第一話
馬車が町の中に入って行く。
馬車内の、心臓を射抜くかのような視線が怖くて、ずっと後ろから外を見ていた。
「チュウカーン町に到着しましたよ」
御者にそう言われて、我は急いで降りる。勇者と盗賊が敵対しているからと言って、盗賊が我の味方というわけでもない。
ある意味、ルール無用の盗賊の方が、タチが悪い。
無事に次の町に辿り着いたことに、ほっと息を吐きだす。
「それじゃあ、この町の衛兵詰め所に、盗賊を引き渡しますか」
勇者がそう言うと、他のメンバーも『いいことすると気分いいな』みたいな笑顔で返事をする。我だけが顔を引き攣らせる。
「あ、僕は今夜泊まるところを探しますから、皆さんで詰め所に行って下さい」
衛兵詰め所。怖いイメージである。我のことが知られていたら、たちまち我も捕まり、処刑されかねない。だが、いつも空気は読まれない。
「もう~、マオさんたら。皆で褒賞金を分けるんですから、ちゃんと受け取らないとだめですよ。マオさんはお人好し過ぎですよ」
マリアさんはそう言うと、我の背中をぐいぐいと押し進める。
(い、いや、我は保身の為に行きたくないだけで、お金ならあげるから、むしろ命は助けて!)
そんな心の叫びを知られるわけもなく、衛兵詰め所に連れて行かれた。
衛兵詰め所で、盗賊を引き渡す。我は終始、挙動不審に目を泳がせていた。
「勇者様! ありがとうございます! こちらが褒賞金になります」
勇者は褒賞金を受け取ると、衛兵にお礼と「後のことは任せました」と言って、少し離れていた我の方に来た。
他のメンバーも集まってくる。
「それじゃあ、褒賞金をみんなで分けるために、宿屋にでも向かおうか」
(そうだよね。酒場とかでお金を出していたら、カツアゲにあうからね)
納得しながら、今夜泊まる宿屋に向かった。
宿屋にチェックインすると、泊まる部屋の一つに集まった。
「さてと、じゃあ、褒賞金を六等分に分けようか」
勇者がそういうので、我は口を挟む。
「え? ぼ、僕は何もしてませんけど?」
そんなことを言うと、オルガのおっさんが、我の背中をバンと勢いよく叩いた。痛い。
「お前さんも、捕縛した後に、盗賊の見張りに目を光らせていたじゃね~か!」
そんなことを言われたが、実際に目を光らせていたのは、盗賊の方である。どうやって、我を殺そうかという目で見ていた。むしろ、我は死んだ魚の目をしていたのだが……。
マリアもそっと肩に手を置いてくる。
「そうですよ、マオさん。みんなの力で盗賊を倒したのです」
我はその言葉にコロッと流された。
「じゃあ僕の分は頂きますね」
勇者から、既に人数分に分けてある布袋を手渡された。
我は、初めてのお小遣い程度のお金以上の大金を手にし、浮かれた。
分配が終わると、ソフィアが手を挙げて意見を述べる。
「あの、私、この町で装備とかを買い揃えたいのですが」
「そうだな。道中、色々と消耗したし、準備を整えようか。じゃあ、後の時間は装備を整えるのと、情報収集ということで」
「「「さんせ~い」」」
ソフィア、メリンダ、マリアの女性陣は、三人できゃぴきゃぴと買い物に向かった。
アランとオルガもそれぞれ出て行く。
我も女性陣の買い物に同行したかったのだが、こっちから言うとキモイとか思われそうだし、かといって、誘ってくれる気配もない。
我は一人寂しく町で買い物をすることにした。
チュウカーン町の辺りを見渡す。ユーシャ城下町よりも小さな町のようだ。まあ、城下町が最高の町なのは当然か。我の魔王城も城下町は最高である。治安は悪いが……。
(我がまだ子供だった頃、出歩いたらカツアゲされたからな~)
そんなときにふと思い出す。先ほどの布袋にいくら入っていたのかと。
アイテムボックスから取り出し、建物の隅っこでそっと覗き込む。
(こんなに沢山!)
我は、またカツアゲをされないかと、不安になった。
早く装備品にして、安心感を得ようと、武器屋と防具屋を頭に浮かべる。
(ん? 我の装備は、もはや最高クラス。これ以上どうする?)
顎に手を添え、考える。すると、辺りの視線に気づく。
(そう言えば、アダマンタイトの装備をしているんだった!)
装備を隠し、尚且つ顔も隠れるように、服屋へマントを買いに行くことにした。
「いらっしゃいませ」
服屋に辿り着くと、店主から声をかけられる。
「は、はい。お世話になりましゅ」
久しぶりに勇者たち以外の人間と話をしたので、噛んだ。
店主に笑われながら、マントを探す。
(これなんかいいかな~?)
