夜空ノ博物館
夜道を歩いていると、看板が一枚立っていた。
[ 夜空ノ博物館へようこそ ]
プラネタリウムか写真館かな。
その館名には、少し心惹かれた。
夜空も博物館も、静かで人が少ないのがいい。どちらもあるなんて、いったいどんなところだろう。
[ ←この先800m ]
標識に沿って住宅地の路地を歩いていくと林道に出た。月あかりが道路を照らして、秋の虫たちがリーンリーンと鳴いていた。
涼しい音。もう夜は真夏のように暑くない。空気はすっかり秋になっている。知らないうちに。
そのまましばらく細い道を行くと、角を曲がったあたりで野原に出た。遠くの方にはライトアップされた大きな看板が、おいでと誘うように立っている。
[ 夜空ノ博物館 ]
白い建物の上に銀色の半球ドーム。プラネタリウムか、あるいは天体望遠鏡かもしれない。
自動ドアを通り抜けると、館内は真っ暗だった。
「観覧される方は、先にチケットをお買い求めください」
カウンターの奥から声がした。
目が慣れてくると、暗いながらに非常用のランプだけはついていたので、足元はぼんやりと見えるようになった。
チケットは、中学生以下無料、15歳以上の学生は300円、大人は500円で、現金のみ対応とのこと。
「大人一枚、お願いします」
500円払ってチケットを受け取ると、カウンターの事務員さんはニコッとして、楽しんでくださいね、と送り出してくれた。
エントランスから展示室へは黒いカーテンで仕切られていた。ぱさりと入ってみると、中はさらに真っ暗だった。
秋の虫が鳴いていた。ずいぶん壁が薄いんだと思った。それに、風が感じられる。とても自然な風だった。
目が慣れてきたと思ったら、建物はコンクリートの壁だけで、窓がたくさんあいているほかには何もなかった。窓から見た外は…見渡す限りの草地だった。
夜露に湿った草の匂い、風に靡く音。空は真っ暗で、降ってきそうなくらいにたくさんの星々が、星座も分からないくらいに無数にきらきらと瞬いていた。
展示パネルには、晴れた九月の夜空、と書いてあった。
きれいだな、と思った。
こんな夜空が、世の中にはあったんだ。
しばらく眺めてから館内を出た。
明くる日にまた行こうとしたけれど、それ以来、どうしても案内板を見つけられなくて、行き着けなかった。
チケットも、どこかに置いてきたんだと思う。
でもお財布の中身は減っていたし、夢ではないと思っている。




