第一話
王国の大陸から魔大陸に渡るまで、数日がかかった。
辿り着いたのは夜中。
「では、船員たちにはここで待機してもらい、俺たちは魔王城に向かおう!」
「「「おおっ!」」」
勇者と、我以外のパーティメンバーがが元気である。我はまだ足元が揺れているような感覚にとらわれている。
ふらふらとしながら、勇者たちについて行く。
山から太陽が昇ってくると、「ドドドド」という何かが走る音が聞こえてきた。
「何か来るぞ! みんな気をつけろ!」
我以外が身構える。
引き籠りの我でも知っているものが来た。いつもお世話になっております。
これから来るのは、『目覚まし時計』である。
「コケコッコ~!」
走りくる襲来者の姿が見えてきた。
鳥の姿をしているが、空を飛べない鶏のような奴。そして、尻尾は蛇になっている。
その正体は、『魔獣コカトリス』である。
コカトリスは、我々に気づき、そのまま攻撃を仕掛けてきた。
「コケ~!」
対戦モードの鳴き声に代わると、くちばしでそのまま突撃してきた。
パーティメンバーが全員散開して避ける。
剣や魔法で応戦するも、あまり効かない。何しろ、コカトリスの図体がでかいから、致命傷にならない。
戦闘している内に、全員がコカトリスの正面に入ってしまった。その瞬間をコカトリスは見逃さなかった。
「コケ~!」
そう一鳴きすると、目をギラリと光らせた。すると、足元から徐々に石化していく。
「く、くそう!」
我以外が石化した。
我だけが助かったのは、『勇者みたいな感じ』のスキルのおかげであろう。状態異常耐性が高い。
勇者たちの石像に視線を向ける。そして、コカトリスに視線を向ける。再び、勇者たちの石像に視線を向ける。
何か怒りが込み上げてきた。我に優しくしてくれた人たちが、目覚まし時計ごときに石化させられた。
偽装スキルと変身スキルを解除して、魔王となる。
すると、目覚まし時計は、ぶるぶると震えだした。背中を向けて逃走を始める。
だが、我が風魔法を唱え、目覚まし時計を切り刻む。
「コケ~!」
断末魔をあげて、目覚まし時計は倒れた。
攻撃態勢の鳴き声と断末魔の違いってなんだろうな? 違いがわからん。
その目覚まし時計……いや、鳥を見て考え込む。
(料理長にこの鳥で、丸焼きを作ってもらおう)
涎を垂らしながら、そんなことを考えた。
とりあえず、アイテムボックスに食材となったコカトリスをしまう。
そして、再び、石化した勇者たちを眺める。
「……」
石化したマリアさんに近づき、胸を揉んでみた。
「固いなぁ~、でも形はいい感じだな」
揉めないので、擦ってみる。すると、他の女性の方にも自然と目がいく。
今度はメリンダに近づき、また擦る。ちょっと小ぶりである。
「う~ん? 我好みではないかな~?」
でも、擦るだけ擦っておく。
ソフィアに目がいく。
石化したソフィアに近づき、胸を擦る。
「……まあまあかな」
そんなことを呟くと、石化したソフィアから、魔力がゆらりと揺らぐ。その魔力に殺気が込められている。
「はうっ!」
殺気にビビりながら後退る。
(ソフィアの魔力が強いために、魂までは石化をしていないのか?)
我の行為がソフィアの魂に刻まれたかもしれない。石化を治した後の恐ろしさを感じた。
逃げるように、魔王城へと転移した。いや、実際逃げたのだけど……。
「ただいま~」
そんなことを転移先の自室で呟く。当然返事は返ってこない。
(勇者たちの石化を治さないとな……)
考えていると、お腹が「くぅ~」と鳴った。
(そうだ! もう朝だし、キッチン担当のやつらも朝の仕込みで起きているだろう。ついでに鳥の丸焼きを頼むか)
スキップしながら、キッチンに向かった。
ドアを開け、威勢よく叫ぶ。
「たのも~!」
キッチン担当の魔族たちが睨みつけてくる。
ちょっとビビりつつも、料理長に話しかける。
「料理長! 鳥を捕まえたの! 丸焼きにしてくれない!」
「またですか? この前もいきなり食材を持ってきたじゃないですか。こちらにも段取りってものがあるんですよ?」
「わ、わかってる。今回だけ。ね、お願い」
両手を合わせて必死に懇願する。料理長は一つ溜息を吐いた。
「今回だけですよ」
「わかった!」
嘘の涙目から、笑顔になり食材を料理長に預けた。
「鳥の羽を毟ったりしないとですから、時間がかかりますよ。それまで適当に時間を潰して下さい」
「わかった」
「余計な仕事を増やしやがって!」というような視線を浴びながら、キッチンを出た。
(さてと……石化を治す方法は?)
