第一話
しばらく歩いていると、険しい山が見えてきた。
その山を見渡し、アランが考え込んでいる。
「ちょっと、山越えはきついかな?」
「そうだね。山の上とかは雪がかかっているけど、山越え用の荷物は持ってきていなかったね」
アランとメリンダの会話に、うんうんと頷くメンバー。
我は、魔王城防衛用のダンジョンを部下たちに作らせたことを思い出す。
(確か、ここら辺にあるはずだけど……)
きょろきょろと見回し、小さな洞窟の入り口を見つける。
(よし! あそこにアランたちを連れて行けば、時間稼ぎができるはず!)
アランの袖を掴み、くいくいと引っ張る。
「ねえねえ、アラン。あそこに洞窟があるみたいよ? あそこから山を越えることができるかもしれないよ?」
そのように提案すると、アランは洞窟と我を交互に見つめる。
(わ、我が魔王とバレた? 何か不自然だったか?)
冷や汗をかいていると、アランがメリンダに指示を出した。
どうやら、思い過ごしだったようだ。
「あの洞窟を進んでみよう。メリンダ、あれがダンジョンだった場合、ダンジョン内にトラップがあるかもしれないから、先導してくれ!」
「あいよ!」
そんな頼もしいやり取りをしているアランとメリンダ。
(それにしても、洞窟がダンジョンと見抜くとは、アランもなかなかやるではないか)
全員、メリンダから離れずに、固まって歩いていく。
ダンジョンが広大なせいか、歩いていたら疲れてきた。
ちょっと壁に手で寄りかかる。すると「カチリ」と音がした。
急に、我の足元が消えた。落下をしながら悲鳴をあげる。
「あああああ~! 助けて~!」
みんなが駆けつける姿は見えたが、もう距離が離れて手を伸ばしても届かない。
「「「マオさ……」」」
声も姿も遠ざかり、暗闇の中、落下を続けた。
落とし穴を落ちていく我。
「……長いな……」
更に落ちていく。
「……まだ?」
呟いても落ちていく。
「……この穴を掘ったやつ! アホだろ! こんな深い落とし穴があるか! 今度、きっちりと叱らないといかんな。我が叱ると逆ギレされそうだから、幹部経由に叱ってもらうか」
まだ落ちている。
「ふぁ~あ」
暇すぎて大あくびをしたところで、水面らしきものに激突した。
「ぐはぁっ!」
あくびをしたせいで、口の中もダメージを受けた。水平に落ちて行ったので、お腹はもちろん盛大に打った。
水面に死んだカエルのように、ぷかぷかと浮かぶ我。
突然、我に返り立ち上がる。
「はっ! お父様とお母様が、花畑に包まれた川の向こうで『ビビマオール! こっちに来ちゃダメ!』って必死に叫んでいた。両親を見て、うっかり向こうに渡るところだった」
ざぶざぶと岸に向かいながら、辺りを見渡す。
「地底湖か。湧き水でも出たのかな?」
陸に上がり、濡れた服を絞る。
(……ここ、地下何百階だよ……)
「ライト」
光魔法を使い、辺りを照らしてみる。
すると、何か影が動く。その影に、顔を青ざめる。
(ま、魔物!?)
確認すべく、足音を殺して近づいてみる。
すると、魔物は姿を現した。
巨大な蛇の魔物。慌てて鑑定をしてみる。
ステータス画面の名前の所に『ポチ』と書いてある。
「おお~! 我が子供の頃に飼っていたペットじゃないか! ポチ! 久しぶり! 元気してた? こんなに大きくなって」
近づいてポチを撫でる。
すると、急に辺りが真っ暗になり、空気が生臭くなった。
「あ、あれ? ポチ? 我だよ。お前の飼い主のビビマオールだよ!」
必死に説得をするが、言葉が通じるわけもなく、飲み込まれていく。
「く、喰われる! 誰か助けて~!」
消化器に到着したのか、服が溶けていく。
武器や防具はアダマンタイトなので、このくらいではびくともしない。身体も『酸耐性』があるので、何ともないが恐怖を感じる。
(し、仕方がない! ポチ! 我を恨むなよ!)
