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ビビり魔王、冒険者になる  作者: 藤谷 葵
初稿(第五章)

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第二話

 魔界樹まで転移をしようと考えたが、行ったことがないので、仕方なく自分の翼で飛んでいく。

 転移は、一度行ったことがるところしか使えないって言うのがなんだよね。


 翼を羽ばたかせていると、大きな木が見えてきた。



「あれか」



 魔界樹の根元に降りたつ。



「ふ~ん……それで、葉っぱを採ればいいんだっけ? どのくらい必要なのかな?」



 そんなことを考えながら、手を魔界樹に添える。

 すると、魔力が急激に吸われ始めた。



「ん? なんで我の魔力をこいつは吸っているんだ?」



 面白半分に、もっと吸わせてみる。すると、地面が震え始めた。

 ヤバそうな感じがして、慌てて手を離す。

 だが、もう手遅れだった。

 揺れる地面の中から、魔界樹の根っこが出てくる。そして、全身を持ち上げた。


 我の方向に歩いてくる魔界樹。



「なになになに? どうなってんだ?」



 そこで、ふと、お母様が読んでくれた絵本のことを思い出す。

 その物語は『木々に魔力が流れると、トレントになる。それは世界樹も例外ではない』というような感じだった気がする。


 元々大きかった魔界樹が、根っこの分まで地表に出てきて、更に壮大さを増す。

 腰を抜かしつつ、上の方を見ると、バキバキと音を立てて、目や口が出来上がっていった。

 目玉は無いが、ぎろりと睨まれる感覚は、いじめられっ子の本能で感じ取った。



「あわわわわ」



 トレント魔界樹は、ぶんぶんと枝葉を振り回してくる。動きは我の逃げ足の方が早いが、どうしたらよいのか分からない。



「爺やに聞いてみよう! 転移!」



 とりあえず、逃げることにした。

 図書館に転移した我。爺やはまた本を読んでいた。



「爺や! 魔界樹が我の魔力を吸っちゃって、トレントになっちゃったよ! どうしたらいい?」



 そう言うと、爺やは皺だらけの顔を更にくしゃくしゃにして笑う。



「ふぉふぉふぉ、今の坊ちゃまは依然と違い、楽しそうですな。生気がなかった眼が、今は輝いておられる。余程良い友人ができたのでしょうな」

「な、何言ってんの?」

「石化を解いてあげたい友達ができたのでしょ?」

「……」



 言葉にならない。まるで身体に雷の衝撃が走ったようだ。

 友達? 人間と友達? 勇者たちとの今までの旅を思い出す。

 マリアさんとの出会い。そして、勇者パーティへの加入。旅をして、魔物を倒したり、リヴァイアサンに遭遇したことを思い出す。



「……まあ、引き籠りだったときよりは楽しいかな……」

「ふぉふぉふぉ」



 照れ臭くなり、心を見透かしているような爺やから視線を逸らし、頬をポリポリと掻く。

 そこで、トレント魔界樹のことを思い出す。



「そ、それよりも、トレント魔界樹は、どうしたらいいの?」



 爺やは読んでいた本をそっと閉じて、答えを口にする。



「エナジードレインで、与えた魔力を吸い出せばいいのですよ」

「そっか……って、我はエナジードレインを使えないよ! 爺や倒してよ!」

「ふぉふぉふぉ、友人を自分の手で助けると、自分を好きになれますよ。私が教えますから、坊ちゃんが自分でやってみて下さい」

「え~! トレント魔界樹が暴れているんだけど……」

「あれだけの巨体ですから、移動は遅いので被害は出ませんよ」



 そういうと、爺やはお茶の入ったコップを口にした。


 爺やはお茶を飲み終えると「さて」と言い、立ち上がろうとする。

 その身体を我は支える。



(爺やも年を取ったな……)



