99.空の章・怒帝
水爆のキノコ雲は、周囲の全てを破壊し、吹き飛ばす。
圧倒的な破壊の後、空からは放射能の黒い雨が降り、赤く熱した残骸の大地を冷す。
黒い雨の中には生命が三ヵ所、死天女とノンたちと青輝高速艇だけがバリアーに守られて存在する。
そして死天女の前には逆五芒星の残骸が現れる。
それは縦の長さが九メートル、幅は三メートルにも及ぶ巨大な石棺だ。その石棺の上部は高熱で溶けている。
シンニが言う。「これが太古の神と呼ばれた存在。」
レントゲンで中に大きな人の形があることが分かる。
アキラが言う。「多分、体のほとんどが機械と成って大きくなったのだろう。」
人体の各部分が金属でできているというレントゲンの反応だ。つまり、石棺の人はかつて体の各部分を取り替えつつ長い人生を持ったのだろう。
しかし、今の人類は、一度その科学による繁栄のほとんどを核戦争で失っていた。
シンニが言う。「もう逆五芒星の結界は消えたわ。」
アキラが言う。「いまさら遅いが、冷すか?」
シンニが言う。「ええ。もしかすると中は大丈夫かもしれないわ。」
アキラが言う。「暫くここで石棺を冷す。」
アキラたちが|青輝高速艇≪シリウス≫へ連絡後、石棺を冷し始める。
犬型機械武装の中にいるノンと円盤型機械武装の中にいるナナ子は、バリアーに守られて無事だ。
その二人は、少し離れた場所にいる。
前には、地下への連絡用の洞窟の穴が現る。
上にあった岩が吹き飛ばされた結果、現れたのだ。
ノンが言う。「行くワン。」
ナナ子が言う。「もちろんコン。」
二人はアキラとシンニに行くと伝える。
アキラが言う。「危なかったら連絡してくれ。」
シンニが言う。「石棺が冷めたら行く。」
円盤型機械武装に噛みつき犬型機械武装が中へ飛んで行く。
ノンたちが少し進むと地上の楽園という看板のある場所に着く。全てが洒落た家で、中には楽しく笑う神族の家族がいる。顔は全て美男美女であり、よく似ている。そして着ている服も全て同じデザインの平民服だ。(平民服には赤い逆五芒星が縫われた以外はポケットとボタンしかない。)
彼らは同じ事を繰り返し言っている。
男が言う。「ようこそ、地上の楽園へ私たちは心から歓迎します。」
女が言う。「どうか、ただですから飲み物を飲んでください。」
少女が言う。「どうか私の家に来てください。」
少年が言う。「どうかボクの家で寛いでください。」
ノンが大きな貯水施設を分析する。
ノンが言う。「覚醒剤が入っているワン。」
ナナ子が言う。「つまり、嘘つきの楽園コン。」
ナナ子は、家が作る影を見て、ほとんどが張りぼての家で、中まで入れるのは一軒しかないことが分かっている。
ナナ子が言う。「家が張りぼてコン。」
よく宗教は心の麻薬だという言葉があるが、均一主義も心の覚醒剤だという現実がある。
ノンたちはそこから離れる。
更に進むと、そこにはエデンの楽園という看板がある。
男も女も全裸の神族である。いろいろな木には様々な果物がなり、地面にも様々な果物がなっている。
そして人の数は地上の楽園より少なく、やはり同じ顔、同じ体型だ。
ノンが分析して言う。
「シリコンで形を整えた顔と胸とお尻ワン。」
ナナ子が言う。「偽りの天国コン。」
ここでも全ての水と食物に覚醒剤が入っている。
ノンたちは更に進む。
また、更に進むとそこには、痩せた平民服の兵士たちがいる。
彼らは全員、神族だ。そして、全員が痩せた覚醒剤の中毒だ。彼らは、吹き出物だらけで瞳孔が開き、ナナ子でも分かる甘酸っぱい臭いがする。
ノンが言う。「全員、タブル中毒者だ。」
ナナ子が言う。「救いようがない。」
心が均一主義、体が覚醒剤の心と体が中毒者は全員が破滅へ向かっている。
彼らは言う。「これ以上、先には進めません。」
彼らは説明する。「この先は行き止まりです。」
彼らは銃を持って言う。「この先に進むなら殺します。」
妙に高いテンションで彼らは言う。
更に進むノンとナナ子に対して銃を打ち始める。
彼らが叫ぶ。「殺せ。手段は問わない。」
彼らが手榴弾を持ってノンたちに特攻する。
彼らの肉体が飛び散る。
しかし、ノンたちのバリアーは全てを防御する。
ノンたちがかなり奥まで進むとかなり大きい空間があり、そこにある石の椅子の上に怒帝、魔流苦主がいる。
神族の魔流苦主はボサボサの髪と髭を持ち褌一丁の太った破壊神の行者そっくりだ。
魔流苦主が言う。「無限に別れ、無限に争うのだ。」
強烈な破壊衝動が周囲に洩れだし、幾つもの亡霊になり、実体化する。
実体化した亡霊が叫ぶ。「原始共産制を実現する!」
ノンが言う。「嘘ワン。」
人類の原始時代に置いて生産手段が共有であることは、一般的ではなかった。
ナナ子も言う。「自分の弓矢は共有しないコン。」
ノンとナナ子の確信に満ちた言霊が原始共産制の亡霊を消滅させる。
また別の亡霊が叫ぶ。「資本家を倒せ。皆が豊かになる。」
ノンが言う。「嘘ワン。」
ナナ子も言う。「資本家を倒して皆が貧しく為ったコン。」
ノンとナナ子の言霊が再び亡霊を消す。
更に別の亡霊が叫ぶ。「民主主義を守れ。」
ノンが言う。「建前だけワン。」
ナナ子が言う。「均一主義諸国は、ほとんど独裁国家。」
人民共和国の実体は独裁政治による人々の弾圧である。
三度、亡霊が姿を消す。
魔流苦主が立ち上げり、叫ぶ。
「万国の労働者よ、立ち上がれ。」
無数の亡霊が叫ぶ。
「職場を放棄して、鎖をたちきれ。」
ノンが言う。「労働貴族の嘘ワン。」
ナナ子が言う。「本当に飢えた者は立ち上がれない。」
労働組合員がいる会社は、大企業である。中小零細企業では、社長が一番働いている。むしろ|均一主義≪コミュニズム≫大国の|飢える者≪一般人≫が立ち上がり、自分たちの鎖を断ち切るべきだろう。
ノンが霊的障害消滅を願う。「オーム・シャンティ」
無数の亡霊が消える。
魔流苦主が怒りの炎で自らを巻き、巨大化する。
魔流苦主が叫ぶ。「全てを破壊し、全てを無にする。」
炎が魔流苦主の口からノンたちに向かう。
魔流苦主が叫ぶ。「滅びろ!」
しかし、ナナ子が搭乗する'円盤型機械武装からも炎が発射され間で衝突する。
その炎を通り抜け、ノンが魔流苦主に十字剣を突き通す。
ノンが言う。「迷惑ワン。」
破壊の為の破壊者、怒帝である魔流苦主が倒れる。




