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練習帳  作者: 薄雪草
13/13

夜空ノ博物館


夜道を歩いていると、看板が一枚立っていた。


[ 夜空ノ博物館へようこそ ]


プラネタリウムか写真館かな。

その館名には、少し心惹かれた。


夜空も博物館も、静かで人が少ないのがいい。どちらもあるなんて、いったいどんなところだろう。


[ ←この先800m ]




標識に沿って住宅地の路地を歩いていくと林道に出た。月あかりが道路を照らして、秋の虫たちがリーンリーンと鳴いていた。


涼しい音。もう夜は真夏のように暑くない。空気はすっかり秋になっている。知らないうちに。


そのまましばらく細い道を行くと、角を曲がったあたりで野原に出た。遠くの方にはライトアップされた大きな看板が、おいでと誘うように立っている。


[ 夜空ノ博物館 ]


白い建物の上に銀色の半球ドーム。プラネタリウムか、あるいは天体望遠鏡かもしれない。



自動ドアを通り抜けると、館内は真っ暗だった。


「観覧される方は、先にチケットをお買い求めください」


カウンターの奥から声がした。

目が慣れてくると、暗いながらに非常用のランプだけはついていたので、足元はぼんやりと見えるようになった。

チケットは、中学生以下無料、15歳以上の学生は300円、大人は500円で、現金のみ対応とのこと。


「大人一枚、お願いします」


500円払ってチケットを受け取ると、カウンターの事務員さんはニコッとして、楽しんでくださいね、と送り出してくれた。



エントランスから展示室へは黒いカーテンで仕切られていた。ぱさりと入ってみると、中はさらに真っ暗だった。


秋の虫が鳴いていた。ずいぶん壁が薄いんだと思った。それに、風が感じられる。とても自然な風だった。


目が慣れてきたと思ったら、建物はコンクリートの壁だけで、窓がたくさんあいているほかには何もなかった。窓から見た外は…見渡す限りの草地だった。


夜露に湿った草の匂い、風に靡く音。空は真っ暗で、降ってきそうなくらいにたくさんの星々が、星座も分からないくらいに無数にきらきらと瞬いていた。


展示パネルには、晴れた九月の夜空、と書いてあった。


きれいだな、と思った。

こんな夜空が、世の中にはあったんだ。


しばらく眺めてから館内を出た。




明くる日にまた行こうとしたけれど、それ以来、どうしても案内板を見つけられなくて、行き着けなかった。


チケットも、どこかに置いてきたんだと思う。

でもお財布の中身は減っていたし、夢ではないと思っている。







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