 あとどのくらい、爺やも我の側にいてくれるのだろう。

 そんなことを考えたら、視界が歪んできた。

 涙を拭い、想いをつたえる。



「爺やには、今後も色々と教えて貰うんだからね」

「ふぉふぉふぉ、そうですか。坊ちゃんに必要とされて、嬉しい限りです。それでは庭園に行きましょうか」

「うん!」



 庭園に連れて行くと、爺やはベンチに座る。



「では、私でエナジードレインをかける練習をしてみて下さい」

「え? で、でも、爺やにエナジードレインをして、もしものことがあったら……」



 悲痛で顔が歪む。他の方法がないかと考え、閃く。



「ちょ、ちょっと待って! 練習台に活きのいいやつを連れてくるから!」

「わかりました」



 大至急、実験台を探す為に城の中を駆けずり回った。


 廊下を歩いていると、ちょうど良さそうな部下が歩いている。



「ギアラ、ちょっと庭園に爺やが待っているから、来てくれない?」

「え? 宰相様がですか? 俺、何か怒られるようなことをしましたか?」

「いや、練習台になって」

「へ?」



 頭に疑問符を浮かべているギアラを、連行した。


 庭園に連れてくると、爺やがギアラをじっと見つめる。



「ほう、ギアラですか。まあ、練習台にはできそうですな」

「よかった~」



 爺やと話していると、ギアラが割り込んでくる。



「え? さっきから、練習台ってなんのことですか?」

「練習台と言えば、練習台に決まっているじゃないか、君」



 くるりと我と爺やに背中を向けるギアラ。



「吾輩、用事を思い出しましたので、失礼します」



 そんなギアラ君の肩をがっちりと掴む。



「まあまあ、そんなに急がずに、ゆっくりしていきなよ」

「いえ、遠慮します」



 暴れ始めて、全力で逃亡しようとするギアラ。だが、逃げることはできない。



「爺や! こいつ、逃げようとしている! エナジードレインをかけてみて!」

「ふぉふぉふぉ、かしこまりました」



 爺やがギアラに手を添えると、ギアラの身体が黒い魔力に包まれる。その魔力は、爺やの方に流れていく。まるで、ぐびぐびとエールでも飲むかのように、ギアラの魔力が飲み込まれていく。



「ふぉふぉふぉ、こんなもんですかな?」



 そこには、力尽きてぶっ倒れたギアラがいた。


 ギアラがぶっ倒れている間に、爺やに魔力の流し方を、文字通り手取り足取り教えて貰った。



「はっ! ここはどこだ!」



 ぶっ倒れていたギアラが目覚め、上体を起こす。



「おっ? ギアラ、ナイスタイミング!」

「え? なんですか、魔王様?」



 そんなギアラに、教わったばかりのエナジードレインを無言でかける。



「ぎゃ~!」



 ギアラは干からびてぶっ倒れた。



(ちょっとやりすぎたかな? まあ、こいつのことだから、平気だろう)



 爺やにお礼を言って、再び、トレント魔界樹の所へと戻った。


 トレント魔界樹は、暴れ回っている。だが、爺やが言ったように、被害は出ていないようだ。魔物たちは、既に逃げ出している。



「トレント魔界樹! 元のお前に戻してやるからな!」



 自分で魔界樹をトレント化して、どの口が言っているんだと、ツッコミが入りそうであるが、幸い、この付近にツッコミを入れるような輩はいない。


 トレント魔界樹の攻撃を躱しながら、懐に入る。枝葉を振るだけなので、モーションが大きい。接近しやすい。手を添えてカッコ良さそうに叫ぶ。



「エナジードレイン!」



 たちまちトレント魔界樹は黒い魔力に包まれた。そして、こちらに魔力が流れ込んでくる。

 どんどんどんどん魔力を吸い取る。すると、トレント魔界樹は、根っこで地面を掘り始めた。自分が動けなくなることを察したのであろうか?

 すっぽりと地面に収まったのを確認すると、上を向いて木の枝を見る。



(ふぅ~、これで葉っぱを回収すれば……って、葉っぱが黄色くなり始めている! エナジードレインで魔力を吸い過ぎたか?)



