第三話
チュウカーン町から、ウーミ港町に無事に辿り着いた。
道中、これと言った戦闘やトラブルもなく。
この平穏がずっと続くことを祈った。
「さてと、船でも借りようか」
我々は、船着き場に向かった。
「船を貸して欲しいのですが、借りれる船はありますか?」
「あ~、タイミングが悪いね。貸せる船は、今、出払っているんだ。明日には帰ってくるだろうから、また明日にでも来てくれないか?」
「わかりました」
借りれる船がない。つまり、魔王城への到達が遅れる。我は心の中で、「今日の所は一安心」とほくそ笑む。
我とは正反対に、アランたちは困っている。
「まいったな~。今日はこの街に宿泊か」
「だったら、宿探しを兼ねて、魔王の情報を集めておくべきじゃないか?」
「そうだな」
アランとオルガが話している。他のメンバーも頷いて同意している。
「あっ! じゃあ、僕が宿屋を探しに……」
そう言いかけたときにアランは、「それじゃあ、ソフィアが宿屋を手配しておいて、他のメンバーは分かれて情報収集をしようか」
「「「了解!」」」
今日も我の置いてきぼり度は、絶好調である。みんな、我を残して出かけてしまった。
とりあえず、今いる港で、情報収集をすることにした。
荷物を担いでいるおじさんに、声をかけてみる。
「ねえねえ、この辺に美味い飯屋ない?」
「飯屋か? かもめ食堂が評判良いぞ」
「かもめ食堂ね。わかった! ありがとう!」
(久しぶりに心休まる日に、真面目に仕事なんかしていられるか!)
かもめ食堂を探す為に、商業エリアを目指した。
途中途中で人に道を尋ねる。すると、暇そうな人たちにぶち当たった場合、世間話に広がった。
その中で、ウーミ港町の話題があがった。
なんでも、ウーミ港町は、貿易で栄えた町らしい。そこら辺の漁村とは違い、レンガ造りの大きな街。
そんなレンガ造りの街並みを、歩いて散策する。
「レンガ造りて、おしゃれな感じがするよね~。これがマリアさんとのデートだったらよかったのに」
おのぼりさんのように、きょろきょろと辺りを見渡しながら、かもめ食堂に着いた。
窓から店内を覗いてみると、人気があるようでお客は入っている。
期待に胸を膨らませながら、店内に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ。空いている席にお座り下さい」
そう言われて、空いている席を探して、椅子に座る。窓際の席である。
ウエイトレスが、木のコップに入った水を持ってきた。
「ご注文は何にしますか?」
「え、えっと……ここの名物って何?」
「各種、焼き魚定食とかが人気ですよ」
「え~、骨を取るのが苦手だから、他にないかな?」
ウエイトレスは、可哀そうな人を見る目で、提案をする。
「それなら、マグロ丼とかどうですか?」
「……骨ない?」
「ないです! 生の赤身だけです!」
「じゃあ、それを五人前頂戴」
ウエイトレスが、目を見開いて驚いている。
「え? ご、五人前? お一人ですよね?」
「え? そうだよ?」
「か、かしこまりました」
注文を聞き終えたウエイトレスは、厨房へと伝えに行った。
料理が出てくるまで、ぼんやりと外を眺める。
すると、マリアさんの姿が見えた。
マリアさんと一緒に食べようかと、窓から必死に手を振る。
しかし、マリアさんは気づかない。
そこへ、見知らぬ男性がマリアさんに近づき、二人は楽しそうに会話をしている。
そのまま、二人でどこかに去って行った。
呆然としていると、突然声をかけられた。
「お待たせしました」
どきりと飛び上がりそうになった。ふと現実世界に帰ってくると、テーブルいっぱいにマグロ丼が並んだ。
「いただきます!」
一心不乱に、丼をかきこんだ。涙を流しながら。
マリアさんが他の男性についていったから……ではなく、わさびが効きすぎたせいである。
食べ終わると、水の入ったコップを口にしながら考える。
(情報収集って言ってもな~、また自爆発言するわけにもいかないし……)
先ほどの、マリアさんを見かけたことを思い浮かべ、もやもやとしてくる。
(ちょ、ちょっとついて行こうかな。決して、嫉妬とかではなくて、一緒に情報収集するために。うん、そう)
