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ビビり魔王、冒険者になる  作者: 藤谷 葵
初稿(第六章)

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第一話

 しばらく歩いていると、険しい山が見えてきた。

 その山を見渡し、アランが考え込んでいる。



「ちょっと、山越えはきついかな?」

「そうだね。山の上とかは雪がかかっているけど、山越え用の荷物は持ってきていなかったね」



 アランとメリンダの会話に、うんうんと頷くメンバー。

 我は、魔王城防衛用のダンジョンを部下たちに作らせたことを思い出す。



(確か、ここら辺にあるはずだけど……)



 きょろきょろと見回し、小さな洞窟の入り口を見つける。



(よし! あそこにアランたちを連れて行けば、時間稼ぎができるはず!)



 アランの袖を掴み、くいくいと引っ張る。



「ねえねえ、アラン。あそこに洞窟があるみたいよ? あそこから山を越えることができるかもしれないよ?」



 そのように提案すると、アランは洞窟と我を交互に見つめる。



(わ、我が魔王とバレた? 何か不自然だったか?)



 冷や汗をかいていると、アランがメリンダに指示を出した。

 どうやら、思い過ごしだったようだ。



「あの洞窟を進んでみよう。メリンダ、あれがダンジョンだった場合、ダンジョン内にトラップがあるかもしれないから、先導してくれ!」

「あいよ!」



 そんな頼もしいやり取りをしているアランとメリンダ。



(それにしても、洞窟がダンジョンと見抜くとは、アランもなかなかやるではないか)



 全員、メリンダから離れずに、固まって歩いていく。

 ダンジョンが広大なせいか、歩いていたら疲れてきた。

 ちょっと壁に手で寄りかかる。すると「カチリ」と音がした。


 急に、我の足元が消えた。落下をしながら悲鳴をあげる。



「あああああ~! 助けて~!」



 みんなが駆けつける姿は見えたが、もう距離が離れて手を伸ばしても届かない。



「「「マオさ……」」」



 声も姿も遠ざかり、暗闇の中、落下を続けた。


 落とし穴を落ちていく我。



「……長いな……」



 更に落ちていく。



「……まだ?」



 呟いても落ちていく。



「……この穴を掘ったやつ! アホだろ! こんな深い落とし穴があるか! 今度、きっちりと叱らないといかんな。我が叱ると逆ギレされそうだから、幹部経由に叱ってもらうか」



 まだ落ちている。



「ふぁ~あ」



 暇すぎて大あくびをしたところで、水面らしきものに激突した。



「ぐはぁっ!」



 あくびをしたせいで、口の中もダメージを受けた。水平に落ちて行ったので、お腹はもちろん盛大に打った。


 水面に死んだカエルのように、ぷかぷかと浮かぶ我。

 突然、我に返り立ち上がる。



「はっ! お父様とお母様が、花畑に包まれた川の向こうで『ビビマオール! こっちに来ちゃダメ!』って必死に叫んでいた。両親を見て、うっかり向こうに渡るところだった」



 ざぶざぶと岸に向かいながら、辺りを見渡す。



「地底湖か。湧き水でも出たのかな?」



 陸に上がり、濡れた服を絞る。



(……ここ、地下何百階だよ……)

「ライト」



 光魔法を使い、辺りを照らしてみる。


 すると、何か影が動く。その影に、顔を青ざめる。



(ま、魔物!?)



 確認すべく、足音を殺して近づいてみる。

 すると、魔物は姿を現した。

 巨大な蛇の魔物。慌てて鑑定をしてみる。


 ステータス画面の名前の所に『ポチ』と書いてある。



「おお~! 我が子供の頃に飼っていたペットじゃないか! ポチ! 久しぶり! 元気してた? こんなに大きくなって」



 近づいてポチを撫でる。

 すると、急に辺りが真っ暗になり、空気が生臭くなった。



「あ、あれ? ポチ? 我だよ。お前の飼い主のビビマオールだよ!」



 必死に説得をするが、言葉が通じるわけもなく、飲み込まれていく。



「く、喰われる! 誰か助けて~!」



 消化器に到着したのか、服が溶けていく。

 武器や防具はアダマンタイトなので、このくらいではびくともしない。身体も『酸耐性』があるので、何ともないが恐怖を感じる。



(し、仕方がない! ポチ! 我を恨むなよ!)



