女子アナの闇。
[第4話] 女子アナの闇。
私は某局に務める女子アナ。
名前は満千夏。
入社10年になる中堅どころ。
女子アナと言っても局の社員...。
仕事の始まりは、入社後に行われる研修。原稿読みの研修から始まり、新聞に目を通してニュースを把握して社会の動きを読む。初めての撮影は、明け方のニュース番組からデビューといった形だ。
華やかなお仕事と取られがちだが実情は苦労が絶えない...。
現場入りは誰よりも前乗りで朝は早い。時間的には朝というより夜中だ。
それでもやはりテレビに出るだけあって人気が出れば、各方面で活躍できる。ニュースを読むよりもバラエティ担当の時期が多いこともある。
そんな私の任務は、人気が出るとフリーになったり、グラビアを飾ったりと、本職から道を外れていく人達を食い止めることだ。
「食い止めるって、イチ社員だけど芸能人じゃないし、何も言えないんじゃ?」
「女子アナの中には、腰を据えてフリーにはならないと決めている人もいるし、特に心配はしてないんだけどね...」
しかし、時代は柔軟性を重視する方向にあり、タレントとしての活動は誰にも止める権利はない...。
新入社員でも人気が出れば、すぐに路線変更して退職してしまうこともあるんだよね...。
でも、それが長続きするとは限らない現実も目の当たりにしてきた...。
先輩達が一生懸命に研修で手解きしたのに、会社を辞めちゃうってどうなの...?
一般企業なら大問題だ...。
いくら柔軟性といっても限界があるんじゃないの...?
そんな事を考えていても、私に任務があることに変わりはない...。
これは本部の指令だし、捜査しないといけないよね...。
どこから始めようかな...?
まずは上司に相談だね!
「私の周りって結構な割合で辞めちゃう人多くないですか?」
「まぁね〜。その人の人生だし、あまり口出しするのは簡単な事ではないんだよね」
「フリーになると雇用関係ではなくて個人事業主となる訳なんだけど仕事内容も自由に選択できるからフリーは魅力的なんでしょうか?」
「詳細は分からないけど、局としては入社したからには、長くいてもらいたいんだけどね...」
「もしかしたら、報道には表現の仕方に規制があるから、フリーになって自由に表現したいのもね...」
「でも発言の責任は全部個人が持つ事になるから、覚悟の上なんだろうね...」
まずはアイドル的に扱われている新人の若い子から行くか!
私は早速、新人の子に尋ねてみた。
「女子アナって競争が激しいですよね。持ち場によって扱いが違うし、人気の出方もタイミングが重要みたいですし...」
「新人なのにしっかり分析しているんだね...」
「ありがとうございます!私、千夏さんみたいに、がんばります!」
偉い...!
私は、持ち場について少し気付いた事がある。
全てではないが、一般的な会社ではある持ち場に入ると、ずっと同じ場所に居続ける傾向にある...。
色んな持ち場をやらせて全体像を作り上げる方が面白くて良いと思うんだけど...。
定期的に持ち場をルーティーンで回していけばオールマイティーに活躍できそうなのに、慣れたらずっと同じ場所に居続けるというシステムが引っ掛かる...。
これは私の考えになるんだけど、
局も一定の持ち場が安定すると中々人が入れ替わらない傾向にある。
真面目に報道を読んでいたと思ったら、次はバラエティ番組でパイを顔に食らっている姿があっても良いと思う。
その人の色んな面が見れて面白そうだし、視聴者も見飽きないと私は考えた...。
もしかしたら、ずっと同じ仕事をしたくないからフリーになりたいのかな...?
まぁ、本音はわからないけど、まずはフリーについて知るためにもフリーになった先輩アナウンサーに尋ねてみるか...。
本音を聞き出すには、人対人だと、オブラートに包まれる傾向があるため相手の気を緩める必要がある...。
そこで登場するのが、私の秘密兵器。
私が猫に化けて潜入するのだ。
まず、家に入るためには...。
猫好きのあの先輩なら庭に忍び込んで鳴いてたら迷子と勘違いして家に入れてくれるかもしれない...。
早速潜入開始だ。
計画通り鳴いていると、まんまと拾われ家の中に潜入できた。
ちなみに先輩は、独身の私と違い、結婚していて家もデカい...。
うらやましい...。
先輩は酒を飲みながら猫(私)を可愛く撫で撫でしていると、急に旦那さんに愚痴をこぼし始めた。
「実はもう少し局にいたかったの」
「私の時代は規制が厳しくてなかなか自由に動けなかったの」
「世間に対して局アナのイメージの定着とか気にして思うように自由な表現ができなかったの」
「だから思い切ってフリーに転身したの」
「そう決めたんならそれでいいんじゃない?」
「でもそれは自分の心次第なんじゃない?」
「今は当時と違うかもしれないけど、あの時もっと自分を晒け出せていれば変わったかもしれないよね」
「そうだね...」
「結局は自分自身だよね...」
「これからも色んなものを晒け出して楽しむよ」
お酒のせいなのか、猫が癒しになったのか分からないが、旦那さんが先輩の心の闇を解いてくれていた。
これで潜入の任務は完了。
今後の問題解決に繋がった。
安心したのも束の間、変身のタイムリミットの1時間がとっくに過ぎている。
裸で先輩の上にいる。
すいません!驚かせて...。
横では、旦那さんの股間に変化に目を覆う...。
私にはすでに逃げ場はなく、言い訳は出来ないので正直に謝った。
実は闇の組織で任務に就いている事を全て打ち明けた。
この事は内密にと事の経緯を話すと先輩は一応納得してくれた。
証拠に目の前でもう一度猫に変身してみせた。
任務で聞き出した先輩の本音は、気付いたら自分の心に変化をもたらした。
もはや、女子アナを食い止めるどころの
話ではなくなってきた。
最終的に私は任務を利用する形で、決意が固まった。(職場移動は特に任務規則の違反にはならない)
そして千夏は先輩の家を後にした。
次の日、局入りした千夏は上司に
フリーになる胸を伝えるのであった。(実はお笑いがやりたい...。)