我が手にしたのは、魔導士とかが纏うローブ。頭からすっぽりと隠れる。
「こ、これ下さい!」
マントを買うと、店内で羽織、外へ出た。
マントで剣や鎧が隠れているせいか、先ほどよりも視線は向けられない。
(これで、平和な旅になる)
次の用事を思い浮かべる。情報収集だっけ? 我は魔王城の位置も、魔力でぽこぽこ生まれる下っ端以外の幹部の顔も知っているのだが?
とりあえず、雑貨屋に行き、地図を買った。
そして、地図を眺める。
(この町は、確かチュウカーン町と言っていたか? ってことは、ここから、港町まで馬車で行って、そこから船で大陸を渡るのか)
我の用事が済んだので、一足先に宿屋に戻った。
部屋に戻ると、誰もいない。我が一番最初らしい。
旅で精神的にすり減ったせいか、眠気が襲ってきた。
装備品をアイテムボックスにしまって、ベッドに潜り込み、少しだけ寝ることにした。
しばらくすると、段々と賑やかな声が聞こえてきた。
その声で目を覚ます。すると、女性陣が帰ってきた。
「あ、マオさんが一番乗りだ! あとはアランとオルガですね。二人が戻ったら、夕食を食べながら、集めた情報を交換しましょう」
「は、はい」
夕食か~。野営の時は携帯食だったから、美味しいものが食べられるだろうか。
自分がこれから大きなミスをすることなど、想像もすることもなく、その時間が来ることを楽しみにしていた。
全員が集まったので、夕食を食べるために酒場に移動した。
「なかなか、魔王の情報が手に入らないね」
「そうだな」
メリンダとオルガが口を開く。
「俺の方も情報は手に入らなかったな」
エールを飲みながら、アランもそう答える。
そんな空気の中、我だけが情報を持っていることを、自慢するように報告する。
「あ、ぼ、僕は情報ありましたよ! ここから港町に向かって、船で大陸を渡るのです」
「「「マオさん、すごい!」」」
みんなから褒め称えられ、我は浮かれていた。
「よし! これで魔王ビビマオール討伐に、一歩近づいたな!」
心の中の我が、大絶叫をする。
(なんで、我は自分の拠点を教えるようなことをしてしまったのだ!?)
酒場を出て、宿屋へと戻る道中。
勇者たちは、魔王の情報を得たことに浮かれて騒いでいる。
我はと言うと、その正反対に、今後のことを考えて、胃がキリキリとしている。
(だが、そんなに悪いことばかりではない! 少しは前向きに考えよう! なにしろ、今日の宿屋の部屋割りは、マリアさんと同室だしな!)
部屋割りは、アランとオルガ、ソフィアとメリンダ、そして、マリアと我。最初にその部屋割りを聞いたときは動揺したが、冒険者では男女が同じ部屋になるのは普通にあるらしい。
先ほどの部屋は、アランが褒賞金を分けるために借りたので、そこがアランの部屋となる。そして、我は人の部屋ですやすやと昼寝をしていたと……。
宿屋に帰り着き、女将さんから鍵を受け取る。鍵を握る手が震え、汗が出てくる。
(いくら冒険者たちは男女一緒の部屋に泊まることがあると言っても、我はそんなことは初めてなのに)
ポッと頬が熱くなってくる。
マリアと一緒に部屋へと向かい、ドアを開ける。すると、目の前に飛び込んできた光景は、ダブルベッド。
我が頭の中で、疑問符を浮かべていると、マリアが声をかけてきた。
「どうしたのですか? マオさん。入らないの?」
「い、いえ! なんでもないです! 入りましょう!」
二人で室内に入り、ドアを閉める。密室の中に男女二人。
ドキドキと高鳴る胸の鼓動。
「マオさん、私……」
「わ、私?」
続きを促すと、我の両手を握りしめてきた。
「この先、魔王の本拠地に近づくにつれて、敵が強くなると思うのです。大丈夫でしょうか……」
うるうると瞳を輝かせ、上目遣いで見てくる。これは誘っているのか?
いや、ここは紳士的に対応しようと、格好つけ……いや、落ち着けるべき言葉を紡ぐ。
「だ、大丈夫です。ぼ、僕がマリアさんを守りますから!」
「頼りにしてます。マオさん。それじゃあ、そろそろ寝ましょうか」
甘い声でそう言うと、マリアさんは先にベッドに潜り込んだ。
我は、人形のようにかくかく手足を動かして、ベッドに寝転ぶ。
横目で視線をマリアさんに向けると、我に背中を向けている。
(これは……我から手を出すべきなのか? いや、マリアさんから来るのを待つべきか?)
硬直しながら期待していたら、いつの間にか朝を迎えていた。
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