 魔王に変身して、ポチのお腹を突き破った。


 窮地から脱出した我は、四つん這いになり息を整える。



「はあ、はあ、あ、危なかった~」



 すくりと立ち上がり、無残な姿のポチを見る。



「供養として、我が食べてあげるか……。蒲焼はこの間食べたからな。全身ほぼ尻尾だから、テールスープがいいかなぁ~」



 涎を垂らしながら、アイテムボックスにしまった。


 どうやって戻ろうかと、自分が落ちてきた穴を見上げる。



(うん、落とし穴をよじ登るのは無理だろう。魔王の姿なら戻れるけど、勇者たちと出くわしたら、即死亡フラグ回収だよ)



 とりあえず、人間の姿に戻った。


 出口はないかと探して見ると、簡素な木製エレベーターを見つけた。



「……ダンジョン造ったやつ。掘り過ぎたことに気づいて、帰り用にエレベーターを作ったな。罠に嵌った人間も帰れてしまうではないか……」



 複雑な心境ではあるが、使わせてもらうことにする。ここ以外に出口が見当たらないし、エレベーターなら近道であろう。


 エレベーターに乗り込み、柵のようなドアを閉める。そして、レバーを引いたら急上昇を始めた。



「うわぁぁぁっ!」



 あまりのスピードと、それに耐えれるかどうかわからずに、ギシギシと音を立てるエレベーター。


 勢いが強すぎて、またカエルのように、床にべったりと身体がへばりつく。


 エレベーターが止まると、立ち上がってエレベーターを降りる。

 ほっと一息つくと、出口と思われるものが見えた。



「おおっ! これは魔王城を訪れる冒険者たちが、苦労の末に『ちくしょう! また入口かよ!』ってなるんだね」



 とりあえず、入り口まで戻れたことにほっとして、出てみる。


 すると、目の前には魔王城が静かに佇んでいる。



「ちょっとちょっと! このエレベーター、入り口に戻るんじゃなくて、出口に来ちゃっているじゃん!」



 そこで気づく。落とし穴とエレベーターを作ったやつらが、直ぐに魔王城に帰れるように作ったことに。


 呆れのため息を吐きながら、ダンジョンの中に戻って行った。


 現在地がダンジョン一階ということは分かった。

 勇者パーティに合流すべく、歩き彷徨う。


 ダンジョン内に、部下である魔族はいないとわかっていても、魔物は放たれていると知っているので、怯えながら進んで行く。



「お~い、みんな~、僕はここだよ~」



 魔物に聞きつけられないように、小声で呟く。当然、勇者パーティが聞きつけることもできないのだが、恐怖を紛らわす為に呟かずにはいられない。


 しばらく歩くと、ダンジョン内にコツコツと歩く人影が見えてきた。



(ひ、人型の魔物か?)



 道の角に隠れて、顔だけを出して様子を見る。すると、アランの姿が見えた。

 アランにタックルする勢いで抱き着いた。



「一人で心細かったよ~! アラン! 好き! 僕ともう離れないで!」



 涙を流しながら、アランに抱き着く我。



「ちょ、ちょっと俺にその気は無いから!」



 両手で必死に我を引き剥がそうとするアラン。



「捨てないで下さい! 捨てないで下さい!」



 上目遣いで必死に懇願する。



「わ、わかった! わかったから!」



 その言葉を聞いて、落ち着きを取り戻した。


 平静を取り戻し、辺りを見回す。



「あれ? 他のみんなは?」

「ああ、トラップのせいで、みんなとはぐれたんだよ」



 どうやら勇者達にもトラップは有効だったようだ。部下たちもなかなかやるではないかと、ちょっと見直した。

 困難を乗り越えてきたせいか、他のみんなとも会いたい。早速、アランにそのように促す。



「じゃあ、他のみんなを探しに行こうか」

「あ、ああ」



 アランがなぜか目を泳がせている。



「アラン?」

「……マオさんが前を歩いて下さい……」



 そう言いながら、アランはケツを押さえている。どうした? トイレ?