魔王に変身して、ポチのお腹を突き破った。
窮地から脱出した我は、四つん這いになり息を整える。
「はあ、はあ、あ、危なかった~」
すくりと立ち上がり、無残な姿のポチを見る。
「供養として、我が食べてあげるか……。蒲焼はこの間食べたからな。全身ほぼ尻尾だから、テールスープがいいかなぁ~」
涎を垂らしながら、アイテムボックスにしまった。
どうやって戻ろうかと、自分が落ちてきた穴を見上げる。
(うん、落とし穴をよじ登るのは無理だろう。魔王の姿なら戻れるけど、勇者たちと出くわしたら、即死亡フラグ回収だよ)
とりあえず、人間の姿に戻った。
出口はないかと探して見ると、簡素な木製エレベーターを見つけた。
「……ダンジョン造ったやつ。掘り過ぎたことに気づいて、帰り用にエレベーターを作ったな。罠に嵌った人間も帰れてしまうではないか……」
複雑な心境ではあるが、使わせてもらうことにする。ここ以外に出口が見当たらないし、エレベーターなら近道であろう。
エレベーターに乗り込み、柵のようなドアを閉める。そして、レバーを引いたら急上昇を始めた。
「うわぁぁぁっ!」
あまりのスピードと、それに耐えれるかどうかわからずに、ギシギシと音を立てるエレベーター。
勢いが強すぎて、またカエルのように、床にべったりと身体がへばりつく。
エレベーターが止まると、立ち上がってエレベーターを降りる。
ほっと一息つくと、出口と思われるものが見えた。
「おおっ! これは魔王城を訪れる冒険者たちが、苦労の末に『ちくしょう! また入口かよ!』ってなるんだね」
とりあえず、入り口まで戻れたことにほっとして、出てみる。
すると、目の前には魔王城が静かに佇んでいる。
「ちょっとちょっと! このエレベーター、入り口に戻るんじゃなくて、出口に来ちゃっているじゃん!」
そこで気づく。落とし穴とエレベーターを作ったやつらが、直ぐに魔王城に帰れるように作ったことに。
呆れのため息を吐きながら、ダンジョンの中に戻って行った。
現在地がダンジョン一階ということは分かった。
勇者パーティに合流すべく、歩き彷徨う。
ダンジョン内に、部下である魔族はいないとわかっていても、魔物は放たれていると知っているので、怯えながら進んで行く。
「お~い、みんな~、僕はここだよ~」
魔物に聞きつけられないように、小声で呟く。当然、勇者パーティが聞きつけることもできないのだが、恐怖を紛らわす為に呟かずにはいられない。
しばらく歩くと、ダンジョン内にコツコツと歩く人影が見えてきた。
(ひ、人型の魔物か?)
道の角に隠れて、顔だけを出して様子を見る。すると、アランの姿が見えた。
アランにタックルする勢いで抱き着いた。
「一人で心細かったよ~! アラン! 好き! 僕ともう離れないで!」
涙を流しながら、アランに抱き着く我。
「ちょ、ちょっと俺にその気は無いから!」
両手で必死に我を引き剥がそうとするアラン。
「捨てないで下さい! 捨てないで下さい!」
上目遣いで必死に懇願する。
「わ、わかった! わかったから!」
その言葉を聞いて、落ち着きを取り戻した。
平静を取り戻し、辺りを見回す。
「あれ? 他のみんなは?」
「ああ、トラップのせいで、みんなとはぐれたんだよ」
どうやら勇者達にもトラップは有効だったようだ。部下たちもなかなかやるではないかと、ちょっと見直した。
困難を乗り越えてきたせいか、他のみんなとも会いたい。早速、アランにそのように促す。
「じゃあ、他のみんなを探しに行こうか」
「あ、ああ」
アランがなぜか目を泳がせている。
「アラン?」
「……マオさんが前を歩いて下さい……」
そう言いながら、アランはケツを押さえている。どうした? トイレ?
