【短編】えーと、宰相様「君を愛する気はない」って言ってませんでした?
政略結婚。
双方の家の利害が一致した、とても素晴らしい結婚の形だ。
――本人たちを除いては。
「オリーヴ嬢。私が君を愛することは一切ありません」
婚約を交わしたその日に、何が悲しくてそのようなことを言われなければならないのだ。
我が婚約者――シリウス殿は、嫌みなほどきれいなストレートの銀髪をさらりと揺らし、続けた。
「私、女性は苦手なんです。公の場に出るときに、婚約者としてふるまっていただければ、かまいませんので」
「一つ、質問してもいいですか?」
「許可します」
パーティー会場のバルコニーで、謎に学園のような会話を繰り広げる。なんだこれ。
「シリウス様が私を愛さないということは、私はシリウス様を愛してもいいんですよね?」
「は?」
氷の宰相と言われる彼の表情が、初めて崩れるところを見た。
そんな姿も美しいからずるい。
「何を言ってるんですか?自然豊かなところで育ったご令嬢は冗談がお上手ですね」
田舎育ちは嫌みも通じないのか、と言いたいのだろう。
そうだ。私は通じない。
「まあ、任せてください。シリウス様の立派な婚約者になってみせますよ」
「すでに不安なのですが」
本来私のようなはねっかえりの令嬢と結婚するメリットは何もない。褪せた金髪に暗い緑色の目は社交界でも笑いの種だ。所詮私は田舎娘。
実家が辺境伯であることを除けば、だが。
「シリウス様って優しいですよね」
「は?どうしました?」
「家目当てでも、私を誑し込めばいいでしょうに。愛さない宣言だなんて」
シリウス様は顔を背ける。
「……効率が悪いと思っただけです」
私は知っている。彼には想い人がいることを。有名な噂だ。宰相閣下には、恋人がいる。
赤髪の綺麗な、メイドらしい。
そのため、縁談を断り続けていた宰相にも年貢の納め時が来たわけだ。
「一人前に罪悪感を感じてて可愛いですね。シリウス様」
「性格が複雑骨折してますよ、オリーヴ嬢」
「で、宰相様が疲れた顔してたのは、そういうわけか」
パーティーから屋敷に帰ると、さっそく弟に嫌みを言われた。
「私は宰相様のこと、好きなんですけどね」
「男の趣味最悪。あいつの笑顔、なんか怖いんだよ。姉上と婚約したのだって、家目当てだろ?」
「いいんですよ。私の家の目当ても他にあります」
「はいはい。家が貧乏で悪うございましたね」
彼は結婚にあたって、多くの資金をこちらに回してくれた。
名ばかりの辺境伯としては願ったりかなったりだ。
それに……。
「あれで、可愛いところもあるんですよ。泣き虫ですし」
「泣き虫……?想像できん。
で、姉上、今年の薔薇の件なんだけど」
エステラ王国の中でここら辺の地域は暖かく、花が良く咲く。私の庭にも大きな薔薇園があった。
「ああ、あとで話しておきます」
この国の貴族は魔法が使える。一人一つ異名があり、それにまつわる魔法を使えるのだ。≪花≫の魔法使いである私は、花と話すことが出来る。
「ミズタリナイ」だの「ヒリョウヨコセ」だの分かる為、結構便利だ。
次の日の朝、薔薇園につくと、いっせいに花たちが話しかけてきた。
「オリヴ。ミズチョットオオイ」
「ネグサレシチャウ」
「ムシツイタ。トッテ」
「はいはい。」
鼻歌交じりに手入れをしていく。
「オリヴ。ウタヘタ」
「余計なお世話です」
「ソウイエバ、シリウスキタヨ」
「え!何してました?」
婚約パーティー前後、シリウスは私の屋敷に逗留している。
花に心などあるかと言い放ちそうな顔だが、彼は結構お花が好きなようだった。
「ナンカサガシテタ」
「ネー」
「ネー」
「もっと詳しく……」
「何をしてるんですか?」
「うわあっ」
気が付くと後ろにシリウスが立っていた。
「お花と話していたんです」
「花に心なんてあるわけないでしょう」
「……」
宰相様の魔法は≪氷≫だったはずだ。私と同じように氷と話せたりするのではないだろうか?
