第四話
また転移魔法を使い、街の側の木に隠れる。隠れる必要はないんだけど、一応ね? 念のためね? ビビっているわけじゃないからね?
そして、木の陰から出て、街に向かう。すると、入り口の警備兵に引き留められた。
「……あの……どちら様ですか?」
どちら様とは? 昨日会った人なのに、こいつは我を忘れたのか?
「あ、あの、僕。ぼ、冒険者なんですけど」
そう言いながら、昨日、ギルドで貰った左腕にはめているブレスレットを見せた。
「あ! 失礼しました。どうぞお通り下さい。それにしても凄いですね」
我は、おどおどと、お辞儀をしながら、街の中に入る。何が凄いのだろう? 疑問に思いながらも街中を歩くと、視線をやたらと感じる。よく分からない視線に恐怖を感じて、急ぎ足で冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドの扉を開ける。中は騒がしい。しかし、冒険者達は、段々と声のボリュームを下げて、ひそひそと話を始めた。何故か視線が我に集まっているな?
魔王ということがバレたのだろうか? だが、なるべく平静を装い、「魔王じゃありません」という雰囲気を出しながら、依頼掲示板に向かった。そして、今日も薬草採取の依頼書を一枚剥がして、受付の女性に手渡した。
「お、おはようございましゅ」
緊張のあまり噛んだ。昨日も噛んだが、その時の受付のお姉さんは笑顔であった。だが、今日は困惑顔をしている。
「お、おはようございます……凄いですね? マオさんって貴族の方でしたか?」
何を言っているのか分からない。貴族? 何それ? とりあえず、知らない言葉だから、貴族とやらではないと思うので、否定しておく。
「い、いえ。違いますよ」
「そ、そうでしたか。でも、裕福なのですね」
受付の女性は、ほっとしたような安心した顔で答える。
依頼の手続きを済ませて、その場で依頼書をアイテムボックスにしまいながら、疑問に思う。
何で我を見て裕福と言うのか分からない。でも、貴族という言葉を知らんが、裕福ぐらいは知っている。お金持ちということだろう? まあ、城を持っているから、お金持ちといえばお金持ちだな。
「そうですね」
世間知らずなので、馬鹿正直に答えた。そのやり取りを見ていた周囲の空気が変わったような気がする。まあ、気のせいだろう。
早速、薬草採集の依頼場所に向かおうと、街中を歩く。すると、危険察知スキルが反応する。
(なんだ? 何が起きるんだ?)
不安に思い、歩きながら辺りを見回す。すると、後ろから、あくどそうな顔をした三人組の男たちがついて来ていた。
(なんだ? 危険察知スキルが、この三人に反応しているぞ?)
ヤバそう! と感じて走り出す。だが、雑魚ステータスだと差が開かない。
むしろ、追い付かれつつある。このままではまずいと思い、撒く為に狭い横道へと逃げ込む。そのまま道沿いに進んで逃げるが、袋小路になっていた。
(ヤバい! ヤバい! どうする? そもそもなぜ追われる? 魔王とバレた?)
男三人組が追い付いてきた。そして、逃げ道を塞ぐように、横並びに立っている。
「その武器と防具を俺たちに寄こしな!」
(武器と防具? なんで我の装備をお前らにやらないといけないんだ?)
疑問だが、とりあえず返事をする。
「え? いや、普通に嫌だけど?」
すると、三人組が顔に怒りを露わにして、威嚇するように叫ぶ。
「お前なんかにオリハルコンの装備なんて、勿体ないんだよ!」
「俺たちが使ってやるよ」
「はははっ! そう言うことだから、オリハルコンの装備を全部寄こせや。ついでに金目の物も」
なんと! 冒険者と言うと、魔物から人々を守る正義の味方的な存在かと思っていたら、こいつらは人間から恐喝をして、物を奪う悪党らしい。
キッとした目つきで睨みつける。そして、我思う。
(ど、どうやって逃げよう)
そんなことを考えていると、新たに何者かが現れた。
「あなた達! 何をしているの?」
その言葉を発した人の方に、視線を向けると、マリアさんであった。
男たちは、急に小声で相談を始めた。我にも聞こえてくる。
「おい、あいつマリアだぜ? ヤバくないか?」
「ヤバいな? 俺たちだと勝てないし、勝てたとしても、後がヤバい」
ヤバい、ヤバいと言っているが、何がヤバいのかさっぱり分からん。そんなことを気にしていると、三人組に追い打ちをかけるように、マリアさんが責める。
「あなた達。その人から装備を奪おうとしたでしょ? 冒険者の風上にも置けないわね」
三人組は、慌てて逃げる。と見せかけて、マリアさんに攻撃をする。だが、三人組は、あっという間に倒された。
(え? 僧侶って、回復とか支援系じゃないの? 普通に接近戦で戦ったのに、ガチで強くない?)