 トイレを探してあげようと、先を急ぐことにした。


 途中、何度か魔物と戦いながら、ダンジョンを進んで行く。

 魔物の戦闘は、戦っているふりをして、ほぼアランに任せた。


 そして、無事に全員と合流ができた。喜ばしいことである。



「それにしてもこのダンジョンは広いですね。どこかで休憩したいですけど、流石にダンジョン内ですと、無理ですよね」



 トホホと嘆くマリアさん。我はトラップから逃げ回っていた時に見つけた『部下たちがダンジョンを作っていた時の休憩室』の存在を思い出した。



「そう言えば、僕が迷子になっていた時に、休憩室がありましたよ!」

「休憩室? ダンジョンに? 不思議ですね? でも、そこに行けば少しは休めそうですね」



 マリアさんがアランに視線を向けると、他のメンバーも全員、アランの方を見る。

 アランはため息を吐きながら、頭をポリポリと掻く。


「そうだな。先を急ぐ旅だけど、体調は常に万全にしておいた方がいいだろう。その休憩室とやらに行ってみよう」

「「「おお~!」」」



 全員が高々と手を挙げた。みんな、トラップに苦戦をして疲れたのだろうなと察した。


 我を先頭に進んで行く。いや、進まされる。



「……あの……メリンダさんが先頭でないと、またトラップでみんなバラバラになってしまうのではないですか?」


 その質問に顔を見合わせるメンバーたち。



「マオさんしか、場所を知らないからな。まあ、大丈夫だろう」



 オルガがテキトーに返事をした。


 やがて、休憩室があった場所が見えてきた。

 壁を手で押すと、隠し部屋が現れる。



「「「おお~!」」」



 歓声が沸き上がる。各々、ベッドを陣取り、装備を外して横になる。



「はぁ~、生き返るな~」

「マオさんたら」



 我を見て、クスクスと笑うマリアさん。

 全員がベッドに腰掛けて、携帯食を取り出して食べ始めた。


 我もアイテムボックス内を探る。



(食料、食料っと……)



 手に握られたのは、先ほど、供養するために回収したポチであった。

 幸い、誰にも見られていなかったので、そっとアイテムボックスの奥へとしまった。



「ふ~、とりあえず休憩もできるし、食事もとれたしよかったな」



 我以外が、うんうんと頷く。我は……まあ、コカトリスを食べたから、よしとしておくか……。


 魔物の群れに襲われたり、トラップにかかりまくって疲れた我は、先に寝た。


 朝になり、久しぶりのベッドのおかげか、清々しい目覚めである。

 辺りを見渡すと、他の五人は既に起きていた。輪になって雑談をしていたようだ。



「おはようございます!」



 声をかけると、アランとオルガが、不安そうに青ざめる。メリンダは何故か、目をキラキラと輝かせて質問してくる。



「マオさんは攻めですか? 受けですか?」



 言いたいことが、よく分からない。

 とりあえず雑談の輪に入ろうかと近づきながらテキトーに答える。

 


「攻めかな?」



 我なりに頑張っているから、攻めということでいいだろう。

 その言葉を聞いた途端、アランとオルガが後退る。



(なんだ? 我は何かしたか? もしかして、攻めって人を殺すことだった? 魔王とバレた!?)



 不安が襲い掛かり、そわそわとする。

 そんな様子を見て、メリンダが口を開く。



「マオさん、何をもじもじしているんですか? こっちに来たらいいじゃないですか」



 もじもじはしていないのだが、なんでメリンダはやたらと生き生きとしているんだろうな? もしかして、前日の我の醜態を話していたのか? 我のことを笑っているのか?


 何はともあれ、どうやら「あいつ、魔王だから殺そうぜ!」という話ではないらしい。

 ほっとして、マリアさんとソフィアさんの間にしゃがみ込む。

 すると、マリアさんが小声で呟いた。



「……マオさんの浮気者……」



 マリアさんの方に視線を向けると、俯いている。

 気にかけていると、右肩を力強く捕まれる。振り返ると、ソフィアさんの眼光が鋭く光っている。



「……あなたは誰でもいいんですか? 今度、私以外に色目を使ったら、ただじゃおきませんよ?」



 マリアさんの「浮気者」発言が、ちょっと嬉しくなる。「実は我のことを好きだったの?」という期待感が高まる。


 逆にソフィアさんの発言がわからない。

 「私以外に色目を使ったら」というこの言葉。普通だと好意の表れと思うのだが、恐怖を感じるのは何故だろう?


 みんなが携帯食を食べ終わると、アランが立ち上がる。



「そろそろ行こうか」

「そうだね」


 全員が返事をして立ち上がる。そして部屋を出ると、アランがお願いをしてきた。



「……マオさんが先頭を歩いてくれないかな。俺は最後尾を歩くから」



 そう言われて動揺する。一番真っ先にトラップとかに引っかかるのではないかと。



「あ、それじゃあ、斥候職のメリンダさんが先頭で、僕がその次ということで」



 メリンダは、にやにやとしながら、提案をしてくる。



「いきなり戦闘になっても対処できるように、オルガが先頭で、二番目がマオさんがいいんじゃないかな?」



 その発言にオルガが、ケツを押さえて猛反対をする。



「い、いや。マオさんに背中を預けるのは不安だ!」

「え~」



 くすくすと笑うメリンダさん。我に背中を預けることができないとは……まあ、確かに我は弱いから無理か。


 なんだかんだで、メリンダさんを先頭にして進むことになった。

 後をついて行くと、背後からソフィアさんに肩を掴まれる。



「何をメリンダのお尻を見ているのですか?」

「痛い! 痛い!」



 魔法使いなのに、異様に握力があった。

いつも読んで頂きありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
いつも楽しく拝読させて頂いています。 「ねえねえ、アラン。あそこに洞窟があるみたいよ? あそこから山を越えることができるかもしれないよ?」の言葉が女の子みたいだし勇者に抱きついた事で認定されてしまい…
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