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練習帳  作者: 薄雪草
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東の魔女2



 東の魔女は、生まれたときから魔女でした。


 いつから生まれたのかは魔女自身にも分かりませんでしたが、気がついたらそこにいて、誰に教わるでもなしに魔法が使えていました。


 東の魔女がまだ幼い子どもだった時、魔女はほかの子どもたちと同じように、人間の大人がいる家で暮らしていました。魔法ができることはほかの子たちには内緒でしたから、見た目も振る舞いもほとんど人間の子どもと変わりありませんでした。ただそれでも魔女であることに変わりはありませんから、いつも昼間は眠くて学校では寝てばかり、夜はちっとも眠くならなくて、布団の中で何度も寝返りをしていました。


 東の魔女は成長して大人のように分別がつくようになると、昼間に寝てばかりはよくないと思うようになりました。ほかの子たちと一緒に勉強したり遊んだりしたかったからです。そう決意をしてから魔女は、昼間にはなんとか起きていようと頑張りましたが、学校にいても外に出ても、いつもとても眠くなって、どうしても起き続けていられませんでした。


 東の魔女は、自分がほかの人のように昼間に起きられないことが、苦痛で仕方ありませんでした。


 誰も魔女に向かって酷いことを言ったりしたわけではないのです。ただなんとなく自分という存在が、周りの大人たちを困らせていることが察せられて、大人たちが陰で、いったいあの子をどうしたものかねえ? などとため息をついているのを見つけてしまうたびに、まだ子どもだった魔女は自分がどうしようもないできそこないに思われて、気持ちが縮こまっていくのを感じるのでした。


 魔女なんかに生まれなければよかったと本気で悩んでいたところをたまたま知り合った薬師の人がいい人だったのは、東の魔女にとっては幸いでした。


 東の魔女は夕方から夜にかけて、薬師から薬の作り方を教わってから、夜中に薬草を採ってきては薬を作るようになりました。

 慣れない最初のうちは思ったものと違うものしか作れなくて、投げ出したくなりました。ですが、そんな時に限って薬師がやってきて、優しく笑いながら、筋がいいねと褒めてくれるのです。

 それには深い意味なんてなかったのかもしれません。子どもがしょげているのを見て、気の毒に思って励ましてくれようとしただけかもしれません。ですが、まだ小さな少女だった東の魔女は、それを真に受けて、励みにして頑張りました。

 そうして3年くらい続けていくうちに、だんだんと師匠の薬師と同じものが作れるようになりました。


 東の魔女の生活は次第に変わっていきました。

 夜中に薬草を取りに行き、薬を作っては、朝、できたものを薬師に託して眠るようになると、東の魔女はどんどん元気になっていきました。


 薬師は、薬を売って得られた収入を自分のものにすることもなく、全額、魔女に渡しましたから、東の魔女には生まれて初めて貯金ができました。

 東の魔女は、これで自分も大人になれたというような気分がして、なんだか誇らしく思いました。


 新しい薬の作り方を覚えて、それを試していくことは楽しくて、できた薬を誰かに売った時に、いいお薬があって本当に助かります、と喜んでもらえたりお礼を言ってもらえると、なんだかむずむずと恥ずかしいような落ち着かないような気分になりましたが、決して嫌ではなく、思い返すたびに心がぽかぽかして、気づいたら東の魔女は、明日が来るのが楽しみになっていました。


 魔女には、魔女にしかできない得意なことが、ちゃんとあったのです。

 魔女は、魔女に生まれてよかった、とは言わないまでも、いいこともあるんだなと思い始めました。



 あるとき薬師に聞いてみたことがあります。


「どうしてあたしなんかにそう、親切にしてくれるの?」


 薬師はそんな時はいつも、どうしてだろうね? と言って微笑むばかりで、何度尋ねても答えてはくれなかったので、魔女は、ちゃんと聞いているのに子ども扱いしている! と内心、不満でいっぱいでしたが、何日か経つうちに、そんなやりとりがあったことすら忘れていきました。



 やがて魔女は成人して、立派な薬師になりました。


 魔女に薬のことを教えてくれた人は、同じ町に薬師は二人はいらないからと言って、別の町に引っ越していきました。

 魔女は後をついていこうとしましたが、薬師は止めました。


◇◇◇


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