夜、眠る
とりとめのない夢を詩のようにして。
夜、眠る。
意識はまぶたの裏側にありながら、空に向かって溶けていく。
手の先から透けて、光る輪郭になって。
さらさらと崩れていく。
砂みたいに。
意識を研ぎ澄ますと、夜の音が聴こえてくる。
遠くを電車が通る音。
隣家の生活の音。
葉の上を風が流れていく時の微かな音。
深夜、都市の住人が寝静まると、夜空を鯨が泳ぐ。
とても大きな鯨だから雲と間違われるかもしれない。暗闇の色をした鯨だ。
鯨は黒い瞳を光らせながら、夜を泳いでいく。とても、ゆっくりと。
夜の扉は白い流木でできているという。
開けると眠りの海が、毎日いつも変わらずに、静かに凪いでいる。それは果てのない海だから。
繰り返す波音は、心音と同じ。
強くなり、弱くなって。再び強くなり、弱くなる。
夜の渚を旅していけば、右も左も星の砂だ。サクサクと、音を立てて歩いていこう。遠くに見える椰子の木のところまで。
雲に隠された月を探して青い浜辺を行く。
南国の花咲く木の下に。
降り積もるのは白い夢。
そうして水平線の向こうから呼んでいるのは、沈んだ月の幻だ。海に映る影が暗くなったら星の時間になって、そうなったら数えきれない無名の五等星まで、闇の夜の歌を歌ってくれる。
青い時間は影と遊ぼう。風の吹く木立を抜けて。
もう時間はないのかもしれない。
楽しく遊ぼう。
目いっぱい遊ぼう。
夜明けが来る前におやすみの挨拶をしたら、眠りの底へ。
降りていく。