魔王、冒険者になる
我の名はビビマオール。この世界の魔王である。
だが、我のステータス画面がおかしい……。
称号が『魔王』と『魔族に崇拝される者』の二つがあるが、これはまあ納得。
ステータスの幸運以外の全ての数値が十台とかおかしくない?幸運は∞だと?
魔王になっていずれ勇者が現れたら討伐される運命のどこが幸運∞だ!?
それに魔王と言えばラスボスだろ?ステータス十台だと一番弱いスライムにも勝てなくない?
そんなことを日々悶々と考えていると突然、誰かが我の部屋のドアを乱暴に開けるや否や
「魔王様!!勇者を名乗るものが現れました!! 」と大声で叫んだ。
我はドアが勢いよく開いた音と訪問者の叫び声にビクッ!!っとした。我の部下だった。
平静を装いつつ我は「落ち着け、どういうことか詳しく話せ」と言った。
内心落ち着いていないのは我の方だが……。
部下は「人間達が召喚魔法で異世界人を勇者として召喚したようです!!そして魔王様を討伐するとのことです!!」「……そうか、わかった。直ちにこの城の警備レベルを最大限にしろ 」と我は部下に伝えた。
部下は「はっ!!かしこまりました。それと魔王様自ら出向いて勇者が強くなる前に倒してしまってはいかがでしょうか? 」
我は部下に対してくるりと背を向け「いや、わざわざ我が出るまでもない。そなた達なら勇者達を倒せると信じている。
それと勇者が現れたのなら今後この部屋は誰であろうが立ち入り禁止とする。勇者たちが何らかの方法で魔族に偽装して侵入する可能性もある」というと部下は「はっ!!かしこまりました。他の者たちにも伝えておきます。
我々が必ず勇者達を倒します!!期待してお待ち下さい!!」と言い我の部屋を出て行った。
我は部下が部屋を出て扉を閉めた後に『ヤバい!!人間どもは代々魔王が現れると勇者を召喚して魔王を倒させて、また勇者を元の世界に戻している。このパターンだと絶対我も殺される……』と冷や汗を流しながら青ざめていた。
『我は魔王になりたかったわけではなく、称号のせいで勝手に魔王になってただけだし、人間を襲ってるのは血気盛んな部下達で、我がそれとなく人間を殺さないように言ってもいつも違う解釈されるだけだし……』
どうしようと部屋をウロウロ歩きながら考えていると『人間どもに紛れて冒険者の振りして勇者達の行動を探るか? 』と考えた。『さすが我は頭良いな?』と思いつつ早速スキルを使って人間に擬態して見る。
そして部屋にある鏡を見て『この姿なら人間の若者の男ぐらいに見えるか? 』と考える。人間の姿は部下を通して魔法水晶玉に映ったのを見た程度しかない。そもそも城の中に引き籠りなので、
魔族や魔物もろくに知らなかったりする。
とりあえず我は勇者が召喚された城の近くに転移魔法を使用して移動した。
多少木がある草原という感じの所に着いた。すかさず木に隠れてキョロキョロと辺りを見渡してみる。
人間も魔物もいないようなのでほっとした。探知スキルを使って城の方向に向かって行く。
探知スキルだから町や人間、魔物や魔族の居場所もわかるのだが、恐る恐ると木の陰から木の陰へと慎重に移動した。
しばらくすると城門が見えてきた。木の陰から顔を出して城門をじーっと見た。
城門には警備兵が二人いた。『見知らぬ者が入ろうとすると検査とかあるのかな? 』と思いあれこれ考えると、『あっ!!称号やスキルとステータスの幸運が怪しまれる!!』と言うことに気づいて偽造スキルでステータス画面を偽造した。『名前もビビマオールだから我が魔王とバレるな……名前を何に偽造するかなー?』と悩んでいたが、人間の名前はよくわからないから『マオ』にしておいた。
準備は出来たのでいざ城門へ向かった。オロオロと挙動不審さが出てしまい案の定、警備兵が「見たことない人ですね?ステータス画面見せてもらえますか? 」と言ってきた。