会計を済ませて、かもめ食堂を出た。
辺りを見回す。マグロ丼を五杯も食べていたので、当然タイムロスは大きい。既にマリアさんの姿は見えない。
(あ~、追いかけようにも、どこに行ったのか分からない)
仕方がないので、夜までふらふらとダメ人間のように歩いて、時間を潰した。
星空が見えてきたので、宿屋へと帰る。
みんなでアランの部屋に集まるが、そこにはマリアさんの姿はない。
「あれ? マリアは?」
「どうしたのかしら」
アランとソフィアが口にすると、他のメンバーも心配そうな表情をする。
「もしかして、何か事故でもあったとか?」
「助けに行かないと!」
オルガとメリンダも、焦り始めた。
我は、日中のことが気になり、念のため、報告することにした。
「そういえば、お昼の話なんですけど、マリアさんが見知らぬ男性と歩いていました。関係ありますかね?」
アランに質問をされる。
「どこで見かけたの?」
我はバツが悪そうに答える。
「……かもめ食堂の窓の外を歩いてました」
情報収集をさぼっていたことが露呈した瞬間だった。
だが、それを責めるものはいない。
我の話を聞いたメンバーは、顔を見合わせる。
「……誘拐されたとか?」
メリンダの発言に、みんなが目を見開いた。
「手分けして探そう! 何かあると危険だから、一人にはならないように! オルガとメリンダ。ソフィアと俺。マオさんは……宿屋で待機でいいや」
みんなが部屋から駆け出た。
ポツンと取り残された我。
(……また、ハブられた……)
だが、こんなところで一人のんびりしている気にはなれない。
我も部屋を飛び出して、マリアさんを探しに行った。
かもめ食堂に向かってみる。当然だが、店は明かりが消えている。
(あっちの方向に歩いていたよな……)
自分もその方向に歩いてみる。段々とお店や住宅はなくなり、倉庫街に辿り着いた。
「誘拐とかだと、倉庫とかに閉じ込められているのかな?」
探知スキルを使ってみる。すると人が何人かいる倉庫がある。
「こんな時間に人が集まっているのは不審だな。ちょっと行ってみるか」
その倉庫に近づくと、声や足音を潜めた。
再度探知するが、この倉庫に間違いない。
倉庫を見つめる。大きめの倉庫のようだ。ガレオン船とかがすっぽりと入りそうだ。
探知スキルで、入り口付近に誰もいないことを確認して、そっとドアを開ける。
「お邪魔します」
悪いことをしている気分なので、小声で一応挨拶をしておく。
ドアを閉めると、ほとんど真っ暗になった。
(どうしよう。ライトの魔法を使うわけにもいかないしな……)
仕方がないので、手探りで進んで行った。
手のひらから、木箱のささくれとかがたまに刺さり、地味に痛い。
荷物が色々と置かれているから、迷路のようになっている。
突然何者かに襲われるのではないかという事態に、恐怖を感じながら進んで行く。
少し空間がある場所に出たようだ。薄っすらとだが見える。
進んで行くと、何かがコツンと足に触れた。見下ろしてみると、どうやら人が倒れているようだ。
(マリアさん!)
声を出さずに、倒れている人物を抱き上げる。その人物の顔に、自分の顔を近づけて確認する。すると、あくどそうな顔をしたおっさんだった。
(ひっ!)
心の中で叫び、驚きのあまりに手を離す。おっさんは、頭を床にごつんと打ち付けた。
「あ、ごめん」
小声だが、口から声が漏れた。
その瞬間、何者かに背後から首を絞められる。
「うぐっ……」
締め付けが強くて、息ができない。腕を振りほどこうとしても、相手の方が力が強い。意識を失い、両手がだらりと垂れた。
どのくらいの時間が経ったのだろうか。
「マ……さ……、マオさん」
誰かに呼びかけられて、目を覚ます。広場のベンチのようだ。
目の前には、マリアさんがいた。
「あれ? マリアさん? 確か僕は……」
「あ! もう少し横になっていて下さいよ! マオさんは倒れていたのですから」
そう言われて、起こそうとしていた上体を、再び下げる。状況を確認すると、我の顔を覗き込むマリアさん。そして、頭の後ろには柔らかな感触。
(膝枕確定!)