マリアの強さにおののいていると、こちらに近寄ってきて、笑顔で声をかけてくる。
「大丈夫でしたか?」
「え、ええ。我……じゃなかった。僕はなんで装備を盗られそうになったのでしょうか?」
マリアが苦笑いをして、その疑問に答えてくれる。
「オリハルコンの装備って最強ですし、金額も凄い高いですからね。オリハルコンの装備を奪い取れば、自分たちが強くなれると思ったのでしょう」
なるほど……。オリハルコンの価値を知らなかったけど、そんなに高価なものなのか。城の宝庫にごろごろあるけど。とりあえず、お礼を言っておく。
「助けて下さって、ありがとうございました」
「いえいえ、人として、当然のことをしただけです」
そして、質問をされる。
「マオさんって、凄い人なのですか? オリハルコンの装備をしているなんて、まるで勇者みたいです!」
勇者か……勇者もオリハルコンを装備しているとは、いきなり情報をゲットした。
「い、いえ、僕なんて、まだ冒険者になったばかりですよ」
「また変な人たちに絡まれないように、私が依頼書の場所まで送って差し上げますよ」
その道中、質問をされる。
「マオさんはお金持ちなのですか? 装備が高価ですから、私兵を連れて行った方がいいのではないですか? じゃないと、また先ほどと同様のことが起こりますよ? もしくは、装備のランクを落とすとかしないと」
装備のランクを落とす? 確かにオリハルコンが高価なら、ランクを下げれば先ほどの不届き者も現れないだろう。でも、勇者がオリハルコンを装備していると聞いちゃったしね。どうしたものか……。
「マオさんは、冒険者になりたてと言っていたから、Eランクですかね? せめて、Dランクでしたら、私と一緒に、討伐の依頼を受けることができるのですけどね」
マリアさんは、手の平を頬に当てて悩む。我の為に、真剣に考えてくれることに対して、嬉しく思い、威勢のいいことを言う。
「依頼を真面目にコツコツとやりますから、Dランクなんてすぐですよ」
自分の胸をドンと叩いた。
「頼もしいですね。勇者よりも先に、マオさんが、魔王を倒したりして」
めっちゃいい笑顔で、怖いことを言っている。いや、我は、誰にも倒されたくないよ? 命が惜しいです。そんな雑談をしていたら、目的地に辿り着いた。
「それじゃあ、また」
「あ、は、はい。ありがとうございました」
マリアさんが去るのを見届けた。その後、黙々と薬草採集の作業を行う。薬草を採りながら、直近の問題である装備のことを考える。
(装備のランクを下げるべきか……勇者がオリハルコンだと、最低でも、アダマンタイトにしておくべきかな……)
アダマンタイトは、オリハルコンの次に強いと言われている装備である。アダマンタイトなら、オリハルコンで斬りつけられても、何とか死なずに済むかもしれない。
そんなことを考えていたら、あっという間に時間は過ぎた。作業を終えたので、冒険者ギルドに戻った。
受付に採集したものと依頼書を提出した。確認作業に時間がかかるので、室内の隅っこの椅子に座り、休憩をしていた。
すると、何やら危機察知スキルが反応している。その反応先に、ゆっくりと視線を移すと、テーブルに包帯だらけの男性三人組が、めっちゃこちらを睨みつけてくる。
それに気づいて、冷や汗を流しながら、思わず目を泳がせた。
依頼の確認が終わり、受付の女性に呼ばれる。早足で向かった。天の助けだ。女神様。
「確認が終わりました。無事に依頼完了です。お疲れさまでした」
お辞儀をして、ギルドを出る。もちろん、包帯ぐるぐる巻きの三人組の方は見ないようにして。
冒険者ギルドを出た途端に、猛ダッシュした。そして、街を出て、いつもの慣れ親しんだ木の陰に隠れた。
そっと周囲を見渡すが、人の気配はない。ほっと息を吐きだして、転移魔法で魔王城の自分の部屋へと帰った。
再び、転移魔法を使った。場所はもちろん、宝庫である。今日発生した問題を、解決するためである。
オリハルコンの剣とオリハルコンの軽鎧を外して、脱ぎ散らかしておく。いつも定期的に管理をしている部下が、片付けてくれるからである。そして、他の装備に手をかけて呟く。
「うん、やはりランクを下げるとなると、アダマンタイト一択だな」
ごそごそと宝庫を漁り、アダマンタイト製の片手剣と軽鎧を取り出す。そして、アイテムボックスにしまっておいた。
(これで問題解決だな。今日は枕を高くして眠れそうだ)
そして、眠りについた。
その夜、悪夢にうなされた。我がオリハルコンの装備をしていると、人間に取り囲まれて、ぼこられている。そして、オリハルコンの鎧を脱いで、武器と共に相手に渡して土下座で許しを求めている。渡している相手は、三人組の包帯ぐるぐる巻きのミイラ男たちである。
「うわぁぁぁ!」
我が、ベッドの上で上体を起こすと同時に、部屋いっぱいに叫び声が響き渡った。
「はぁ、はぁ、……夢か」
すると、我の部屋の扉を叩く音がする。
「魔王様! 如何なさいました!? 侵入者ですか!?」
部下が中に入ってこないように、慌てて大人しくさせる。いや、正確に言うと、『部下に化けているかもしれない勇者や冒険者達』である。
「大丈夫だ。ただ夢見が悪かっただけだ」
今の我は、部下が部屋に入ってくるのも正直怖い。冒険者たちが、魔族の振りをして我の城に忍び込み、オリハルコンの装備を奪おうとするのでは? という疑心になっている。どんだけ臆病なんだと思われるかもしれないけれども、元々の性格なので、どうにも治せない。
そして、不安を抱える羽目になり、そのまま朝まで眠れなかった。
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