「ダトイイネ」
ほらお花たちもそう言っている。
「そんなはずないでしょう」
「心を読みました!?」
「口に出ていました」
「まあ、貴女は面白い人ではあるようだ。ただし、最初の約束は守れそうで何よりです」
にこやかに笑いながら毒を吐く。
最初の約束とは……あの愛さないとかいうやつだろう。
「カタオモイ」
止めろお花。事実を浮き彫りにするな。
私はじっと宰相を見る。
「?」
戸惑うアイスブルーの瞳は、銀糸の髪に良く映える。社交界でも令嬢の憧れだろう。
まあ、赤髪の想い人がいるから断っているそうですけどね。
はははは。
「はぁ」
「情緒不安定ですか貴女は」
「恋する乙女も複雑なんです」
宰相は、少し考え込むように口元に手をあてました。
「オリーヴ嬢。しばらくしたら王都に来ませんか?」
「それはっ デートのお誘いですかっ?」
「急に元気になりましたね」
シリウスは顔をそらして、「そんなところです」と続けた。
「考えが変わりました。貴女に一方的に惚れてもらえば、こちらも動きやすいというものです」
にこやかに笑って私の手を取る。
私は手を引っ込めたくなる。豆や傷だらけの手でお世辞にも綺麗とは言えないからだ。
「よく働いている。いい手ですね」
そんな手をシリウスさらりと褒める。
……ずるい。
そして彼は
――口付けを一つ落とした。
「っ」
顔がみるみる赤くなるのがわかる。恥ずかしい。これでは田舎者丸出しだ。
ぐいぐい攻めることで恋愛経験の無さを隠すつもりだったのに。
これでは、婚約者間パワーバランスでは私が不利です。
「ふふっ。結構、可愛いところもあるんですね」
案の定宰相はくすりと笑った。
「ふふっ……ふふっ、ふふ」
というかツボにはまっている。
「ふふっ。だって貴女。口づけしてから、瞬きひとつしていないですよ」
「は、初めてなんですから!そ、そういうこともあります」
う~。昔はあんなに泣き虫だったくせに~!
「もう、帰ります!」
私は農作業着を翻して部屋に戻る。宰相様から見えなくなったあたりで、手をきゅっと組んだ。
シリウスは昔に比べてひどく性格がねじ曲がってしまった。
でも、
「デート、楽しみ」
火照る頬を抑える。
何を着ていこう。
私がシリウスと最初に出会ったのは、5歳の頃だった。
父の用事で王宮に来ていた私は、庭で泣いている一人の少年を見つけたのだ。
お花たちが「シンパイ」「ダイジョブ?」とささやいていた。
「なんで、泣いてるんです?」
綺麗な少年だった。まるで物語の中から出てきたみたいと、そう思った。
「皆僕が不義の子で不出来だというんです。宰相の息子に相応しくないと」
「そかー」
急に難しい言葉を言われ、意味のわかっていなかった私は適当な相槌を打つ。近い歳のはずだが、精神年齢はずいぶん違いそうだ。明らかに不出来なのは私のほうだ。
「ではいいものをやろう」
私は偉そうなことを言って、お花に話しかける。
「おはなさかして」
「ショウガナイナー」
「ハナヅカイアライ」
「……ください」
ブーイングが出たので言い直す。
「イイヨ」
その声が聞こえたと同時に、庭にあった一面の薔薇の花が咲き始めた。
かぐわしい香りと花びらが一面舞い散り、視界を覆う。
「綺麗……」
少年が泣きやみ、初めて笑顔を見せた。
「素敵だね……」
銀糸の髪がキラキラと光ります。
幼い私は目を見開いた。当時私も自分の能力に悩んでいました。なんに使えるわけでも、誰かの役に立てるわけでもない≪花≫の異名。
それが、王子様のように綺麗な少年を笑顔に出来たのだ。きっと彼は忘れてしまっているけれど。
どんなに私が嬉しかったのか。シリウス様は知らないのでしょう?