物知りな爺やに聞くことにした。
爺やは大抵図書館に入り浸っている。
「たのも~!」
図書館のドアを勢いよく開ける。
インクの香りがふわりと香る。
すると、眼鏡をかけて顎髭を伸ばした老人に睨まれる。
「……坊ちゃん、図書館ではお静かに」
「……すまん……」
爺やに叱られた。子供の頃からお世話になっているので、頭が上がらない。
少しボリュームを下げて話しかける。
「ねえ、爺や。石化ってどうやったら解けるの?」
「石化ですか? 誰か石化されたのですか?」
「ああ、うん。ゆ……」
そこまで口にしてから、口を固く結ぶ。危うく「勇者達」っていう所だった。
目を泳がせて「ち、違うよ。ちょっと興味が湧いたからだよ」と濁した。
爺やは読んでいた本をぱたんと閉じた。
「ふぅ~」
溜息を吐きながら、眉間をほぐしている。
爺やの言葉を待つ。
目の疲れが取れたのか、言葉を紡ぐ。
「世界樹ってご存じですか?」
「うん? エルフ国に生えているやつでしょ?」
「それはエルフ国がある大陸に生えている奴ですね。この魔大陸に生えている世界樹をご存じですか?」
「え? 世界樹の木ってそんなに何本もあるの?」
記憶を探るが、この大陸の世界樹の話を聞いた覚えはない。
そんな我に、爺やはヒントをくれた。
「坊ちゃんのお母様がご健在だった頃に、絵本を読み聞かせしていましたよ」
「……覚えてない……」
爺やは、また溜息を吐く。歳のせいか疲れやすいのかもしれない。
「魔大陸の世界樹のことを、『魔界樹』と呼んでいます」
「あっ! 魔界樹なら聞いたことある!」
「その魔界樹の葉でポーションを作り、石化した人物にかけると治ります」
「じゃあ、その魔界樹の葉を採って、ポーションを作るといいんだね」
「そうですね」
「どっこいしょ」と掛け声をかけて、爺やが立ち上がる。
本棚から一冊の本を手にすると、本をパラパラとめくり、あるページを開いて我に見せる。
「ここに魔界樹があります」
その地図を見て、魔界樹の場所を確認した。
「ありがとう爺や!」
「いえいえ、魔界樹に行くのですか?
「あ、えっと、うん。まあ、社会見学に」
誤魔化すと、爺やはにっこりと微笑む。
「道中、何事もないように祈っております」
「うん、行ってくるね」
情報は得たので、図書館を出て、ダイニングへと向かった。
ダイニングでそわそわと、鳥の丸焼きを待っている。すると、幹部たちが入ってきた。
「あ、おはようございます。最近は引き籠りをしていないのですか?」
「……おはよう……それと、引き籠り言うな……」
しかし、こいつらなんで食堂ではなく、ダイニングに来るんだ? 暇つぶしに聞いてみる。
「お前らはなんで食堂で食べないんだ?」
「え? 魔王様がコカトリスの丸焼きを食べさせてくれるって聞いたのですが?」
「は?」
リヴァイアサンの蒲焼のときといい、このタイミング。まさか料理長は幹部たちにレア素材を手に入れたことを話していたのか? 情報源を聞いてみる。
「料理長です」
(やっぱりか!)
幹部たちは、こちらの思いとは裏腹な感じで鼻の下を擦る。
「魔王様が一人でお食事をなさるのは寂しいだろうから、お前らも一緒に食べろって。俺たちも、魔王様と一緒に食事がしたいですよ。魔王様ってばいつも一人で食べるのが好きみたいですけど、たまには俺たちとも食べて下さいよ」
「そ、そうか。わかった」
慕われているなら、仕方がない。実は一人で食べるのは好きではないし。これでも寂しがり屋だから。
内心で照れていると、ダイニングのドアが開かれた。
「魔王様、お待たせしました」
巨大な鳥の丸焼きが、香ばしさを放ちながら現れた。
「「「いただきます!」」」
リヴァイアサンの蒲焼の時は、食材がばかみたいにあった。その為、平和に食べられていたが、リヴァイアサンよりも小ぶりなコカトリスでは、食卓が戦場と化した。
「ちょっと待て! そのもも肉、我のだぞ!」
「早い者勝ちですよ」
もも肉を取り合っていると、手羽先が取られる。
「手羽、待ってっ手羽!」
「魔王様、下らないギャグはやめて下さい。寒さで料理が冷めそうですよ」
ほのぼのとしたひとときを過ごした。
食事を終えて、脳が多幸感に包まれた。
「ふぅ~、喰った喰った。それじゃあ、お先に!」
そう言うと、自分の部屋へと足を運んだ。
寝間着に着替え、もそもそとベッドに入り込む。そして、そっと目を閉じた。
「おやすみなさ~い……ぐぅ~……」
寝ていて、突然目覚める。勢いよく上体を起こし、かっと目を見開いて叫ぶ。
「勇者たちのことを忘れてた!!」
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