 慌てて手を幹から離した。



「……」



 瑞々しい緑色をしていた葉っぱは、今にも落ちそうなカサカサな茶色い葉っぱになってしまった。



「やり過ぎてしまった……どうしよう?」



 焦る我。だが、閃いた。



「あ、そっか! 魔力を取り過ぎたのならば、返せばいいのか!」



 そう思い、魔力を少しずつ流し込む。すると、落葉した後から、若葉が生えてきた。



「ここらへんでやめておくか。またトレント化しても困るしな」



 大量に葉っぱを回収して、魔王城へと戻った。


 カツカツカツと靴を音立てて廊下を歩き、図書室を目指す。



「爺や! 魔界樹の葉っぱを持ってきたぞ! これをどうしたらいい?」



 図書室で本を読んでいた爺やは、読んでいた本をテーブルに置いた。



「錬金術師のコドムに頼むといいですよ」

「コドム? 誰それ?」



 爺やは呆れ顔でため息を吐いた。



「やれやれ、坊ちゃんと来たら、部屋に引き籠ってばかりだから、部下の顔や名前すらも知らないんですよ」

「ぐぅ……教えて爺や!」



 爺やはにっこりと微笑みながら、悪魔のような言葉を囁いた。



「この際だから、魔王城を歩き回って、部下たちと交流を持つといいですよ」



 その言葉に愕然とした。


 爺やに突き放されて、魔王城を彷徨う。いや、突き放したのは愛情故の厳しさなんだろうけど。

 頭では理解をしているが、心細さで泣きそうである。


 魔王城を歩き回っていると、「魔王様、チ~っす」と言う者もいれば、横目で我を訝しそうな顔つきをして通り過ぎていく者もいる。



(今の人がコドムかな……?)



 見知らぬ部下たちが、全員コドムではないかと思えてしまう。


 きょどって声をかけられず、そのまま城内を放浪していると、来たことのない一室に辿り着いた。入り口のドアの上には『錬金術研究室』と書いてある。


 怯えながら、そのドアを少し開けて、中を覗き込む。

 室内には、様々なガラス製の実験道具やらが置かれている。



「お、お邪魔します……」



 おずおずと声をかけて中に入ると、白衣を纏った魔族がいた。


 その魔族は、とげとげしい言葉をかけてくる。



「あ? お前誰だ? 勝手に入るんじゃね~よ!」

「ひっ! す、すみません!」



 部下のはずなのだが、どっちが上司でどっちが部下かなのか。と思うようなこの状況。



「あ、あの……コドムさんに用事があって」



 その魔族は、険しい顔で睨みつけてくる。



「コドムは俺だけど?」

「じ、実は石化回復ポーションを作ってもらいたくて。魔界樹の葉っぱも用意してあります」

「俺は他の研究で忙しい。条件付きでなら、作ってやってもいいぜ」

「じょ、条件?」

「この紙に書いてある素材を集めて来い。そしたら作ってやろう」



 昔の勇者が言ったとされる名言を思い出した。



 『クエストとは、依頼という名のパシリである』



 紙を片手に、あちこち駆けずり回った。


 一日中、走り回った。だが、人間に変身している時のように筋肉痛にはならない。うむ、やはり魔族としての肉体の方が馴染む。



「コドムさん! 集めてきました!」

「お? 集めてきたか。お前、なかなか見どころあるじゃね~か。俺の弟子にしてやろうか?」

「い、いえ、錬金術に興味があるのではなくて、石化回復ポーションが欲しいのです」

「そうか、まあ、気が向いたらいつでも声をかけろよ。いつでも弟子として迎え入れてやるからな」

「はあ……」



 なんで我の部下は、ふてぶてしいやつらが多いのだろうな? コドムは我を上司と思っていないし。まあ、こいつも錬金術研究室に引き籠っていそうなイメージがある。お互い引き籠り同士。我が勇者達と出会っていなかったら、コドムとも永遠に会うことはなかったのかもしれない。