デートの日は案外すぐにやってきた。
一週間かけて選んだ町娘風ドレスに身をつつみ、待ち合わせの門に向かう。
「かわいいですよ。オリーヴ嬢」
「シリウス様もよくお似合いですよ」
褒められた。嬉しい。
内心上がるテンションを抑えつつ、街を散策する。
シリウスは少し疲れているようだった。この日のために公務を詰めてきたそうだ。
「わっ!シリウス様。知らないお花がありますよ」
「王都のほうでもたまにしか見ない花ですね。買いますか?」
花屋を散策したり。
「私の行きつけの店です」
「難しそうな本ばかりですね」
本屋に案内されたり。
「何か食べますか?食用の花を使った料理店なんかもありますけど」
「食べたいです!」
「ふふっ。楽しみですね」
ランチを食べたり。
あれ?
あれ?
あれれれ?
これって普通にデートなのでは!?
私の好きなお花を基準にしたデートコースだったり、なんだか愛されている気がする。
普通に楽しい。
市井では、デートの際は手をつなぐという。エスコートとはまた違う素敵行為。
私は意を決した。
このデートで、手をつないでみたい。
「どうしました?オリーヴ嬢?」
「い、いえ」
私はほんの少し手を彼の方に近づける。
あと少し。
ほんの少しで手が触れる。
私はぎゅっと目をつむった。
と、その時。
「オリヴ。ダレカツイテキテルヨ」
先ほど買った花が、囁いた。
スッと手足が冷える思いがする。
(勝手に一人で舞い上がって、私、馬鹿みたい)
心の中でつぶやいた。
誰かがついてきているということは、このデートは、最初からそのためにあったのだ。
シリウスが私達の仲を見せつけるための時間。要するに公務なのだ。
私は手をぎゅっと握りしめた。
「オリーヴ嬢。次は演劇でも見にいきましょうか」
「はい」
分かっていた。彼が私を愛することなんてないと、わかっていたのに。
なんで、こんなに胸が苦しいんだろう。
演劇を見終わったころには、夜になっていた。王都は夜でさえ、明るく、騒がしい。
前を歩いていたシリウスが、ふと振り返り、耳元でささやいた。
「オリーヴ嬢。女性は何を贈られると嬉しいんでしょうか」
「……贈り物、ですか」
なんで、そんなことを私に聞くのだろう。
答えたら、贈り物は誰にあげるんだろうか。
赤い髪のメイドが、シリウスから贈り物に喜ぶ姿を想像し、胸が締め付けられる。
「装飾品なんかいいんじゃないですか?世の女性は喜ぶと聞きますよ」
「いえ、世の女性ではなく、貴女の意見が……」
こんな汚い私、シリウスの傍にふさわしくない。
パシッと乾いた音がする。
のばしてきたシリウスの手を振り払ってしまった。
「……そんなに知りたいなら」
「オリーヴ嬢?」
「赤髪の恋人にでも聞けばいいじゃないですか!」
「はあ!?何を言って――」
私はシリウスの言葉も待たずに走り出した。
夜の街は、賑やかで、私もすぐに溶け込めた。
シリウスは知らないだろう。
幼いあの日以来、何度私が彼のことを想ったか。
赤髪の恋人の話を聞いた時、どんな思いだったのか。
婚約の話を聞いた時、どんなに嬉しかったのか。
――愛さないと言われてどんな気持ちだったのか。
走って。
走って。
走りつかれて、立ち止まったその時、
後ろから声がした。
「やっと一人になってくれた」
その瞬間視界が真っ黒にそまる。
「え?」
「≪影≫よ。私達を運びなさい」
振り向くと、フードの人物が何やら魔法を唱えていた。
止めようとするが、ひどい吐き気に襲われる。
誘拐?一体何のために?誰が?
