雷鳴る
起きたら外で雷が鳴っていた。
ソファに座って、スマホを手にしていた辺りまでは記憶がある。今、何時なんだろう。
スマホを探そうとしたら足元に転がっていた。夕方六時時近くになっていた。
二時間くらい、寝ていたらしかった。
外は雪景色になっていた。夜になったからか、ほのかに白くあかるい。雪があるだけで外の道がいつもより綺麗に見える。隣のマンションの窓は、いつもよりたくさん明かりが灯っている。今日は住人たちも、早く帰宅したんだろうか。天気予報通りの大雪だった。雪なんて久しぶりだと思った。
向かいの生垣の上には雪がこんもりと積もって青光りしている。触ったらきっと、氷みたいに冷たいんだろう。そう思ったら、触ってみたいような気分になった。
「雷ですよ」
同じシェアハウスのカヤノさんが二階から降りてきたので声をかけてみる。カヤノさんは短大の学生さんで、自分も含めてほかの社会人たちの方が本当は何歳も年上なのだが、なんとなく、カヤノちゃんというよりはカヤノさんという方がしっくりくるので、皆、そう呼んでいる。
カヤノさんはきちんと切り揃えられた前髪ごしに、涼しげなまなざしをちらっと動かして窓を見た。
「珍しいですね。雪の日に雷だなんて」
雷って夏なイメージでしたけど、と言いながら、ニコッと笑った。
凛と、してるなあ、と、毎度ながら見とれた。
カヤノさんは男女問わずに人から信頼される何かを出しているらしい。うまく言えないけれど、なんとなく、この人の言うことなら間違いはないだろうと思わされる何かがある。はきはきした物言いか、言い切れる強さか。
ケアレスミスなどしそうにないのに、ちゃんと愛嬌もある。落ち込みやすい自分とは真反対なのでどうにも引け目を感じてしまうため、あまり長く一緒にいるのはだめだった。
もちろん彼女のせいではない。
羽目を外させてみたい。
大笑いする顔とか見れたら、ちょっとは違うのに。
そんなことを思う。
「モリナガさん?」
軽く闇落ちしていたら、カヤノさんに不審がられてしまったらしい。
「えっ? えと。ごめん。ぼーっとしてた」
そう言って、僕ってだめだよねえ、と笑ってみせると、カヤノさんはふわっと笑って
「おつかれさまです」
と言って、そのまま玄関から出て行った。
僕は口の中で小さく、いってらっしゃいと返してみる。
できればもっと自然に話せるようになりたい。
そうしてできれば笑わせてみたい。
そうすればあの、お花みたいな微笑みが見れるだろうから。
いつか、彼女に。