思わず鼻の下が伸びそうになるが、必死にポーカーフェイスを保つ。
「マリアさんを探していたのですが、なんでこんなことになっているのですか?」
すると、マリアさんは、にこやかな笑顔になる。
「マオさん、助けに来てくれたのですか。嬉しいです。ありがとうございました」
「え、ええ、まあ。途中で何者かに首を絞められて、記憶がないのですが……」
「私が逃げ出したときに、倒れていたマオさんを見かけたので、マオさんも連れ出しました。危険に巻き込んでごめんなさい」
「い、いえ! マリアさんの為なら、例え火の中水の中ですよ!」
「ありがとうございます」
マリアさんも無事に見つかり、ほっとした。しかも、膝枕も堪能することができたし、なんという素晴らしい日であろうか。
そんなことを思っていたが、我は気づいていなかった。
暗闇の中、我がいるとは知らずに絞め落とした犯人が、マリアさんだったことに……。
しばらく、膝枕を堪能していると、マリアさんに声をかけられる。
「そろそろ、大丈夫ですか? 他のみんなも探しているでしょうから、戻りましょうか」
「え? も、もう少し……」
そこまで口に出して思い出す。我が宿屋にいなければいけなかった理由に。マリアさんが帰った場合の連絡要員として、アランが我に留守番をさせたということに、今更ながらに気づく。
「あ……宿屋に戻りましょうか」
膝枕でいちゃついている現場を、他のメンバーに知られるわけにはいかない。
「見つかったのなら、さっさと連絡を寄こせ!」と叱られるかもしれない。
二人で宿屋に戻ることにした。
マリアさんは「怖かったです」と言い、手を繋いでくる。
我に春が来たのかもしれない。
極限まで吊り上がりそうな口角を、必死に抑えながら、宿屋へと帰った。
翌朝、船を借りに行く。
昨夜のことは、我が助けに行ったという体で、マリアさんがメンバーに話をした。
そのせいか、我の評価が爆上がりした。
『爆上がりするほど、今まで評価低かったの?』と疑問に思いつつも、みんなの後をついていく。
船着き場に着くと、アランが船を借りる交渉をした。
「この船を貸して欲しいのですが」
「あいよ!」
勇者はそう言うと、ガレオン船を借りた。
(は? そんな大きな船、どうするの? 自分たちで漕げないでしょ?)
なんてことを考えていたのだが、実際に借りてみると、船員も、もれなくついていた。
世間知らずな自分が、少し恥ずかしかった。少しだけね?
そして、馬車の荷物を自分たちで船に積み込む。
積み込みが終わると、メリンダが馬車を馬車宿に預けに行った。
メリンダが戻ると、全員が船に乗り込む。
船員たちは手慣れた感じで、出航準備を終えていた。
「それじゃあ、よろしく頼みます!」
アランがそう言うと、船員たちは「船のことは任せてくれ!」「勇者アランには魔王を討伐して貰わないとな」などと口々にする。
勇者って知っていたの? 顔が広いですね? でもまあ、引き籠りが功を奏したのか、魔王ビビマオールの顔を知るものは誰もいない。
自分の手配書が出回っていないことに喜びを噛み締めていると、大きな船は、我たちを乗せて、ゆっくりと動き出した。
普段から魔王城を出る機会はない。たまに出るとしても、移動には大抵転移魔法か空を飛ぶかである。船は初めて乗る。
初体験に、期待で胸を膨らませた。
しばらくすると……。
期待に胸を膨らませていた我は、絶賛、船酔いをしている。乗り物酔い耐性スキルよ、仕事してくれ。
手摺から顔を出し、吐き気を催している。
そんな我に声がかかる。
「マオさん、顔が青ざめていますけど、大丈夫ですか? 少し、船室で休んだ方がいいのではないですか?」
マリアさんの提案に、何かが出ないように口を固く閉じたまま、こくこくと頷く。
そして、船室のベッドに寝転んだ。
ドアの正面に、ベッドが横向きになっている。そして、そのベッドに横になると、ちょうど丸い小窓が海の中を見えるようになっている。
我は、気分の悪さを、海の中を泳ぐ魚たちを見て癒されることにした。「美味しそうだな~」って。
そのまま、いつの間にか目を閉じていた。
突然の大きな揺れが起こった。
何事かと、目を覚まし、上体を起こす。
そして、魔王城の自室ではなく、船室で寝ていたことを思い出す。
丸い小窓から見るが、何か巨大なものが近くにいるようだ。そのものの巨大さと小窓の小ささでよく分からない。
急いで甲板に上がった。
甲板で見た光景は、立ち尽くす船員たち。それだけではなく、勇者も震えを隠せずに、立ち尽くしている。どうしたらいいのか分からないらしい。
我は、何が起きているのかと、手摺に掴まり海の中を見ようとする……が、揺れですっ転んで、海の中に落ちてしまった。
スローモーションで落ち行く中、「マオさ~ん!」と必死に我を呼ぶ名前が聞こえる。走馬灯だろうか?
