずなのに、まさか身内に殺されるかもしれない状況になるとは……。
一番疑っている者が武器を構えて質問してくる。どうやら質問の内容で我が本物の魔王かどうかを確認しようとしているようだ。
「魔王様の苦手な食べ物は?」
「や、野菜全部と魚全部」
「食べられない理由は?」
「野菜は味がしないから。魚は骨を上手に取れないから」
幹部の皆が武器を収めて、今度こそ一人残らず殺気も消えた。
「本物の魔王様でしたか。失礼しました。それで何の御用でしたっけ?」
こいつら何事もなかったかのように済ませる気か? 上司であり魔王様である我に刃物を向けたくせに。まあ、とやかく言って忠誠心が下がり謀反が起きないほうがいいか。
「諸君にやって貰いたいことがある」
「やって貰いたいことですか? なんでしょうか?」
「うむ。幹部のみんなでこの城の防衛を任せたい」
「誰かが担当して、あとは人間どもを滅ぼせばいいのではないでしょうか?」
物騒なことを言い出した。
「いやいや、勇者を甘く見て足元をすくわれる可能性もある。百獣の王であるライオンは一匹のネズミが相手でも全力で戦う。あれ? うさぎだったっけ? まあいいや。とにかく、どんな相手であろうと油断せずに全力で立ち向かうということだ。勇者が魔王城に来た場合、幹部全戦力で戦えるように防衛していてほしいのだよ。わかるかね?」
「よくわからないけどわかりました!」
どっちだよ。わかったんだか、わからないんだか……。
まあ建前上は城の防衛だけど、事実上は待機していろということなのだが。幹部の者達も納得したようだし、これで問題解決だな。
「では、我は自室に戻る。我の部屋にはくれぐれも誰も入らないように。それとこの城の防衛は君たちに任せた。期待しているぞ」
「「「はい」」」
そして、部屋に戻り鍵を掛けた。ベッドにダイビングをしてほっとした。
(これで身内同士で殺し合いにならないで済む)
安心したせいか眠くなったのでそのまま寝た。
いつも読んで頂きありがとうございます。
初稿版では、ここまでが第一章となっております。
……一番ボリュームが多いところになってしまいました……。
応援や感想をお待ちしております。




