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ビビり魔王、冒険者になる  作者: 藤谷 葵
初稿(第三章)

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第二話

 只今、馬車に揺られて吐きそうになっている。

 我は転移があるので、馬車で移動することはない。

 「それ以前に引き籠りだろうが!」とツッコミを入れるのはやめてくれ。


 パレードの時も馬車に乗ったが、あの時はある程度舗装されていた道を走った。

 だが、今回は、性能の悪い借り物の乗合馬車に、舗装されていない道なき道を進んでいる。

 我以外の全員が何事もないように座っているのが、流石と言うべきか。


 込み上げつつある物を我慢しながら、勇者に話しかける。



「あ、あの……魔王討伐の旅に、僕なんかが必要なんですかね? 冒険者のランクもDですし、パーティーのジョブも、僕がいなくてもバランスがいいじゃないですか」



 すると、マリアが上目遣いで目を潤ませる。



「マオさん……もしかしてご迷惑だったですか?」



 我は慌てて否定する。



「い、いえいえ、そんなことないですよ! 我も人々から、英雄と讃えられたいですよ!」



 人々から英雄と讃えられたいと言うのは、本心である。冤罪で憎まれ、更には殺されそうになっている危機を感じる。まあ、部下たちと同じように、我にちやほやして欲しいってことなんだけどね。


 そんな内心を知るわけもなく、勇者が口を挟む。



「マオさんなら、冒険者として活躍してくれると期待してますよ!」



 励まされたように聞こえるが、冒険者なんてジョブは、その他大勢だろうが。


 会話をしながら、乗り心地以外はのどかな旅が続く。


 やがて、陽が暮れてきた。



「この辺で、野営をしようか。オルガ、馬車を停めてくれ」



 勇者の指示で、馬車は停まった。



「ここなら見晴らしが良さそうだし、周囲を警戒しやすくていいね」



 そんなことを言うメリンダ。流石、斥候である。


 我も辺りを見回す。太陽は山に沈みつつも、草原の草木を赤々と照らしている。



「さあ、野営の準備をしよう!」



 マリアさんも含めて、みんな慣れたようにテキパキと動き出した。

 我は野営をしたことがないので、子供のお手伝い程度である。

 本当に我が必要か?


 野営の設営が終わると、みんなで輪になって、食事をした。


 食事をしながら、見張りの順番を話し合う。



「見張りの順番は、まずは俺とソフィア。次に、オルガとメリンダ。最後にマリアとマオさんでどうかな?」

「「「賛成」」」



 我以外、満場一致である。我は見張りをしたことがないので、賛成はしていない。いや、反対もしていないのだが、パーティーメンバーは、我が空気のように見えているのか、滞りなく話が進んで行く。


 食事と話し合いは終わり、見張りを任せて我は眠りについた。


 しばらくすると、ゆさゆさと揺さぶられる。



「マ……さ……、マオさん」



 ぱちりと目を開ける。目の前には、いかついおっさんの顔があった。



「くぇrちゅいおp@」



 言葉にならない悲鳴をあげそうになる。いかついおっさんは、手の平で我の口を覆い黙らせる。



「マオさん、寝ぼけてないで。俺だよ俺、オルガだよ。マオさんたちが見張りをする番になったよ」



 我は落ち着きを取り戻す。ちらりと目を動かすと、マリアさんは既に起きている。マリアさんに起こされたかった……。

 そんな我の肩に、そっと手を置くオルガ。



「野営での見張りは初めてかもしれないけど、敵さえ見つけてくれれば俺たちが片付けるから安心しな」



 我の心境とはとんちんかんな言葉をかけてくれるいかついおっさんは、そう言うと、寝床に潜った。

 とりあえず、おっさんが触れた肩を払っておいた。


 マリアさんと二人で見張りをする。

 だが、今のところ平和である。このまま平和が続いて欲しい。


 そんなことを願っていると、夜風の寒さに体をぶるっと震わせた。



(トイレに行きたい!)