 勇者達と出会って、我の世界は広がった。そういう意味では勇者たちに感謝だな。……まあ、魔王ビビマオールを討伐するという目標については感謝できないのだが。



「じゃ、じゃあ、ここに魔界樹の葉っぱを置いておきますから、石化回復ポーションをお願いしますね」



 そそくさと逃げようとする我の背後から、声がかかる。



「待て!」



 偉そうな態度を取るこいつと一緒にいるのは、精神的ダメージを受ける。早々と退室したかったのだが、引き留められてしまい、ギギギと油切れで錆びたドア金具のように振り返る。



「な、なんでしょうか?」



 振り返ると、コドムが瓶を投げてきた。慌ててそれをキャッチする。



「石化回復ポーションだ。持って行きな」

「は?」


(え? どういうこと? 石化回復ポーションが既にある? 材料なかったのではないの? 魔界樹まで取りに行った我の苦労は?)



 そこで、爺やとのやり取りを思い出す。


 「石化ってどうやって解くの?」


 確か、我が質問したのはこのような台詞であった。

 それに対して爺やの答えは、「世界樹の葉っぱで石化回復ポーションを作る」であった。

 つまり、我の質問が間違えていたことに、今更ながら気づく。



(「石化を解く薬ある?」って、聞けばよかった!)



 膝から崩れ落ちた。



(爺やも、石化回復ポーションの在庫があるって、教えてくれたらよかったのに……)



 でも、爺やも在庫があることを知らなかったのかもしれない。


 めった打ちにされた精神ダメージから立ち上がり、よろよろと歩いて錬金術研究室を後にする。



(と、とりあえず、目的の物が手に入ったから良しとしよう)



 自分にそう言い聞かせ、勇者たちの所へと転移して戻った。


 勇者たちは、石化をしたままである。

 そこで、ふと気になることがあった。



(あれ? ソフィアの石像が若干ポーズが違うように見えるけど、気のせいか?)



 何はともあれ、石化回復ポーションをみんなにかけた。



「あれ? 俺たちは……」



 状況がつかめずに困惑する勇者達。そこで、事の経緯を説明する。



「み、みなさんは、コカトリスに石化をさせられていたのですよ」

「マオさんが治してくれたの?」



 勇者に質問をされるが、全容は話せない。



「え、ええ、なんとか石化回復ポーションを入手してきました」

「マオさんは石化をしなかったのですね。耐性が凄んですね!」



 尊敬の眼差しで見られるのがきつい。

 「魔王だからね」なんてことは、口が裂けても言えない。



「そんなことよりも、先に進みましょう」

「そうですね」



 清々しい笑顔でそう答える勇者。アランとオルガ、アリアとメリンダが歩き出す。我もその後をついて行こうとすると、背後からがしっと力強く肩を掴まれる。爪が食い込むのではないかというほどに。



「……胸の大きさが、まあまあですみませんでしたね」



 その声は呪い殺さんとばかりの殺意を放っていた。

 恐る恐る振り返る。そこには鬼のような形相をしたソフィアがいた。

 恐怖のあまり、身体が硬直する。小声で疑問を口にする。



「え? う、動けないのではなかったの?」



 ソフィアは口角を吊り上げる。笑顔だが目は笑っていない。



「ええ、ほとんど動けませんでしたよ。でも、石化って魔力量が多いと、魂までは石化をしないんですよね。つまり魔力で貴方が私の胸を触っていたことや、呟いていたことが聞こえていたのですよ」



 更に力を込めて、我の肩に爪を食い込ませていく。



「ごめんなさい! ごめんなさい! 魔が差しただけなんです! 勘弁して下さい!」



 涙目で土下座をした。

いつも読んで頂きありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
いつも楽しく拝読させて頂いています。 魔王様が勇者と言いかけた「ゆ」で友人と察したのかもしれませんが まさか「勇者」と言おうとしてたとは思いもつかなかったと思います。 勇者と関わりを持って魔王様の…
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