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1 最初からクライマックスじゃよ

魔界の宰相が勇者を相手にがんばるお話です。

よろしくお願いいたします。

 「ぐのわぁああああああああ!!」

 大広間に響き渡る声。

 

 次の瞬間には床へ叩きつけられ、地べたを何度も転がる。


 慌てて起き上がるが……追撃はない。


 奴らは武器を構えたまま、じっとこちらを睨んでいた。

 中央の少年は、(まばゆ)い光を放つ(つるぎ)を構え直す。

 

 その忌々しい剣を見て、儂は呟くのだった。

 「ばっ……馬鹿な……この(わし)の五行結界が打ち破られるはずが……あり得ぬ、あり得ぬぞ……五行結界を打ち破るには全ての属性魔法を同時にぶつける必要がある。だが、木属性魔法の使い手であるエルフ族はあの日、たしかに根絶やしにしたはず……」

 

 どこか説明口調なセリフを吐き終えれば、奴らの一人が(おもむろ)にローブのフードを(まく)るのだった。

 

 フードの下から現れたのは、人形のように整った顔の少女。

 そして、少女の耳は細長く尖っているのだった。

 

 「馬鹿な!なぜエルフが!?ふむふむ……何だと?運よく飛魚便で逃げおおせた……だと!?ふむふむ……しかも、貴様は族長の娘であり、いわゆるハイエルフであると!?」

少女の口から明かされる衝撃の真実。

 エルフの姫はさらに続ける。


 エルフ特有の美しい声色で紡がれたのは、お涙なしでは語れない、あの日の悲劇に辛い逃亡生活。

 話が進むにつれ、少年たちの怒りのボルテージが上がっていくのを、この距離からでもヒシヒシと感じる。


 儂は話を聞きながらも、こっそりと回復魔法をかけておく。



 そして、中央の少年がよく通る芯のある声でこちらへ尋ねかけてくる。

 それに対し、儂は答えるのだった。


 「あぁ!そうだ!周辺諸国を焚きつけ、エルフの国を襲撃させ、さらにそこで起きた悲劇を……全ての罪をエルフ族へ被せたのはこの儂。そう、すべては魔界宰相デズモンドの策略だったのだ!エルフの姫よ。儂が憎いか?親兄弟の仇である、この儂が憎いか!?」

 急にこみ上げてきた笑いを止めることができず、年甲斐もなく大笑いしてしまう。

 

 激高する少年たち。

 それを尻目に儂はさらに語るだった。


 「(めい)()の土産にいいことを教えてやろう。その魔法使いだけではない。勇者と僧侶、貴様らの故郷の村が焼け落ちたのも……武闘家、貴様の父に魔物が成り代わって国が滅茶苦茶になったのも……ここにはいないが魔物使い、アヤツの姉が貴様らの前に敵として立ちふさがったのも……すべてはこのデズモンドの策略だったのだ!!」

 高らかな笑いと共に、大声でそう告げる。


 どうしたというのだろう。

 普段なら己の(はかりごと)を無暗にひけらかしたり、無駄に告げたりなどはしない。

 だが、今ばかりは気持ちを抑えることができなかった。


 とはいえ、効果はてきめん。


 雄たけびと共に、まっすぐこちらへ突っ込んでくるのは、少年改め勇者。


 ふむ……これは好都合。

 語りながらも、こっそりと準備を進めていた魔法を発動させる。



 「さらばだ、勇者よ!貴様の敗因は儂に時間を与え過ぎたことだ!」

 そう叫びながら、指先に灯った黒い光をそっと向ける……ヤツの仲間に向けて。


 すると、勇者は急旋回し仲間のもとへ駆けつけ、魔法をその身体で受け止める。

 そうよな……勇者ならそうするよな。


 次の瞬間には力なく倒れ、苦しそうに呻く勇者。

 仲間たちが駆け寄るが……もう遅い。


 僧侶が回復魔法や蘇生魔法を試しているが、その効果は(かんば)しくなく、僧侶は焦りの表情を浮かべていた。


 そう、無駄なのだ。

 何せこの魔法は、どんなにレベルが高かろうと、どんなに体力があろうと一瞬にして命を刈り取る、究極の死の魔法なのだから。

 勇者の耐性や行動を研究し、いずれ来るだろうこの日のために開発改良を重ねてきた、儂のオリジナル魔法。


 いくら勇者といえ、喰らってしまえば一貫の終わりなのだ。


 この魔法を無効化しようというなら、それこそ超級の魔法耐性を有する『青竜の逆鱗』が必要だ。

 だが、そんなものを都合よく持っているわけない、持っているはずがないのだ。


 何せ、青竜族の逆鱗は一つ残らず回収してあるのだから!