ドキドキしながらステータス画面を見せると警備兵は「問題ないようですね。失礼しました。城下町にお入り下さい。ユーシャ城下町にようこそ」とほほ笑んだ。
我は「あ、はい。よろしくお願いします!!」とテンパって言ってしまった。『何がよろしくお願いします何だか……』
城下町に入りつつ『我の城の一部の部下としか普段会話してないからコミュ障になってる。我はうまくやって行けるのか?』と不安になりつつ冒険者ギルドを探した。中々冒険者ギルドが見つからない。
人間に聞こうにも話しかけづらい。トボトボと城下町の中を歩き回った。
冒険者ギルドに着いた時にはヘトヘトだった。そりゃそうだ。雑魚スライムより雑魚ステータスなんだから。
冒険者ギルドの中に入ると人間が大勢いる。当たり前なのかもしれないが我は緊張してぎこちなく受付に行き、「あ、あのぼ、冒険者になりたいので、と登録したいのですぎゃ!!」と最後に噛んだ。
受付の女性は「フフフ」と笑いながら「はい、冒険者に登録ですね。ではステータス画面を見せて頂けますか? 」と聞いてきた。我はコクコクと頷きながらステータス画面を見せた。
受付の女性は「うーん、この強さだとEランクですがよろしいですか?」と聞いてきたので、
思わず我は「ひゃい!!」と答えてしまった。我は『コミュ障も何とか直そう……』と思いつつ冒険者の登録を終えた。
登録後、受付の女性にギルドの依頼などのことの説明を受けて「はい、わかりました」とお辞儀をした。
そして、Eランク用の掲示板に向かい『魔王の我が人間なんかに頭を下げるとは』とやるせない思いをしながら掲示板の依頼を見た。Eランクは素材の採集の依頼だけのようだ。
『ふっ、我には簡単な依頼だな』と思いつつ何気に隣にあったDランクの掲示板を見ると『魔物討伐』や『魔族討伐』の依頼があった。それを見た途端に我は『あれ?ここに長々いるのヤバくね?我が魔王とバレたら殺される!!』と青ざめつつEランクの素材採集の依頼を一枚取って急ぎ足で冒険者ギルドの外に出た。
路地裏に行き「ぷはっ!!」と息を吐いた。緊張のあまり呼吸を忘れていた。
我は『あまり目立たないようにして尚且つ出来るだけ勇者達に近い立場になって情報を集めるか』と思いつつ掲示板から剥がした素材採集の依頼を見た。内容は『薬草採集百個』と書いてあった。
我は探知スキルを使い薬草の場所を見つけた。その場所に向かって行ったが着いた途端に既に疲れていた。
『本当に我は魔王か?誰かと間違えて称号貰ってないか?それともステータスがおかしいのか?』などと考えつつ、少し休んでから薬草の採集を始めた。
探知スキルで薬草の場所を確認しつつ採集した薬草を更に鑑定スキルで確認した。
『確実に依頼をこなせばすぐにそれなりの立場になれるだろう』と真面目に依頼に取り組んだ。
すぐに依頼条件を満たして冒険者ギルドに戻った。受付の女性に無言で依頼書と素材を提出した。
受付の女性は「依頼完了ですね?では採集物を確認しますね」と言われそのまま緊張で棒立ちして待っていた。
少し時間がかかりそうなので本来の目的の勇者の情報を知るためにギルド内の様子を見まわした。
改めて見ると結構広く、テーブルが複数人座れるようになっている。チームを組んだ冒険者達が
依頼の話し合いをできるようになっているようだ。我のその様子を見た受付の女性が
「もう少しお時間かかりますので席についてお飲み物でもお食事でもご自由にどうぞ。ギルド内で飲食物や薬草などのアイテムでしたらあちらで販売しております」と説明してくれた。
我はコクコクと頷き販売場所に行った。『あれ?我お金持ってきたか?』と思いステータス画面を確認する。
ステータス画面に表示はされているがお金は他人には見えず自分だけ見えるようになっている。