そして、我は海の中に沈んだ。
衝撃に備えて閉じていた目を開けると、目の前には巨大で長細い生き物がいる。
(リヴァイアサンだ!)
我は、リヴァイアサンを過去に何度か見たことがある。
まだ、両親が健在だった頃、魔王城のシェフが捌いている所を見学したりしたものだ。
(蒲焼にすると、美味いんだよな~)
我は、『食欲』という本能から、偽装スキルと変身スキルを解除した。
そして、リヴァイアサンと対峙する。
リヴァイアサンは、我を敵とみなし、攻撃をしてきた。
水を操作しているようである。水流が渦を巻いた。
だが、我にはその程度は効かない。激流の中を平然とリヴァイアサンを睨みつけている。
これでは倒せないと判断したのか、リヴァイアサンは水流に自身の鱗を乗せてきた。
刃物のように鋭い鱗。我は寝ていたので、武器も防具もつけていない。
我は魔力を解放して、身体を魔力で覆い、身を守った。
弾かれる鱗。それを見て、狼狽え始めるリヴァイアサン。
(勇者はリヴァイアサンを見て、何を驚いていたんだろうな? あっ! 蒲焼にすると美味しいって、勇者も知っていたから感極まって震えていたのかな? 美味しい魚だもんね)
我は、勇者に獲られないうちに、リヴァイアサンを倒してアイテムボックスに隠すことにした。
魔力を形成し、右手に魔力の剣を握りしめる。
『絶対に蒲焼は我が食べる! 勇者たちには獲らせない!』
我は、魔力で作った剣で、リヴァイアサンの首を切り落とした。
そして、急いでアイテムボックスに頭と胴体をしまった。
(胴体は蒲焼で、頭で兜焼きを作ってもらおう)
久しぶりに幸福感を味わった。
渦巻いていた海は、その主が倒されたことにより、何事もなかったかのように、静まり返った。
我は、再び偽装スキルと変身スキルで、人間の姿に戻る。
水面から、顔を出すと勇者達が心配そうな表情をしている。
とりあえず、船員が投げた浮き輪に掴まり、引き上げて貰う。
「マオさ~ん! 無事でよかった~!」
そう言いながら、びしょびしょに濡れている我に抱き着いてくるマリアさん。
ラッキーとか思いながら、マリアさんの温もりを堪能していると、勇者が口を挟んできた。
「マオさん、てっきり、リヴァイアサンに殺されたかと思いましたよ。リヴァイアサンはどうしましたか?」
その言葉にどきりとするが、平静を装う。
「え、えっと、どこかに行ったみたいです」
「そうですか。マオさん、生きていられるなんてラッキーですね」
勇者の言葉の意味が分からない。たかが大きな魚なんだけどな?
その言葉の意味を、マリアさんの口から聞くことになる。
「リヴァイアサンは、海の神なんです。神聖な神を傷つけるわけにはいきません。リヴァイアサンも人間に危害を加えるようなことをしたという話は聞いたことがないのですが、流石に目の当たりにすると、不安になっちゃいました。まあ、リヴァイアサンが危害を加えるとしたら、神と対立的な存在の魔王くらいですかね」
マリアさんは、我に抱き着きながらそういうが、我の心中は「神を殺しちゃったよ」ということと、「攻撃されたことにより、我が魔王ということがバレないだろうか?」ということでいっぱいになっていた。
我は、濡れた身体が冷えたわけではなく、自分の行いがバレないかという心配で身体を震わせた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
前回と比べて、ここはボリュームがありすぎた!
……まあ、短すぎるよりもいいかな……。
応援や感想をお待ちしております。




