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荼毘の蠍  作者: 六青ゆーせー
2/2

2赤毛

強化ビニール…。

それは耐久性に優れ、元々は軍服として普及した現代の鎧だった。


相当に高いはずだ。


それは赤く艶やかに光り、少年の体を輝かせて見せていた。


そういえば、きれいに切り揃えた髪も赤い。

染める…?


女優には、そういうことをする人もいるという。

また、吉原も高級店に行けば、化粧の一部としてそうした加工もするのだという。


大人に聞くと、吉原のシラビョウシも女優も、同じ穴に住んでいるのだという。

シラビョウシだった美女が、いつか大型スクリーンに艶やかにヒメとして映ったり、歌手になったりするのだ、という。


もしかしたらズーファも女の体になって、いつか全く違う名で、ダビも気づかぬ姿でそうなるのかもしれない。


ま、子供がさらわれたら、帰ってこないのはこの世界の常識だ。


赤い強化ビニールの服と、赤い髪を持つ少年は、また、手に金属を持っていた。


鋭利に光る、青い金属の刃。


途方もない高級品だ。


この少年は、おそらく鉄火屋の流を汲んでいるのだろう。


「あんた、なりは立派なのに、セコい真似するんだな…」


冷や汗を流しながら、ダビはしゃがれた声を出した。


ケケ…、と少年は笑い。


「金を出さないというんだな…」


少年の目の色を見て、ダビは気づいた。

刃物を使いたいのだ…。


金は、都合に過ぎない。

ただ、物取りに見せたいだけだ。


仮にダビが白い硬貨しか持ってなくても、全く構わないだろう。


はじめて手にした金属で、自分より小さな子供を切り刻む。


それだけが、この赤い髪の少年の目的だった。


アメ横を通れば良かったのだ。

動物園では、野良猫すら通りはしない。


「お…俺は、ガイスンのネズミだぞ…」


赤い髪の少年は、涼しい笑いを見せた。


「跡形もなく消えるのに、何を心配するんだ?」


跡形無く?


ただ殺すだけではなく、無論、売れる臓器は目玉から金玉まで解体して抜くのみではなく、その肉さえ、骨さえも始末するつもりか…。


確かに、鉄火屋には、そういう始末業者と付き合いがあるという。


彼は、ダビには縁の無い金持ち階級の人間だった。

ダビは、肉片にまで解体され、動物に食われるか、薬品に溶かされるか、腐った海に沈められるか、ともかく跡形もなく消えるのだ。


それも、金の問題ですらない…。

ただ、この赤く髪を染め、強化ビニールの服を着た少年が、初めて手にした金属を使って、人体を切り刻みたい…。

それだけが目的だ。


ダビに、身を守る術はない。


赤い少年は、ダビより頭一つ大きいし、筋肉も発達していて、しかも金属を持っているのだ。


ダビにあるのは…。


ふと、気づいた。


土地勘だ…。


そもそも誰も知らないと思って、動物園に回り込んだのだ。


彼は、金持ちだが、アメ横で見かけた事はない。

アメ横に住んではいないよそ奴だ!


奴は、住んでないから、ここへ金属を使いに来たのだ。


住んでいないところなら、仮に多少の目撃者があっても安全だからだ…。


ダビは考えた。


アメ横で見かけない奴が、こんな派手な姿でアメ横を歩けるだろうか?


歩けるはずはない!


歩けば、誰かに見られるし、アメ横に彼を守る鉄火屋はいない…。


と、すれば…。


車を使ったのだ。

おそらく、不忍池の先か、鶯谷か、あの辺から来たはずだ!


ならば、この動物園の、上か下に、車を待たしているはずだった!


ここで時間のかかる解体をしたりするはずはないし、初めて金属を使うガキが、専門知識のいる解体など出来るはずもない。


人通りは少ないとは言え、アメ横はこいつのシマではない。


殺し、思う存分、金属の切れ味を試したら、すぐに車に運び、解体屋に持っていくつもり…。


そうに決まっていた。


ならば上野の山に登るだろうか?

たいした高さは無いとはいえ、傾斜のキツいところもあり、しかも山の上は人目がある。

昔、ダビもそうだった浮浪者が、たくさん住んでいるからだ。


不忍池なら、バザーが終われば、あとは芋掘りがいるくらいだろう。


上だ…。


ダビは、なんとか自分を遮って刃物を光らせる赤毛を交わして、上に登らなければいけなかった。


不忍池に逃げると見せかけ、東照宮を昇ろう!


土地勘の無い赤毛は戸惑うだろうし、寺では炊き出しで人が集まっているはずだ!


ばっ、ときびすを返すと、ダビは木々の中に飛び込んだ。


「あ、まて!」


少年は、ダビが金を差し出し命乞いをすると思っていたのか、慌てて追った。


手には、金属が冷たく光っている。


戦争で磨かれたカルキン加工の金属は、触れただけで指ぐらいは落ちてしまう。


ダビは小枝の多いツゲの気の間を走り抜けた。


金属は、容易にツゲの小枝など落とすが、多分赤毛はそんなに雑には扱わないはずだ。


金属は、鋭いが、その分、下手が使えば、曲がったり折れたりする。


だから金属は長くても三十センチほどの長さなのだ。


扱いが難しい。


大丈夫、東照宮までは五分とかからない。


ダビは己に言い聞かせた。

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