風でフードが揺れ、フードの人物の姿が露わになる。
その女性は
――赤い髪をしていた。
そして私の記憶はとぎれる。
↓↓↓シリウスの独白
「オリーヴ嬢!」
走り去っていくその後ろ姿を追いかける。
しかし、人込みにもまれ追いつけない。
「シルヴァ!ノア!」
隠していた護衛に指示をだす。
「「はっ」」
二人もすぐに追いかけるが、間に合うかはわからない。
そういえば、彼女は園芸で足腰を鍛えていると言っていた。
「くっ」
失策だ。
あの女が近くにいるかもしれない。オリーヴ嬢を危険にさらしてしまった。
オリーヴ嬢と再会してから何かおかしい。
彼女の様子がおかしかったのに、何も出来なかった。
これ以上何か言って嫌われるのが怖かった。
今日のデートも作戦の一環だというのに、自分も思わず楽しんでしまっていた。
人込みをかき分け、必死で彼女を探す。
――悪夢の始まりは、ただ新しいメイドが来たことだった。
赤髪の彼女は、私の顔を大層気に入ったらしい。
そして、あることないことを周りの人間に吹聴し始めた。
「宰相は赤髪の恋人がいるらしい」
その噂がたつのに、時間はそうかからなかった。
メイドを辞めさせられた後も、彼女は私の周りの女性に危害を加え続けた。彼女は≪影≫の魔法を使い、そのせいでなかなかつかまえることが出来ずにいた。
そしてある日、手紙が届いたのだ。
「貴方の初恋のひと、≪花≫の魔法を使うのね」
私は、初恋の人、
オリーヴを守るため彼女と婚約を結んだのだった。
最近辺境伯の領地に赤髪の女が出没していると聞き、こちらに呼び寄せた。
それなのに彼女を見失ってしまっては、元も子もない。
幼い頃、花の中で微笑む彼女に恋をした。
薄汚い自分では、手をとってはいけないひとだと思っていた。
自分だけが覚えているだろうささやかな思い出は胸にずっとしまっていた。
愛する気はないと言ったのも一時的な関係になると思ったからだ。
赤髪の女から守るための一時的な関係。
でもこんなことになるのなら、もっと素直に気持ちを伝えておけばよかった。
「オリーヴ!」
街はずれまで来たとき、私は気づく。
野草の花が道をつくるように咲いていた。
↓↓↓オリーヴサイド
「目が覚めたかしら」
「あ、貴女は……」
痛む頭を押さえ私は身を起こす。どうやら小さな小屋の中のようだ。
「ピンチダ」「ピンチ」外からひそひそと花たちの声がする。周りには草花があるらしい。
窓からは月明かりが強くさしこんでいた。
赤い髪の女は、私の足を踏み付けた。
「っ」
「よくも。よくも。よくも。よくも私のシリウスに手をだしてくれたわね」
「シリウス様……」
彼は無事だろうか。無事だといいな。
今までは、彼女こそがシリウスの恋人だと思っていた。
しかし、誘拐されたことといい、尋常な様子ではない。
逃げなければ、殺される。
本能がそう告げていた。
赤い髪の女は、口元だけをつりあげた。どうやら笑っているらしい。
「ねえ、誓ってくれる?じゃないと私、殺しちゃうかも」
「何を」
「シリウスに、一生近づかないって」
「――は」
女がナイフを私の首元に寄せる。
シリウスの色々な表情が走馬灯のように、頭をよぎる。怒った顔、呆れた顔……それに笑った顔。
愛さないと私に宣言していたとき、彼はどんな顔をしていただろう。
なんだか、今にも泣きだしそうな子供みたいな顔をしていた気がする。
ここで、口先だけでも近づかないと言えば、もしかしたら助かるのかもしれない。
でも
「嫌です」
私は、正面から女を睨む。
「私は、シリウス様を愛していますから」
何年片思いをしたと思っているんだ。
あの人が私を愛してくれなくとも、私は彼を笑顔にしたい。
それだけは掛け値の無い真実だった。
「こっ!!この泥棒女!!!!」
女は怒気で空気を震わせ、私の喉を切り裂こうとした。
ナイフの光の軌跡までが綺麗に見える。
私、ここで死ぬんですね。
その瞬間。
「≪氷≫よ。」
聞き覚えのある、声がした。