トイレを探してあげようと、先を急ぐことにした。
途中、何度か魔物と戦いながら、ダンジョンを進んで行く。
魔物の戦闘は、戦っているふりをして、ほぼアランに任せた。
そして、無事に全員と合流ができた。喜ばしいことである。
「それにしてもこのダンジョンは広いですね。どこかで休憩したいですけど、流石にダンジョン内ですと、無理ですよね」
トホホと嘆くマリアさん。我はトラップから逃げ回っていた時に見つけた『部下たちがダンジョンを作っていた時の休憩室』の存在を思い出した。
「そう言えば、僕が迷子になっていた時に、休憩室がありましたよ!」
「休憩室? ダンジョンに? 不思議ですね? でも、そこに行けば少しは休めそうですね」
マリアさんがアランに視線を向けると、他のメンバーも全員、アランの方を見る。
アランはため息を吐きながら、頭をポリポリと掻く。
「そうだな。先を急ぐ旅だけど、体調は常に万全にしておいた方がいいだろう。その休憩室とやらに行ってみよう」
「「「おお~!」」」
全員が高々と手を挙げた。みんな、トラップに苦戦をして疲れたのだろうなと察した。
我を先頭に進んで行く。いや、進まされる。
「……あの……メリンダさんが先頭でないと、またトラップでみんなバラバラになってしまうのではないですか?」
その質問に顔を見合わせるメンバーたち。
「マオさんしか、場所を知らないからな。まあ、大丈夫だろう」
オルガがテキトーに返事をした。
やがて、休憩室があった場所が見えてきた。
壁を手で押すと、隠し部屋が現れる。
「「「おお~!」」」
歓声が沸き上がる。各々、ベッドを陣取り、装備を外して横になる。
「はぁ~、生き返るな~」
「マオさんたら」
我を見て、クスクスと笑うマリアさん。
全員がベッドに腰掛けて、携帯食を取り出して食べ始めた。
我もアイテムボックス内を探る。
(食料、食料っと……)
手に握られたのは、先ほど、供養するために回収したポチであった。
幸い、誰にも見られていなかったので、そっとアイテムボックスの奥へとしまった。
「ふ~、とりあえず休憩もできるし、食事もとれたしよかったな」
我以外が、うんうんと頷く。我は……まあ、コカトリスを食べたから、よしとしておくか……。
魔物の群れに襲われたり、トラップにかかりまくって疲れた我は、先に寝た。
朝になり、久しぶりのベッドのおかげか、清々しい目覚めである。
辺りを見渡すと、他の五人は既に起きていた。輪になって雑談をしていたようだ。
「おはようございます!」
声をかけると、アランとオルガが、不安そうに青ざめる。メリンダは何故か、目をキラキラと輝かせて質問してくる。
「マオさんは攻めですか? 受けですか?」
言いたいことが、よく分からない。
とりあえず雑談の輪に入ろうかと近づきながらテキトーに答える。
「攻めかな?」
我なりに頑張っているから、攻めということでいいだろう。
その言葉を聞いた途端、アランとオルガが後退る。
(なんだ? 我は何かしたか? もしかして、攻めって人を殺すことだった? 魔王とバレた!?)
不安が襲い掛かり、そわそわとする。
そんな様子を見て、メリンダが口を開く。
「マオさん、何をもじもじしているんですか? こっちに来たらいいじゃないですか」
もじもじはしていないのだが、なんでメリンダはやたらと生き生きとしているんだろうな? もしかして、前日の我の醜態を話していたのか? 我のことを笑っているのか?
何はともあれ、どうやら「あいつ、魔王だから殺そうぜ!」という話ではないらしい。
ほっとして、マリアさんとソフィアさんの間にしゃがみ込む。
すると、マリアさんが小声で呟いた。
「……マオさんの浮気者……」
マリアさんの方に視線を向けると、俯いている。
気にかけていると、右肩を力強く捕まれる。振り返ると、ソフィアさんの眼光が鋭く光っている。
「……あなたは誰でもいいんですか? 今度、私以外に色目を使ったら、ただじゃおきませんよ?」
マリアさんの「浮気者」発言が、ちょっと嬉しくなる。「実は我のことを好きだったの?」という期待感が高まる。
逆にソフィアさんの発言がわからない。
「私以外に色目を使ったら」というこの言葉。普通だと好意の表れと思うのだが、恐怖を感じるのは何故だろう?
みんなが携帯食を食べ終わると、アランが立ち上がる。
「そろそろ行こうか」
「そうだね」
全員が返事をして立ち上がる。そして部屋を出ると、アランがお願いをしてきた。
「……マオさんが先頭を歩いてくれないかな。俺は最後尾を歩くから」
そう言われて動揺する。一番真っ先にトラップとかに引っかかるのではないかと。
「あ、それじゃあ、斥候職のメリンダさんが先頭で、僕がその次ということで」
メリンダは、にやにやとしながら、提案をしてくる。
「いきなり戦闘になっても対処できるように、オルガが先頭で、二番目がマオさんがいいんじゃないかな?」
その発言にオルガが、ケツを押さえて猛反対をする。
「い、いや。マオさんに背中を預けるのは不安だ!」
「え~」
くすくすと笑うメリンダさん。我に背中を預けることができないとは……まあ、確かに我は弱いから無理か。
なんだかんだで、メリンダさんを先頭にして進むことになった。
後をついて行くと、背後からソフィアさんに肩を掴まれる。
「何をメリンダのお尻を見ているのですか?」
「痛い! 痛い!」
魔法使いなのに、異様に握力があった。
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