短冊
夕方のバスに揺られて眠くなり、明るい日差しに気づいて慌ててバスを降りたら、目的地の一個前だった。
あたりには遠浅の海。渚に打ちよせる波は静かだ。
バスを追いかける形で歩道を行く。
20分くらいで着くはずだった。
潮風に吹かれて歩いていると、一本だけの木に色とりどりの短冊がかかっている。
もう七夕か。早いなと思った。
風に靡いてさらさらと鳴れば、笹でなくても笹の葉さらさらだった。
ひとり、歌いたい気分になる。酔ってはいないけれど。
今、解放された時間だから。夕風が、いい。
誰もいない浜辺だったせいか、たまに車が通るだけの道路に、知らない家が生垣の向こうにあるだけだったからか。
なんとなく気まぐれに、願い事を読んでみた。
〇〇高、絶対合格!
〇〇クンと付き合えますように △△
彼女ができますように 〇〇
宝クジあたりますように
見事に欲ばかりだった。
そんなものかと思って、Yahooを眺めている時みたいな気分になって、おもしろいのはないかと短冊を漁りながら、どこか虚しいような気分になっていると、遠くの浜辺に黄色い何かが落ちているのが目に入って、近くまで行って、見ると短冊だった。
とりあえずあの木まで戻してあげようと思って拾うと、裏には子どもの字でこんなことが書いてあった。
「ピーちゃんか” 元気になりますように」
ピーちゃんか。
小鳥かな。
きっとこれは、切実な願い。
叶わないかもしれないけれど、もしも叶うなら叶えてあげたい。
そんなことを柄にもなく思ってしまい、誰も知り合いはいないから、とカバンから裁縫セットを探して、針でその短冊に穴を開けたり糸を通したりして、木に結び直してあげた。
一番高い場所、神様が見やすい場所に。
終わって眺めてみると、その短冊はそよそよと気持ちよさそうに風に揺れていて、ほっとした。
これでよし。
よく見ると他の短冊にも、
家族がみな健康で暮らせますように
とか、
大好きな先輩の夢が叶いますように
とか書いてある。
欲ばかりでもないかと思うと、どこかほっこりして。こうして降りる所を間違えて涼しい夕暮れの道を歩いているのは、悪くない、と思った。
ある星空フォトグラファーの写真集にあった、佐渡島の浜辺に笹と短冊、の写真から。
なんか国語の教科書みたいなのになりましたねえ。軽ーく軽ーくしていきたいです。