 マリアさんに、「トイレに行ってきます!」というのが恥ずかしい。だが、このまま漏らすのは、もっと恥ずかしい。

 勇者のように勇気を出し、マリアさんに「ちょっとお花を摘みに」と言って、席を外した。


 少し離れる。草原。

 もう少し離れる。草原。

 なんか見られているのではないか? 音を聞かれちゃうのではないか? そんな気がしてならない。


 辺りを見渡すと、ちょっとした林らしきものが見えてたので、そこへと向かった。


 用を足していると、ほっと肩の力が抜けるようだ。そんな最中に、林の中で、藪ががさがさと鳴り始めた。何かが潜んでいる。我は恐怖で青ざめる。



(ちょ! ちょっと待って! まだ用を足しているから! いや、待たなくてもいいからどこかに行って!)



 漏れると言うか、漏らしている最中。そんなところに、三人の闖入者が顔を出す。



「あれ? ビビマオール様じゃないですか!」



 魔王軍の身内に、大変恥ずかしいところを見られた。だが、我慢していた分長い。



「シー! シー!」

「ん? ああ、おしっこ、シーシーですね」

「ちげ~よ!」



 用を終えた我は、大事なものをしまうと、改めて部下と向き合う。

 顔に見覚えは無い。幹部クラスではなく、下っ端の部下のようだ。



「お前ら、こんなところで何してる? 魔王軍全員に、城の防衛を任せたはずだが?」

「え? そうなんですか? そんな話は聞いてないですよ? むしろ、勇者を殺せって聞いた気がしますが?」



 我は思った。役目を終えたら、部下たちに『報連相』をきちんとさせようと……。



「ところで、魔王様はこんなところで何をしているんですか? 部屋で引き籠っていたはずでは?」

「引き籠りは禁句! それと大声を出すな!」



 そう言うと部下たちは、「魔王様の方が大きな声を出しているじゃん」とか、呟いているが、身内で火種を炎上させないために、聞かなかったことにしておく。いや、この場合は我が悪いのか? まあ、いいか。



「とりあえず、お前たちは、今すぐ魔王城へ戻るように!」

「「「は~い」」」



 返事だけ良く、仕草はチンピラのように去って行った。


 去った後、静寂が戻る。我はズボンを確認する。

 ビビった時に、おしっこを引っ掛けていないかと。



(平気みたいだな。驚かせやがって……)



 まあ、穏便に済んで何よりだ。それにしても寒いせいか悪寒を感じる。

 よく不吉が起きる時の前触れのような悪寒に感じるが、気のせいであろう。


 気のせいと言うことにして、野営地に戻った。



「お帰りなさい」



 マリアさんが小声で出迎えてくれる。

 我は笑顔に癒されて「ただいま」と返事をした。


 すると、マリアさんが質問をしてきた。



「大きな声を出して、誰かと話していたのですか?」



 ヤバい! 聞かれた? なんで?



「い、いえ、一人でしたよ?」

「そうですか……変ですね」



 疑惑が深まる前に、言い訳をひねり出す。



「あっ! そ、そう言えば我、じゃなくて僕、歌を口ずさんだかもしれない」

「そうなんですか?」

「そうなんです!」



 純粋無垢ともいえるような子を、騙している感じが心苦しい。だが、我が魔王ビビマオールと知られるわけにはいかない。もちろん、部下たちがいたことも。


 だが、案の定、追及されることもなく「そっか、マオさんも魔王との戦いを想像して、心が高ぶっているのですね」とマリアさんが一人でうんうんと納得している。


 心高ぶるどころか、地獄の底まで落ち込んでいるのだが……しかも、このままだとそれが物理的になるという、大変な事態で悩んでいるというのに。


 何はともあれ、そのまま小声で雑談をして朝を迎えた。

いつも読んで頂きありがとうございます。


感想や応援をお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
いつも楽しく拝読させて頂いています。 太陽は山に沈みつつも、草原の草木を赤々と照らしている。 この表現いいですね。 オルガさんっていかついおっさんだったんですね。 てっきり勇者と同い年ぐらいかと…
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