 奴らに倒されて、万が一ドロップでもしたら大変だからな。

 あらかじめ全て剥がしておいたのだ!


 まぁ……青竜族にとって逆鱗は特別な意味があったらしく、別の意味で色々と大変だったのだが……まぁ、それはともかく。


 やつらが『青竜の逆鱗』を有する可能性は一つもない。

 一つとしてないのだ!


 さらばだ勇者!



……。


……。


……。



 おかしいな……苦しんでいるようだが、いつまでたっても死ぬ様子がない。


 ふむ……儂も初めて使う魔法だしな……もう一発撃ち込んでみるか?


 そんなことを思っていると、徐に勇者が立ち上がる。

 歓声に沸く奴の仲間たちと、驚きを隠せない儂。


 そして、勇者は胸元からキラリと輝く青色のナニかを取り出した。

 「あれは……『青竜の逆鱗』のペンダント?いや、違う……あれはまさか『蒼龍王の逆鱗』だと!?なぜ貴様がもって……何!?母の形見!?」


 衝撃の真実。

 まさか都合よく青竜の逆鱗のペンダントを所持していたとは。

 しかも、それがたまたま偶然、儂の魔法に当たるとは。

 なんという強運!


 だが、問題はない。

 今一度当てれば問題はない。


 こんな偶然何度も起き……。

 そこで周囲の違和感に気づく。


 「こっ、これは……アンチマジックエリア!?」

 いつの間にか、魔法を打ち消すアンチマジックエリアが展開されていたのだ。

 発生源はあのペンダント。

 強い魔法を受けたことで、秘められた効果が発動した……とでもいうのか?

 

 しかも、僧侶や魔法使いにはアンチマジックの効果は及んでいないらしく、どういう理屈か、儂の魔法だけが封じられた形だ。


 母が見守ってくれているなどと、勇者はほざいている。


 これは少しばかり不味いな……。


 勇者はこちらの表情を読み取ったのか、高らかに宣言したのち、全員でこちらに襲い掛かってきた。


 だが、甘い!

 甘すぎるぞ!!


 「このデズモンドが魔法だけしか能のない青二才と思ったか!?」

 瞬時に膨張する筋肉と巨大化する肉体。

 視線がどんどんと高くなるのを感じる。


 そして、心のままに咆哮をあげれば、ビリビリと空気を震わせる。


 迫力に圧されてか、思わず足を止める勇者一行。


 驚いたか!?これぞ奥の手の巨獣モード!!

 


 「この姿になるは実に100年ぶりだ……」

 いくらか低くなった声でそう告げながら、近くの柱に手を宛がう。


 そして、根元から柱を引き抜けば、こん棒のようにブンブンと振り回す。

 思わず目を細める勇者たち。


 ふふ、あまりに華麗な槍さばきに圧倒されているようだ。

 まさか魔法宰相たる儂が、武道にまで通じているとは思いもしなかっただろう。


 こんなこともあろうかと、日々鍛錬を重ねてきたのだ!


 玄武流棒術()()名誉師範代、竜泉空手()()帯の実力……しかと見るがよい!!


 「儂にこの姿を引き出させたことを誇るがいい……あの世でな!!」

 そう叫びながら、再度咆哮を上げる。


 勇者たちはひるむことなく、何かを叫ぶと向かってくる。

 そして、第二ラウンドが始まるのだった。


……。


……。


……。



 「ぐのわぁああああああああ!!」

 大広間に絶叫が響き渡るのだった。




読んでいただきありがとうございます。


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