道標 8
「伯爵様!」
「そうだよ。カティア」
カティアはそこでバッと頭を床につけた。
「カティア⁉」
伯爵の驚く声に、カティアはぶるぶると震えながら言う。
「ごめんなさい! 伯爵様! 私と離縁してください!」
「な!」
カティアはそのまま続ける。
「……すみません。でも、想い人が出来てしまったんです」
「それは誰だ!」
カティアはここで頭を上げて、伯爵の目を真っ直ぐ見た。
「ブラックン、さんなんです!」
「な!」
伯爵は先程と同様に絶句したようだ。
カティアはぎゅっと目をつぶる。
伯爵に何と言われようと、この気持ちは偽れなかった。
だが、どれ程たっても伯爵から何も言葉が出てこない。
それくらい衝撃的だったのだろうか。
恐る恐るカティアが目を開くと。
そこには真っ暗な部屋でも判るほど、顔を赤くした伯爵がいた。
「あの、伯爵様……?」
「そなたは、まだ気付かないのか……」
そこでカティアは、ようやく何かに気付いた。
ちょっと違うが、この声どこかで聞いた気がする……?
「これでも分からないか!」
突如伯爵が叫ぶと、ガバッと前髪を下ろす。
そして、
「……これでも、駄目ですか……?」
その長い前髪、そのぼそぼそとした話し方。
まさか。
「まさか、貴方は……」
カティアは震えた。
だって、だって目の前に居るのは。
「貴方が伯爵様だったのね……」
カティアは全ての合点がいったように理解した。
「いつも一緒に居てくださったんですね」
笑顔が自然とカティアの顔に浮かぶ。
でも、何だか急に気恥ずかしくなってきた。
そんなカティアを見て、伯爵がボソッと呟く。
「…………分かってくれたのなら」
「なら?」
しっかりとその呟きを拾ってカティアは聞き返す。
「さ、先程の告白は、受け取ってもいいの、だろうか……」
「告白」
カティアは思い出してボンッと顔から火を吹く。
そして。
「ええ、はい。……ブラックンさん、いいえ。伯爵様の事を愛しています」
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