女の腕がピタリと止まる。いや、正確には停止させられた。
彼女の肩全体が、氷の柱に掴まれたのだ。
戸口から強いカンテラの灯りが近づいてきた。鼻の奥がツンとする。
彼が、私を迎えに来てくれた。
ずるい。彼は、何度私を惚れさせるつもりだろう。
「すみません。オリーヴ嬢、遅くなりました」
その影――シリウス様の姿を見て、赤髪の女はわめいた。
「シリウス!私のシリウス!!」
「私は貴女のものではありませんよ。しいて言うなら、私はオリーヴ嬢の婚約者です」
それに、と彼は付け足した。
「彼女を傷つけたことを、私は決して許さない」
冷たい声色とともに部屋の気温が一気に下がる。部屋のあちこちで氷が結晶となって現れた。
「なんで……?そう。その女に操られているのね。可愛いシリウス。助け出してあげるわ」
女は早口で呪文を唱えだす。彼女の周りの暗闇が意思をもつかのように不気味に動き始めた。
「≪影≫よ……」
「流石に、こちらも対策していますよ」
シリウスは言い、私を庇うように前に立つ。
そして一歩踏み出した。
「≪氷≫よ。煌めけ」
その瞬間、氷が細かく割れた。
カンテラの灯りや月灯りを反射で増幅させ
空間が白く染まる。
その一瞬を見逃さず、彼は女に詰め寄った。
「≪影≫は光の中ではつかえないでしょう?」
「ひっ」
女は一歩後ずさる。
しかし、シリウスは冷たく微笑んだ。
「もう、御終いにしましょう」
最終的にどうなったかというと、女は氷柱になった。後から到着した二人に連行されていく。
「生きてはいますよ。ただ、これから死ぬほうがましだったと思うかもしれませんが」
冷たく笑うシリウスに、氷の宰相たる所以を見た気がする。
私はと言えば、シリウスから借りた上着を羽織っている。隣には澄ました顔をしたシリウス本人。
5月とはいえ夜はまだ肌寒い。
私は少し手をこすった。
「……心配、してくれたんですね」
「当たり前でしょう。貴女は婚約者なんですから」
「私、惚れなおしました」
「……ご冗談を」
冗談なんかじゃないことは、私が一番知っている。
「シリウス様、貴方が好きです」
ついに、言ってしまった。しっかりと、茶化さず、本音で。
声が震える。涙が浮かぶ。
拒絶されたらと思うと怖い。きっと私は耳まで真っ赤だ。無様で凡庸な田舎娘。
いやに私の心臓の音が響く。
「私は」
隣で彼の声がする。
「私は、薄汚く、面倒な男です。とても貴女の傍にいていい人間じゃない
――その、はずなのに」
隣を見ると、彼の耳は真っ赤だった。
私と同じ。
私と同じ?
彼は私をまっすぐ見つめる。
「どうしようもなく私は、貴女と共に生きてゆきたい」
「そ、それは」
驚いた私が、彼を見つめるとパッチリと目が合う。シリウスの白い肌は、心持上気しているように見えた。
もしかして、照れている?
私は身を乗り出した。
「あの、私のことを愛さないって」
「顔が近いです。オリーヴ嬢」
「愛さないって言ってたのは」
「だから顔が」
混乱してさらに詰め寄る私に、シリウスはついに根負けしたようだった。
氷の宰相様は、呟いた。
「……あれは……嘘です」
「え」
しばらくして、シリウスは開き直ったのか天使のような笑みを浮かべた。
目が笑っていない。
「言っておきますけど、私独占欲強いですからね。」
「え」
「滅茶苦茶、嫉妬深いですし」
「え」
「これから溺愛しますから。覚悟していてください」
「え」
混乱する私をよそにまくしたて、最後にシリウスは私の手をとった。
「さあ、式はいつにしましょう?」
「オリヴユカイ」
「オアツイネー」
「ソウダネー」
花たちの笑い声が、風によって流れてくる、そんな夜のことである。
読んでくださりありがとうございます。お花が意外と毒舌じゃね!?と思った方は☆を押して頂けると幸いです。
また、同じ世界観で別の小説も投稿しているので、よければそちらもどうぞ!
↓
【妹とどうかお幸せに。私は身投げいたします】