これは我だけではなく他の者も同様だ。ステータス画面見ることでお金をたくさん持っているのがわかれば、その人間は誰かに襲われる可能性もある。
ステータス画面で金額を見ると少ししかなかった。気まぐれで部下の手伝いをした時にお礼に貰った小遣い程度の金額だ。
一番安いジュースを販売場所で買って、どこに座るか席を探した。『勇者の情報を探るためにあの賑やかなチームらしき者達がいる側に座ろう』とそのチームのいる席の隣に背を向けるように座った。
そして労働の後で喉が渇いてたのでとりあえずジュースを飲んでほっと一息ついた。それから背後のチームの会話にそれとなく耳を傾けてみる。
そのチームの者達は「いやー今日の魔族討伐は楽勝だったなー、ガーゴイル系が二匹いて飛ぶから魔法や弓矢で攻撃したけど、俺はみんなを守るだけでいいんだから簡単だな」と若い男の声がすると
若い女の声で「あなたはほとんど棒立ちで暇そうだったけどこっちは魔法使うの大変なんだからね!?」とため息を吐きつつ言った。
我はその会話を聞いて『ガーゴイル系!?我の部下じゃないか!!』と驚きと恐怖が襲ってきた。
手がガタガタと震え持っていたジュースがチャポチャポとこぼれた。
すると「具合でも悪いのですか?大丈夫です?」と誰かが話しかけてきた。
ビクッと驚きつつ声のする方を見ると女性がいた。
マジマジと見るといかにも神官という格好をしていた。
我は「あっ!!はい。大丈夫です!! 」と答えた。
女性の神官は「顔色も悪いですし具合悪かったら遠慮なく言って下さいね? 」と優しく声をかけてくれた。
そして「あっ!!突然知らない人に声かけられたらびっくりしますよね?私の名前はマリアです。教会での仕事もやりがいはありましたが、最前線で戦っている人達の助けになりたくて、最近冒険者に登録しました」と挨拶してきたので、「我……い、いや、僕はマオです。今日冒険者に登録したばかりです」と我は答えた。
マリアは自分のアイテムボックスからハンカチを取り出して、笑顔で我の服にかかったジュースを拭いてくれてその後、机にこぼれたジュースも拭いてくれた。マリアに母性を感じて思わず『ママ~』と甘えたくなったがもちろん言葉には出さなかった。
受付の女性が「マオさん、確認が終わりました。受付に来て下さい」と呼ばれたので、
マリアに「あ……マリアさんありがとうございました」と我は会釈してお礼を言った。
そして受付に行くと「依頼完了です。こちらが依頼報酬になります。初めての依頼達成ご苦労様でした」と言いつつ銅貨を五枚を我に渡した。薬草採集の依頼で銅貨五枚が安いのか高いのかわからなかった。
とりあえずアイテムボックスにしまっておいて、先ほどの我の部下を討伐したチームから早く離れたかったので早足で冒険者ギルドの外へ出た。キョロキョロと周りを警戒して近くの路地裏に入って行った。そして、転移魔法で自分の城に戻った。
自分の部屋に戻るとスキルで服を部屋着に着替えて豪華で大きなベッドに飛び込むように寝転んだ。
「あ~体力的に疲れたというより精神的に疲れた~」とぼやいた。
少し休憩してから我は考えた。
『魔王と気づかれて戦うことになると殺されそうだから強い武器でも持って行こう。
明日になると持っていくの忘れそうだから今持ってくるか……』と思い、億劫だがベッドから立ち上がって転移魔法を使い、我が城の宝庫に移動した。
宝庫には様々な伝説級の装備が保管されている。我が使うためのものと一部の側近が使うものである。
我は自分用の装備を眺めて『うーん?そこら辺の普通に冒険者っぽいやつでも我の部下を倒してしまうなら、オリハルコン製のバスターソードとオリハルコン製の軽鎧でも持っておくべきか? 』と
装備するものを決めてそれをアイテムボックスに入れた。
そしてまた自分の部屋に転移して『今日はもう疲れたから寝よう』と布団に飛び込んでそのまま眠りについた。




